犯人
幼いころから両親はいなかった。私に名を授け突然消えたという。私には親の愛情というものがわからない。それゆえか、私の心はどこか穴が開いている。人のやさしさを知らない。だから私にこの力が目覚めたのだろうか。
目が覚める。ここは村の唯一の診療所だ。そうだ、私は教室に閉じ込められて、そしたら、センセイが助けに来てくれて・・・ 彼は無事だろうか。
あたりを見渡す。センセイは私の隣のベットで眠っていた。
センセイに抱きかかえられてた間、おぼろげな意識の中で私は、今まで感じたことのない幸福感に包まれていた。あれが、愛情というものなのだろうか?思い出してみるも、なにか歯がゆい感じがし、考えるのをやめにした。
しかし、ゼロにはもう一つ気になることがあった。
「あれは、魔法よ・・・この人は確かに魔法を使った。」
あれは何歳のころだっただろうか。近所の仲良くしていた年下の子が家のすぐ近くにある川の中州に閉じ込められたと聞き、俺は家を飛び出し、その子の救助に向かった。結局その子は助けられたのだが、そのころの記憶が俺にはない。どうやって助かったのかと母さんに尋ねると、「あんたが泳いで助けたのよ」といった。だが、その川は、高校生となった今の俺でも流されてしまうほど流れが強い。母さんは俺に告げた。
「あんたは、ちっちゃい子のためなら火事場の馬鹿力がでるのよ。」
目が覚める。ここは一体・・・?
「あっそうだ!ゼロは!?」
「私ならここにいますよ。」
視線を横に移す。そこにはゼロの姿があった。
「よかったぁ・・・ どうしてあの夜、教室に一人でいたんだ?てか、そもそも、学校から帰らずどこにいたんだ?」
「心配させてごめんなさい。私にもよくわからない。気づいたら教室に一人でいて・・・そしたら、声が聞こえたの。」
「声?」
「助けが来たら、私ごと教室を燃やすって」
翌日、俺とゼロは無事に退院した。幸い、目立った外傷などはなくお互い煙を吸いすぎただけだったそうだ。校舎も、俺とゼロが閉じ込められた教室だけが燃え尽きただけで他の教室は無事だった。犯人は誰だったのか。事件の特異性を鑑みるに、魔法でないと実現不可能な事件であるということは周知の事実だ。だが、なぜゼロが巻き込まれるんだ?なんのために?疑問は尽きない。俺の疑問は俺自身にもある。ゼロを助けたときのあの力は一体何だったんだ?
「魔法、なのか?」
そう、俺は確かにあの時水を操り火を消した。そして自分の身体能力以上のダッシュをして見せた。信じられないがあの時の記憶は鮮明に頭の中に焼き付いている。
「ま、ゼロが何とかやってくれたんだろう。」
生徒の安全を考慮し、今日の学校は休校となった。俺は学校の近くにある寮で療養することにした。
その日の夕方。
コンコンコン
「センセイ、いらっしゃいますか?」
この声は。
「おーう。今開けるぞ。」
訪問客は俺の生徒5人だった。今回はメンツの中にゼロも加えられている。
「災難でしたね。センセイ」
「まあ、何とかなってよかったよ。お前たちもケガとかしてないか?」
「あの程度の修羅場、潜り抜けて当然ですわ!」
「っていって、あなた焦ってたじゃないの・・・」
「ここでケンカはやめろって・・・」
「うおー!いつも通りだぞー!ハハハハ!」
「療養中のはずなんだけど・・・」
しかし、こうして生徒にお見舞いに来てくれるのも悪くはない。一人で寂しくいるよりも大人数でいたほうが性に合う。
「センセイ、あなたを巻き込んでしまってごめんなさい。」
「心配しなくてもいいさ。何も抱え込まなくていいよ。・・・トールを見てみろ。子どもはあれぐらいがちょうどいいんだ。」
「失礼だゾー!レディーを子供扱いかー?」
「いや、子どもだろ」
ウンウンと一同がうなずく。ムキー!と暴れるトール。
・・・少し賑やかすぎるな。
ゼロを見ると、彼女は笑っていた。ネームドと呼ばれる彼女でもやはり、人間の女の子なのだ。不謹慎なことだが、今回の事件でゼロの一人の少女としての一面を垣間見れた気がする。
もうすぐ、日が暮れるので生徒たちを返した。
「ふう・・・」
生徒たちがいなくなりあっけらかんとした我が部屋で一人ため息をつく。
「ん?」
部屋の机の上に手紙が置かれている。俺はそれを開封し中身を見た。
「やあ!僕のサプライズ、楽しんでくれたかい?君たちを殺すつもりはなかったんだ信じてくれよ。最悪体の半分ぐらい焼けただれるくらいの程度に抑えたんだけど、これぐらいのほうがスリルがあっておもしろいよね。
今回のサプライズには二つ目的があるんだ!
一つはクラスのみんなとゼロの親睦会
二つ目は君の魔法使いとしての覚醒だよ。そして目的は無事達成された!
ゼロ一人がクラスになじめない様子だから、強引ながら話すきっかけってのを作ってあげたよ。ほら、仲間外れにされる原因って、会話についていけないからだろう?だから、会話のネタを作ってあげたんだよ。クラスがばらばらだったら、君の能力も発揮されないからね。
二つ目の君の能力について、これは、手紙じゃ説明するのはめんどくさいから僕が直々に教えてあげるよ。それじゃ!また!」
なんだよこれ・・・
文字を読むたびに嫌な汗が額からにじみ出る。動機が荒くなる。手紙を読み終えたときには俺は半ば放心状態だった。いつこんな手紙が送られてきた?なんだこのバカげた手紙は。
サプライズだと?俺とゼロが体験したあの出来事がそんな茶目っ気あふれた言葉でかたずけられると思っているのか?!
俺は手紙の差出人、そしておそらく今回の事件の犯人に激しい怒りを抱いた。
ぜったいに見つけ出してやる。
コンコンコン
決意を決めたとき、再び寮のドアがノックされた。
「センセーイ!いるかー?私だゾー。トールだゾー!」
体が震えた。生徒が訪れてきただけのはずなのに、尋常じゃない、まるで心臓を握られているかのような恐怖感を感じた。
「お、おう。今開ける。」
声はすっかり震え上がり、ドアを開けるまでの時間が永劫のように感じられた。
ドアの前に立っていたのはトールだった。湧き上がる恐怖を隠し切れない俺の顔をみて、彼女は笑った。
「アハハー!センセイ、変な顔だゾー!」
「あ、っああ。ちょっと・・・」
俺が答えたその時だった。彼女の笑みから、子どものものとは思えないオーラを感じた。
生徒であるはずの、俺より年下のはずの巨大な威圧感の塊は口をゆがませ、こう告げた。
「覚醒おめでとう。西山惠二君。」
手紙の差出人、そしてあの事件の犯人は俺の生徒、トールだった。