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ー街と2人の少女ー



大きなビルが密集して聳え立つ街の中心地。

そこに大きな穴が空いたように、ビルが無い空間がある。その空間の真ん中には、直径500メートルほどの、大きく丸い芝生の土地が広がっている。


その丸い芝生の土地を囲うように、レンガを敷き詰めた街道が、円を描いている。


円状の街道から、等間隔で放射線状に延びたレンガの道が、それぞれビル群の中へと伸びている。

ここはかつて、この街に住んでいた人々が癒しを求めて集まった場所である。

「公園」と呼ぶそうだ。


綺麗な図形を模して作られたその道と芝生は、それは美しかった。

しかし人の手入れが加えられなくなって、かなりの年月が経ったことにより、芝生の草は伸び、レンガの下から押し上げるように生えた草が、敷き詰められていたレンガにヒビを入れ、ずらし、その規則性が故の美しさを、失わせていた。

この公園だけでは無い。


周りのビルなどの建物も、草が生い茂り、ひび割れ、すでに倒壊している建物も散見できる。


人間の文明など、浅はかなものなのだと嘲笑うかのように、自然は、その体躯を存分に伸ばしていた。


もうこの街には、人間は存在しないのだ。

そう、この公園にいる2人の少女を除いて。


公園の隅に、少し大きめの四輪駆動車がとまっている。街の中にたくさん置いてある乗り捨てられた車たちとは違い、今でもしっかりと整備され、先程ここまで走ってきた車である。


