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眠りに落ちました

ピピピピ、ピピピピ。

携帯のアラーム音で目が覚める。

カーテンを開けると光が勢いよく私の胸に飛び込んでくる。

窓を開ければ爽やかな風が部屋中に広がり、それと共に部屋の気温が下がっていく。その現象が立冬を告げている。ストーブをつけ、大きく背伸びをしながらカレンダーを破る。今日は決戦の日。私の人生を大きく変えるような、そんな予感がする。


(今、何時だろ?)


時計を見ると8時32分を指している。


(やばっ・・・!)


私は急いで支度を終わらせ、玄関に鍵をかける。

必要最低限の物だけを持ち、私は先を急ぐ。


(たしか、受付って9時で終わるよね。あと約20分!?)


 どうやら、最後のだめ押しアラームで起きたらしい。かけておいてよかった。家から会場までは10分ほどかかる。走れば必ず間に合うはずだ。私ははやくもない足を一生懸命動かした。

 オーディションには決して遅刻できない。特に今日のオーディションは、私の役者人生を左右するものだ。

 世界中で人気の乙女ゲーム原作の舞台。その中の悪役令嬢役のオーディション。世界中で人気ということは、それだけ見に来るお客さんが増える。私の演技をたくさんの人に見てもらえる、良い機会だ。何よりこのキャラクターは、私にとってかけがえのない人間なのだ。だからこのオーディションを見つけたときは予定も考えずに応募してしまった。


「見えたっ・・・!」


嬉しさのあまり声に出てしまった。自動扉の速度がもどかしい。こういうときは手動のよさを感じてしまう。


「着いたっ・・・」


すぐに受付を済ます。これでもう、大丈夫だ。

 私は椅子にへたれこみ、息を整える。今日は運が良かった。信号や渋滞に引っ掛かりやすい私が今日はスムーズに来ることができた。これはもう、上手くいく予感しかしない。しかし、油断は禁物。おごれば下に落ちてしまう。そういうことが何回もあった。

 私は安定剤がわりに彼女の言葉を思い出す。


「貴方とわたくしの違いを教えて差し上げるわ。それは、今までの努力の差。貴方がお花で冠を作りお姫様ごっこをしているとき、わたくしは自分の“出来ない”と向き合ってお姫様になろうとしていたのよ。一朝一夕の愛で、わたくしの努力を越えられると思って?」


続きを一緒に声に出す。


「笑止千万。例えその愛が運命だとしても、わたくしの努力を覆らせはしないわ。」


 初めて彼女を見たとき、なんて美しいひとなんだろう、と思った。作画がとかじゃなく、その人生観や中身が。そして、私はこの人になりたいと幼心ながらも思ったのだ。卒業文集にも、目標の人は彼女の名前がある。先生には苦い顔をされた気がする。

 安定剤の彼女の言葉とココア。この二つがあれば、私は無人島でも大丈夫だ。



 時計が9時を知らせるとともに受付が片付けを始める。

そろそろ、準備をしないといけないだろう。


(・・・トイレに行っとこう)


 会場の案内板を見てトイレの位置を確認する。ここは珍しい木造の建物で1階は玄関と事務所だけ、2階が会場となっている。どうやら1階のトイレはスタッフ用になっているらしく、2階のトイレは階段を上がり、会場を過ぎた一番奥にあるようだ。

 廊下に人気はない。ほとんどの人が会場内で始まるのを待っているのであろう。



 トイレを済ませ、会場に戻る。扉を開けると、目の前には少し乱れた椅子がある。そして、人がいない。スタッフもいない。さっきまで、数人いたはずの会場に人の気配が消えている。


(神隠しみたい・・・)


驚きすぎて変なことを考えてしまった。そんなわけがない。その考えを払うように頭を降っていると、外からざわめきが聞こえた。


(・・・?)


窓の近くに行き、下を見ると、人だかりができていた。その中にはスタッフもいる。間違いない。スタッフTシャツを着ている。人だかりはこちらを見上げている。


(何かあったのかな?)


スタッフに聞きに行こうと、会場の扉を開けた。すると、


「熱っ・・・!!」


火の手がきていた。さっきまで普通に渡っていた廊下が火の海と化していた。それだけでも怖いのに、どこかで爆発音が聞こえた。驚いて音の方に目を向けたとき、着ていた服に火がついてしまった。頭が回らず、急いでその服を脱ぎ、投げ捨てる。服は自分の鞄の近くに落ち、鞄にまで火が移ってしまった。


(しまった・・・!)


そう思った次の瞬間、鞄が勢いよく炎をあげ、そこら中に火を撒き散らす。鞄の中には制汗スプレーとヘアスプレーが入っていた。いつ爆発するか分からないスプレー缶と、部屋中の火、頭はパニック状態で上手く思考できず、私は座り込んでしまう。外の誰かが、消防車はまだかと叫んでいる。


(窓・・・窓を開けないと・・・)


窓を開けなければ酸素がなくなってしまう。息が出来なくなってしまう。そう思うのに、足に力が入らない。腰が抜けてしまった。こうしている間にも火の手はこちらに近づいてくる。


(どうして・・・なぜ・・・)


 どうやら本格的に危険な状態になってきたらしい。視界がぼやけてきた。部屋の上部の空気は熱くなり座っていられない。体が倒れ、息をするのも辛い。喉が焼ける。


(こんなところで・・・死ねない。)


 少しでも下の空気を吸おうと、顔を横に向ける。


(私は・・・私は・・・まだ・・・)


まぶたが重たくなってくる。目を閉じてはダメだ。そう思うのに制御できない。



(私は・・・まだ・・・彼女になれていないのに・・・。)


 私はそのまま眠りに落ちてしまった。

 炎に包まれて、“リリー役”と書かれた紙が燃えていた。

どうも、皆さん。こちら、一話にするか、二話にするか、とても悩みました。

映像で物語を作るので、描写が難しいです。つじつまを合わせるのに苦労しますね。

火元の近くに物を置くことの無いよう、火事には十分お気をつけください。

ちなみにこの火事の原因は、煙草です。

ご意見・ご感想、お待ちしております。

よろしくお願いします。

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