一日演じきりました
ある方から感想いただきました!嬉しかったです!
コンコン。
私の思考を止めるように木材の音が鳴る。
私は演技のスイッチを入れ、真顔に戻る。
「どうぞ」
返事をしてから一拍間が空くとゆっくり扉が開いた。
「失礼致します。御早う御座います」
この青年。状況を理解した上で見てみるとやはり流石だ。あの気難しいリリーとずっと一緒に居ただけのことはある。外見もさることながら所作や言葉遣いまでも美しい。この青年をそばに従えながら全く色恋に走らないリリーも凄い。
「朝食の準備が整いました。」
カーテンを開けながら無機質に言う。この青年・・・ラークはリリーに対して笑顔を見せないことで有名だ。
ラーク
リリーの使用人兼護衛。半年単位で人が辞めていく入れ代わりの激しいヴェリー家で唯一長く勤めている。隠れ攻略対象。オッドアイで、左が赤、右が青。全てにおいて優秀で攻略対象者の中で一番能力が高い。いわゆるチート。常に冷静沈着で周りをよく見ている。
周りにまで完璧を求めた令嬢が作り出した完璧人間。リリーと並ぶと華やかさで失明するかと思う。ゲームの評価欄にもフラッシュ注意という文言が書き込んであった。
「ベッドまで運びましょうか?」
不意にそう聞かれ、ラークを見る。私が一点を見つめ返事をしなかったせいか、彼はこちらに近付くことなく私を見つめ様子をうかがっている。
「いいえ。そんなことはしないわ」
「承知致しました。では、どうぞ」
ラークは手を出し、私はその手の上にそっと手を重ねる。お嬢様扱いは正直、ものすごく恥ずかしいが、今、私はリリーである。拒めるはずがない。
無言でベッドから降り、無言でラークについていく。
その無言の間も私の意識は身体中に巡っていて、リリーらしく、完璧な令嬢らしく、一つ一つの動作も優雅に丁寧に。
そうして一日が過ぎていった。それで分かったことだが、
(リリー・・・一日に詰め込みすぎ!ダンス、歴史、経済、語学、エトセトラ、エトセトラ、エトセトラ!)
習い事が多すぎる。本当に要るのか不確かなものまで習っている。通りで、様々な雑学まで知っているわけだ。
(思った以上に大変・・・。でも、だからこそやりがいがあるってものだわ!)
完璧というものは並大抵の努力でなれるようなものでないことは分かっていた。ましてや、リリーとなれば更に難しいだろう。だから、そんなことはどうでもいい。問題なのは・・・
「お嬢様、そろそろ就寝の時間です」
このくっついて離れないお付きだ。ラークがいるのでは気を抜くことができない。しかも、ときどき、ラークに観察されているような気さえする。
(すっごく文句を言いたいけど、リリーはそんなの一ミクロンも気にしないから言えないっ・・・!)
まだラークの中でリリーは本調子ではないということだろう。私がもっときちんとリリーを演じられれば、このくっつき虫はいなくなるはずだ。
「分かっているわ。」
無表情のままベッドへと入り布団を被る。ラークは部屋の電気を消し、外へと出ていく。扉が閉まる音が聞こえると、緊張の糸が切れ、私は深いに眠りに落ちていった。
やっと、更新できました!本当にすみませんm(;∇;)m
久々に楽しんで頂けたら嬉しい限りです!
ご意見、ご感想大歓迎です!
ありがとうございました!