覚醒
あまりにも突拍子もない出来事に体が熱気を感じるのに少々時間がとられた。赤い悪魔が俺とゼロをせせら笑うように教室全体を包み込んでいる。
「な、どっどいうことだよこれ!」
あまりにも突然の出来事に言葉が詰まる。高温により息が詰まる。
ガシャン!ゴロゴロ・・・
炎にやられ、教室の出入り口がふさがれた。いや、出入り口が詰まったといったほうがいいか。
ってこんなばかばかしいこと考えてる場合じゃない!
窓からの脱出を試みるも、あいにくこの教室は三階に位置しており、飛び込んで逃げるにはリスクが伴う。
「くそ、どうしよう・・・」
「センセイ!大丈夫ですの?!」
教室の外からほかの声が聞こえる。声の主はフレイヤだ。
「フレイヤ!どうしてここに?!」
「学校から爆発音がしたら誰だって来ますわ!ほかの3人も来ますわよ。それよりもいったいどうなってるのかしら!」
「『どうなってる』って何か教室の外で起きてるのか?」
「村全体に響く爆発音、外からでもはっきりとわかる、教室を覆い囲む炎の渦。それほど火力が尋常ではないはずなのに、炎が一歩も教室から出ていないのですわ!」
「なに?!」
「わかりにくい表現しないで!フレイヤ。センセイ!つまり燃えているのは教室だけということです!今トールとレストが確認しましたが、学校のどこにも火は燃え移っていないそうです!」」
「ありえない、ありえないですわ!」
分厚い炎の壁にさえぎられていてもフレイヤの動揺は手に取るようにわかる。そしてほかの生徒の緊迫した様子も感じられる。校舎が無事ということで、少し冷静さを取り戻してきた。俺はゼロのもとへ駆け寄った。
「ゼロ、大丈夫か?」
「ごめんなさいセンセイ。こんなことに巻き込んでしまって。」
「大丈夫。気にするな。聞きたいことは山ほどあるがまずはここから出るとしよう。ゼロ、君の魔法でこの状況を打開できるか?」
「はい。可能です。しかし・・・」
「何か問題でもあるのか?」
「私の魔法は気味が悪いです。見たらセンセイにショックを与えてしまうかもしれません。」
「大丈夫だよ、それくらい。教室から出られるんなら!」
「わかりました。では。」
ゼロが目を閉じ手をかざした。
次の瞬間、俺とゼロから離れた位置で爆発が起きた。
轟然たる爆発音と強烈な衝撃波に俺たちは吹き飛ばされた。
「くっ・・・・」
爆発により教室内の空気が物理的に一変した。息が苦しい。
「ゼロ!大丈夫か!」
「は・・い・・、なんとか・・・ ゲホ!ゲホ!」
吹き飛ばされ俺は床に座り、ゼロを抱えている状態になっている。外傷はないもののこのままではまずい。
それよりもこの状況、なんか、デジャブな気が・・・
「イヤ…イヤぁぁぁぁぁ!!!」
「センセイ!センセイ!!」
「センセイなら無事よ!無事に決まってるじゃない!!」
「私の、私のせいだ…」
外から、生徒たちの悲鳴が聞こえる。
・・・そうだ。これは俺が見た夢と全く同じ場面だ。
そして夢通りなら!俺は前を振り向いた。
あっ
そこには夢に見た通り、炎に包まれた柱が俺たちめがけて落ちてくる光景が広がっていた。しかし、大きく違うところが一つある。柱はすでに俺の文字通り目の前にあった。1秒もしないうちに俺は柱に激突する。
あっ俺死んだわ。
おそらく人生最後になるだろう瞬きのうちに頭の中ではこれまでの人生のあらゆることが思い出されてきた。俗にいう走馬燈というやつだ。
生まれた日の記憶、学校で友達と遊んだ記憶、高校に合格した記憶、ケンカをした記憶、そして、異世界に連れ出された記憶。
一瞬のはずなのにとても長く感じられる。記憶をさかのぼりきり、いざ目を開けようとしたその刹那、死という現実に体が恐怖で固まった。
しかし、何かが違う。
いやだ、死にたくない、まだ生きたい。普通ならこう思うだろう。
しかし、俺は俺自身―西山恵二―のことなど考えてはしなかった。
俺の生徒を死なせるものか。
目を開くと、体は俺が操作するよりも早く反応し、炎の柱を避けていた。
炎がどこか笑ったように感じる。次の瞬間今まで自然のままに揺蕩っていた炎がまるで意思を持ったかのように俺たちを襲い始めた。
「こんなところで、俺の生徒を死なせるかよおおお!!!!」
咆哮と同時に俺はゼロを抱えながら、窓に向かって走った。体が軽い。力がみなぎる。
俺を阻止するためか、炎が俺たちの前に壁を形成した。
「邪魔だあああ!!消えろやああああああ!」
すると、俺の周りに見慣れぬ魔法陣のようなものが出現し、水が噴出された!
え?何これ?俺の魔法?
俺の水()は炎の壁を崩壊させ、すぐ目の前には窓があった。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
俺は叫びながら窓に向かって体当たりした。こうなれば当たって砕けろだ!
カシャアアアアアアアン
窓ガラスが割れ、俺の体はゼロを抱えながら、空へ放り出された。
地面が急速に迫ってくる。しかし、不思議と恐怖はなかった。学校の周りにたむろするやじ馬は、驚きの目で俺を凝視している。彼らが想像した惨劇を覆すがごとく、俺はきれいに地面へ着地した。
おおおおおおおおおおおお!!!と湧き上がる観衆。すぐに救護隊が俺たちに駆け寄ってきた。
「君たち!けがはないかい?!」
「いや、大丈夫ですよ。煙をちょっと吸ったぐらい・・・・」
見栄を張ろうとしたが急に体が重くなった。
「うっ・・・」
体がだるい。少し重い風邪を引いた時のように俺は体の平衡感覚を保ってられなくなった。
煙吸いすぎたのかな・・・ それにしても、なんか疲れた。
意識を失いそうになったとき、ゼロの安否が気になった。
彼女はしっかりと俺に抱きかかえられ、俺より一足先に意識を手放していた。呼吸もちゃんとしている。なら、安心だ。
生徒の無事を確かめ、ほっとしたのか、俺はすぐに地面に倒れた。
それにしても、さっきまでの俺、どうかしてたな。