異世界で魔法使いの先生になる話
「……センセイ!」
…声が聞こえる。
目を開けると、炎に包まれていることがわかった。
ここがどこなのかは分からない。
状況を整理しよう。
俺はどこにでもいる、ごく普通の男子高校生だ。今は退屈な現代文の授業で、俺は居眠りをきめていた筈。…はず。
「くぁwせdrftgyふじこlp…ってアツゥ!!!」
熱を感じた。夢じゃないらしい。
意味がわからない。どうして俺は、炎に囲まれてるんだ?てか、どうして、誰もいないんだ?
「イヤ…イヤぁぁぁぁぁ!!!」
「センセイ!センセイ!!」
「センセイなら無事よ!無事に決まってるじゃない!!」
「私の、私のせいだ…」
炎の後ろから聞こえる女の子の声は?
それと
「うっ、うぅぅ…」
俺が抱えてる女の子は誰だ?
「お、オイ!しっかりしろ!」
揺さぶってみるが、煙を深く吸い込んでしまったのか、ひどく咳き込んでいる。
「くそ、どうすれば…」
「……よ…け……て…」
「へ?」
後ろを見ると火に包まれた柱が俺達をめがけて落ちて来た。
あ、これ死んだわ
どうすることもできない俺は、目を瞑ることしかできなかった。
「定期テストも近いのに、居眠りなんていい度胸ね?」
はっ!!
目を覚ますと俺はいつもの教室に戻っていた。
「先生!火事は?!それに俺、あれ?生きてる?」
「あら夢の中で火事にあってたの?お気の毒ね。安心して。何も起きてないし、何も燃えてないわよ。机を見なさい。」
机を見ると、そこにはテスト対策のプリントが大量に置かれてあった。
「火事の心配もいいけど、テストの成績の心配もしたらどう?」
その日は一日中クラスのやつから、先の件でからかわれた。
しかし、夢にしてはすごいリアルだった気がする。
それに、
「なんで俺先生って呼ばれてたんだろう?」
帰りのホームルームが終わり、仲のいいやつと放課後の計画について話し合っていると、
「2年●組 西山恵二君。至急、職員室まで来てください。」
最悪だ。さっきの件で怒られるのだろうか。薄情にもさっきまで話した奴らは俺を置いて先に帰ってしまった。てか、たかが居眠りでそこまで怒るか?
重い足取りで職員室へ入ると、そこで待ってたのは、校長先生だった。
「西山君、急に呼び出しちゃってごめんなさいね。ちょっとお願いが二つあって…」
まさか校長先生に呼ばれるなんて思いもしなかった。彼女は俺を校長室へ連れてった。
オイオイ、居眠りで退学にされるのか?俺。いや、そういやお願いがあるって言ってたな。でも、なんで俺?
推測を重ねているうちに校長室に着いた。
「えーっとお願いっていうのは、まず、上の荷物をとって欲しくて…」
そういうと彼女は棚の上を指差した。
校長先生と言っても、彼女は30代と学校の重役にしては非常に若く、元気がある先生だという印象がある。
何かおかしいと思いつつも、俺は彼女のお願いを引き受けることにした。
脚立に登り、荷物に手を伸ばすと
「間違いない」
と呟く声がした。
なんのことですか?と尋ねようとしたが、口を開ける前に俺は脚立から落ちてしまった。しかし、いつまでたっても床にぶつかることはなく、下を見ると、一面に暗闇が広がっており、奈落の底という言葉を彷彿とさせた。
落下していく中、なぜか、俺はさっき見た夢を思い出した
「そういや、さっきの子は大丈夫かな」
意識が徐々に遠のき、俺の姿は完全に闇の中に消え去った。
「ごめんなさい。でも、あの子達のためなの。」
謎の謝罪により、俺は目を覚ました。
「ここは…?」
見た感じ木造の建物の中にいることがわかった。さらに大きい机、その後ろには小さい机が部屋の中にあるのがわかった。それに何より、目につくのが
「黒板?」
黒板があり、その近くに大きい机が、そしてその前には小さい机が並んでいる。小さい机の数が少ない気がするが、この光景を見れば誰しもがこう思うだろう。
まるで教室ではないか と。
「気づいたようね。」
振り返ると、そこには校長先生、東條鳴美の姿があった。
「校長先生、ここは?」
「それは、あとで説明するわ。…さあ、入ってらっしゃい。」
彼女が教室らしき空間から外へ声をかけると、小学生らしき見た目の少女ら5人が入ってきた。その中に一人、見たことがある顔がいた。
「君は火事の時の…!」
「単刀直入に言うわ。」
俺の驚嘆の声は彼女の声にかき消された。
「恵二君、あなたにはこの子達の先生になってもらいます。」