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挨拶しました

 デイズ王子は完璧でまさに理想の王子様。リリーとデイズは誰もが羨む美男美女カップル。


「キャー!デイズ王子よ!今日も素敵ね!」


「見て見て!リリー様よ!麗しいわ~!」


 そんなある日、その関係に傷が入った。


「はじめまして!デイズの婚約者さんですよね。私はサクラ・フロンデット。気軽にサクラと呼んで下さい!」


 急にあらわれた謎の少女。可愛くて女の子らしい、春を具現化したような子。


「すまない。君はまるで雪山のようなんだ。厳しく冷たい。私はそんな君といるのが辛いんだ。分かってくれないか。」


 デイズ王子からの婚約破棄の申し出。


「私が悪いんだ。君は悪くない。私が、婚約者がいながら彼女を・・・サクラを愛してしまった。頼む。別れてくれ。」


 何故・・・こうなった。


「あの・・・リリー様・・・大丈夫ですか?」


「触らないでちょうだい!貴女のせいでわたくしは・・・!」


 泣いているところを見られそうで突き飛ばしてしまった。突き飛ばして、彼女は傷を負った。幸いなことにそれほど大きな傷ではなかった。けど・・・


「わたくしが・・・処刑されるの・・・?」


 それまでサクラを裏でいじめてきた人間がこれ幸いと罪を擦り付けてきた。それを信じた王族はいつの間にか有罪を決定。引きこもっている間にそんなことになっていたとは知らず、わたくしは連行され処刑された。やってないと主張していたのに。


「わたくしは・・・いじめなんて愚かで醜い行為はしていない・・・!」


 お願い・・・誰か・・・わたくしの話を聞いて・・・!




 頭の中に映像が流れてきた。ゲームの中のリリーの人生。それは悲劇と言われ、同情が寄せられた。サクラもリリーもデイズ王子も。誰も悪いことをしていない。それなのに起きてしまった悲劇。リリーの動揺が生んだ悲しいシナリオ。私は涙が出そうになるのを堪えながら笑顔を作る。私だってリリーの幸せな人生を描きたい。けれど、私が好きになったリリーは悲劇のヒロインのリリーなのだ。だからこの人生を全うする。


「大丈夫ですか」


 ラークが横にいる私にしか聞き取れないような小さな声で聞いてきた。ハンカチを用意しているあたり。泣きそうになっているのを感じ取ったのだろう。


「問題ないわ」


 ただ簡潔にそう答えた。問題ない。リリーは婚約者にでさえ涙を見せなかった。涙は弱味。誰にも弱味を見せたくないとリリーは思っていたのだろう。なら私も、涙を見せてはいけない。


「お久しぶりです。殿下。」


「おお!久しいな!相変わらず忙しいようで働きづめなんだろう?」


 父が王様と話している。母はその隣で王妃様と。


「で、その子がリリーか。母親に似て綺麗な子だ。」


 急に話が振られて内心驚いたが、冷静に


「リリー・ヴェリーと申します。殿下、妃殿下にお会いできましたこと、そしてご挨拶できること、心より誇りに思います。」


 ドレスの裾を持ち上げて一礼する。大丈夫。習ったことはできている。


「礼儀作法の所作も美しいな。随分と良い娘じゃないか?え?」


「ちょっと、殿下」


 父と王様は若い頃の学友であるらしい。こういう社交場では敬語を使うが、普段会うときは昔ながらの話し方にしなくてはいけないんだと苦笑いで話していた。確かに。このフレンドリーな王様ならばそういうことも言いそうである。


「こっちも紹介しなくてはな。デイズ!ペナ!」


 呼ばれて走ってきたのはデイズ王子とペチュニア王子だった。


「こっちがデイズ。こっちがペチュニアだ。ペチュニアはペナとでも呼べば良い。俺が許そう。」


 どうやらペナとはペチュニア王子のことだったようだ。私は2人に一礼をして顔をあげた。あげた先で2人と目があったのでニコッと微笑むと、2人は一気に顔が赤くなった。


「2人ともこのように恥ずかしがり屋でな?誰に似たのやら・・・」


「それは貴方でしょう?」


 女王様からの指摘に王様はぐうの音もでない。仲が良い夫婦なのだと思ってニコニコしてしまう。こんなに気の良い王様がリリーを処刑するときにはあんなに冷たい眼差しをするなんて。


「旦那様。リリー様ははじめての舞踏会です。少し休んだ方がよろしいかと。」


 私がまた先程の流れてきたゲームの記憶を思い出していることを悟ってか、ラークが言い出した。


「誰だ?」


「うちのリリー専属の使用人です。リリーが選んだんですよ。自己紹介を。」


 王様の問いに父が答えラークに自己紹介を促す。


「お初にお目にかかります。ラークと申します。ヴェリー家でリリー様の使用人兼護衛をしております。使用人という身分でありながら皆様にお会いできたことを光栄に思います。」


 ラークは丁寧にお辞儀をして1歩下がる。有能なラークはリリーの使用人兼護衛だが、たまに父の仕事も手伝っている。こういう礼儀作法はそれなりに経験してきたのであろう。


「おお!君がか!聞いてるぞ。とても有能な使用人がいると。」


 ニコニコと大きな笑顔で話しながらラークの背中をバンバンと叩く。痛そうな音だが、笑顔を保ち続けているあたり、やはりラークは強いなと思う。


「それで、旦那様。リリー様の体調のことですが・・・」


「ああ。私はもう少し話していくからラーク。娘を頼んだぞ。」


「承知致しました。」


 やっと王様の絡みから解放されたラークが私を連れて玉座から離れた。

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