デザインはかなり古く、半世紀以上前のものだが、中身はまだ比較的新しく作られたもので、いわゆる「マニア」のために制作された一台だ。

後部座席には沢山の箱や工具が載っており、後ろにはスペアタイヤが掛けてある。


この四駆のとなりに、仰向けになり、青空を仰いでいる少女が1人いた。少女は、鳥を見ながら、


「なんで鳥は飛べるんだろ?羽があるからかな?もし私にも羽があったら…」


と呟いた。

すると、


「ねえシロ、手伝ってよ。さっき見つけたこれ、重いんだから」


と、寝そべっていた少女の声とは、違う声が少し離れたところから聞こえてきた。


仰向けで鳥を見ていた少女は、足を宙に上げ、その足を放る勢いを使い、ジャンプして立ち上がった。

自分の膨らむ妄想を強制的に終了させられたが、少女は不満な顔1つせず、気の抜けた笑みで、


「なんだいクロちゃん〜」


と、もう1人の少女へ歩み寄る。

「シロ」と呼ばれた少女は、歳にして17ほど。

細身ではあるが、健康的で少し筋肉質。身長はおそらく167ほどだろう。

カーキ色のミリタリーパンツ、黒のミリタリーブーツ、黒のタンクトップという服装である。


右足太ももには、サバイバルナイフを装着し、後ろの腰には、ハンドガンを装着していた。


見た目の中で、一際目立つのが、その髪色であった。

黒のタンクトップとは対照的な、純白の髪色である。

肩まで伸びたその純白の髪は、自身を左右にくねらせ、肩にかかっている。太陽の光を反射させ、美しく煌めいていて、まるで純白のカーテンのようだった。


伸びている右側とは別に、左側は短く、耳にかけている。

露わになっている耳には、イヤリングがゆらゆらと揺れている。

その揺れる光が、細くてしなやかな首筋の美しさを際立たせる。

人間が他にもいたならば、間違い無く「美女」と評価したことだろう。


「なんだじゃないよ」


今度は「クロ」と呼ばれた少女が答える。

火搔き棒のようなものを高さ30センチほどの木箱に引っ掛け、引きずっている。


顔は幼く見えるがおそらく同い年だろう。

ミリタリーパンツ、ミリタリーコートで身を包み、自動小銃を肩から下げている。

こちらは左太ももにサバイバルナイフを装着している。

髪は艶やかな黒色で、肩より少し上ほどの髪を2つ結びにしている。この髪型が余計に幼さを強調する。

体系はコートで分かりにくいが子供体型の様に感じる。

身長は154ほどだろうか。ブーツを履いているが、それでも小さい。


「それさっき建物の中で見つけたやつ?そういえば中見てなかったね。見てみようよ、クロ」


「だからその為に引っ張ってきたんだって。何回呼んでもシロ来ないし。」


ムッとした表情でクロがシロを睨む。

シロはまったく気付かずに、


「あははは、ごめんて〜。」


と笑っている。

はぁ、と呆れたようにため息をつき、クロがシロに


「これ見て、錠前がかかってるの。銃で開けてもいいんだけど、大きな音出すとアイツらが寄って来るかもしれないし、シロに開けて欲しいんだ。木製だし、いけるでしょ?」


と、錠前を指の先でコンコンとしながら言った。


「多分これならいける。ちょっと下がって。」


と言いながらシロは錠前を両手で持ち、片足で箱を抑えた。よっ!っという掛け声とともに錠前がついた金具ごと木箱の一部が壊れ、開くようになった。


「年月がある程度経っても腐らない丈夫な木材なんだけどな…これ…」


と、クロは驚いたように呟いた。


「中には何が入ってるかな!?!早く見ようよ!」


シロは我慢できない様子でクロを急かした。


「うーん、食料はまだあるし、銃弾とかの方が助かるなぁ」


クロはそう言いながら木箱を開けた。


「お、5.56あるじゃん。あとは携帯食料と、これは…救急キットかな?たすかるなぁ。さすがは自衛隊の補給物資」


ゴソゴソしながら、珍しく興奮した口調でクロが独り言を言う。


「じえーたいってなんでわかったの?」


シロは首を傾げながら聞いた。


箱の中に入れていた頭を出して、フタを一度閉めてクロは答えた。


「ほらここ、自衛隊のマークあるでしょ?たぶん、パニックが起こったときに、開ける間も無くやられたんだと思う。」


「じえーたいってなんだったっけ?」


まさかの質問に一瞬手が止まる。


「その質問、5回目。んーと、簡単に言えば国や人のために戦う人達だよ。」


「へー、スーパーレンジャーみたいな?」


「…うん、そう。」


クロはめんどくさくなり、適当に話を切り上げた。

箱の中を改めて物色しだすと、見慣れない瓶が6本入っていた。黒い液体が入ったガラスの瓶である。


「なんだこれ?飲み物かな?」


手にとって回し見てみる。瓶の胴の部分にラベルが貼ってあり、「コーラ」とかいてあった。


「コーラ…どっかで聞いたな…」


と、眉をしかめて考え込む。


「そうだおもいだした!これはタンサンインリョーってやつだ。たしか、のんだら喉の腰?が爽やかになって、シュワシュワする飲み物なんだって。」


「シュワシュワってどんな味のことだろ?美味しいのかな?」


シロは興味津々という感じで答えた。


「わからない。期限はまだまだあるし、飲んでみる?」


クロの言葉が言い終わらないくらいに、


「飲む!」


と、食い気味にシロが手を挙げ賛成のポーズをする。


クロはふふっと笑いながら太もものホルスターからナイフを抜き、平らな部分にもう片方の親指を押し当て、テコの原理で栓を開けた。


「ねえクロよくみて!液体の中から泡が出てる!熱したわけでもないのに!」


「うん、特別なやり方で、液体の中に二酸化炭素を溶かすんだよ。その二酸化炭素が気体に戻ってるんだ。」


クロが説明している途中に、シロは、躊躇なく「コーラ」をごくっと飲んだ。

経験したことのない微弱な刺激が喉を駆けたかと思うと、一瞬で刺激は消え去り、代わりに爽やかな余韻と、気持ち良さが口の中に残った。


「う、うま!!!これやばいよ!」


プハーッと右手で口を拭い、シロは興奮したように言った。

不安げな顔で様子を見ていたクロは、


「え、そうなの?たしか舌に刺激がある飲み物だったと思うんだけど、そんなに気にならないかな?」


と、まだ飲むのを躊躇っているようだ。



「一気に飲めば気持ちいいよ!あたしがあけてあげるー!!」


そう言ってシロはもう1つ瓶を取り出し、指だけで栓を開けてしまった。


「ばけもんか」


と引きながらクロが言うと


「ありがとうでしょ!」


と母親のように人差し指を立てたシロに言われ、


「あ、ありがと…」


とそっぽを向き、口を尖らせながら呟いた。


クロは、恐る恐る口の前まで瓶をもっていく。

口につけようとした瞬間、シロがクロの手を持ちグイッと上にあげた。


クロは驚きながらも、ごくっと大きな音を立てて流れ込んできた一口目を飲み込んだ。


「おいしい…かも。なんか不思議、クセになるってやつかな?」


そうクロは握った瓶を見つめて呟いた。

シロは満足そうに緩んだ笑みを浮かべている。


気づけばあたりは少しずつ赤らんできており、やはり人間のいない静寂さが、さらに染み渡っているように見えた。


「帰ろっか」


満面の笑みでシロは、片手でヒョイっと木箱を担ぐと、もう片方の手をクロに伸ばしてきた。


「ほら、おいで?」


シロは優しく首を傾けながら言う。


「うん」


木箱を開けた時とはまた別の、安心しきった笑顔で、クロは頷いた。


「これ、特別な日に残しておこうか。」


運転しながらクロは言った。


「特別な日かぁ。クロがいるなら、毎日がそうかな?」


「早く飲みたいだけでしょ」


えへへ、と笑うシロをチラッと見て、クロもふふっと笑う。


赤く照らされる「公園」を後に、ビル群の中へと車が消えていく。お互いに、赤くなった頰が夕日に溶け込み、気づかれないことに安堵した。


2人は、今日も、生き抜く。









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