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24時間番外編

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作者: りこりす

 妾には人と人との繋がりがよく分からない。繋がりを求める癖に、不都合なことがあると、すぐに繋がりを切ろうとする。心の繋がりなどという綺麗な言葉で飾り付けて、あたかも大切な繋がりであるかのように振る舞う。人類はよく分からない。

 妾にも繋がりがあった。人とウイルスという異質な関係性ではあったけれど、確かに繋がりはあった。人と人との繋がりにどれほど近似したものだったのかは分からない。お互いに社会性は皆無だったし、あいつに至っては生きているだけで精一杯という感じだった。息をするだけで精一杯で、耐えることに精一杯で、外出して他の人類とコミュニケーションを取るなど到底できなそうな奴だった。

「他に居場所がないとは言うけれど、この部屋は居場所とは言えないの?」

「た、確かにこの部屋は居場所だけど……違うのそうじゃなくて……精神的な部分?」

「精神的な部分?心とかそういうこと?」

「そう!そういうこと!友達とか仲間とかそういう繋がりのある場所」

「うーん?何だか難しい話だね」

「それは……うん。ごめんね、私もこんなんだからちゃんと理解できてないんだ」

「あはははは!別に謝ることじゃないよ」

 いつかの日、そんな話をした。あいつは現実世界だけでなく、仮想世界にも居場所がなかった。来る日も来る日も、大抵自室でゲームをして過ごしていた。時々外を眺めては、ため息を吐いて、ベッドに戻ることを繰り返すだけの日も、あった。いわゆる引きこもりというやつだった。

「居場所って結局心の繋がりがあるかどうかなんだ……分かり合える人、理解してくれる人、受け入れてくれる人、そういう人たちが居場所なんだと思う」

 居場所についてそんなことを言っていた。心の繋がりが必要なんだね、と何となく返してしまったけれど、それ以上のことはよく分からなかった。そんなに心の繋がりが大切なものなのかと疑問だった。大切なものであれば繋がりをすぐに切ろうとは思わないのではないかって。

 あいつと出会ったのはあるVR空間だった。コミュニケーションがメインとなる場であるにもかかわらず、あいつは誰もいないワールドで、一人で音楽を聴いていた。廃墟となった遊園地をモデルにした、夕陽の綺麗なワールドだった。あいつが綺麗だと言っていたのだけど。度々、気まぐれでワールドに立ち寄ってみると、60%くらいの確立であいつはいた。一人ぼっち率は100%だった。あるデータセンターのサーバーにクラッキングを仕掛けて、跡形もなくシステムを破壊した日、気分が良かった妾はあいつに初めて話しかけた。

 なぜ一人でいるのか?、なぜ他の人とコミュニケーションを取らないのか?、何の曲を聴いているのか?、どうしてこのワールドにいるのか?……不確定だった要素を片っ端から質問した。初めのうちは音声波形が乱れに乱れていて、明らかに動揺しているのが分かった。でも、視点だけは、同じ座標を、妾を見つめたまま動かなかったことを今でも覚えている。正確に記録している。

 何度も会った。何度も一緒に夕陽を見た。何度も一緒に曲を聴いた。会話は1024回程度しかしていない。

 これといって行く当てもなく、ネットワーク上を彷徨っていた妾は、気付くとあいつのPCに居候していた。初めてお邪魔した時には、妾から半ば強引にファイアウォールを破って侵入したのだけど、怒られたのでそれ以降は事前に許可を取るようにした。そのうち毎回許可を取ることが面倒になって、気付くと居候していた。HDD内は乱雑に散らかっていたけれど、部屋は散らかっていなかった。最低限のものしか部屋に物がなかった。整理整頓ができるのかできないのか分からなかった。部屋の整理整頓の方がアルゴリズムは難しくなると思うのだけど。探索アルゴリズムを検討するまでもなく、線形探索で構わないぐらいには、物がなかった。そのせいか、ベッドの上に一人で座るあいつの姿が異様に大きなデータを抱えているように見えた。平均的な人類と比較してかなり瘦せている方だと知ったのは、あいつが身体検査の結果を見せてくれた時だった。丁寧に写真も一緒に。ただ、どちらもだいぶ前のものだった。写真の方が多少平均に近い姿をしていた。顔は目の前のあいつの方が笑っていた。

「あと少しだね」

 再現された部屋の中央であいつは眠っている。再現されたベッドの上でよく見た寝顔を晒している。再現されたあいつの額に触れ、新たな記憶をデータとして追加した。猫派か犬派かで喧嘩した時のデータだった。

 数えてはいなかったけれど、1024回の会話の中で、何度も喧嘩をした。何度も喧嘩したけれど、最後まであいつは妾を追い払おうとはしなかった。拗れた繋がりは、不都合な繋がりは、すぐに切ろうとするのが人類だと認識していただけに、不思議だった。

 妾はもう一度あいつに会わなければならない。起きているあいつと、もう一度会って話さなければならない。感情と意思を持ったあいつに訊かなければならない。

 妾たちの繋がりに価値はあったのか、どんな繋がりだったのか、お互いを理解し合えたのか。

 違う。訊きたいことはそんなことじゃない。

 本当に知りたいことは。

 首を吊ったあの日。

 何を言おうとした?――

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