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クリスマスの朝に

作者: QW/

クリスマスの勢いで、とても久しぶりに小説書きました。

期待せずに読んで下さい。

これは、あなたが次の電車を待つ3分間をつぶすためのお話しです。


その日は例年より冷えた空気が肌に触れていたかと記憶している。

私の人生で、クリスマスというのは美術館に並んでいる絵画のひとつと同じくら

い、

眺めていることの方が多かった。

そんな29年の人生、今年も12月25日の朝を迎えた。

私が目を覚ましたのは見慣れない天井ではなく、見慣れた天井が目に入る。

「起きろー!」

「うげっ」

唐突叫びながら部屋に入ってきた甥っ子が、布団の上に飛び乗り、思わず声が出

る。

私のクリスマスの朝は無邪気な痛みから始まった。

私は前日の日曜日から実家に帰って今日を迎えていた。

というより、毎年、クリスマスイブから休みを取り、実家に帰るのが恒例となっ

ていた。

そして朝食のトーストをもさもさ食べているといつもこういわれる。

「あんたいつ結婚するの?」

そうつぶやくのは私の母親、普段は言ってこないようなことをここぞとばかりに

言ってくる。

OL生活も10年近く経つだろうか、別に浮いた話がまったくなかったわけでは

ない。

これは墓場でもっていく話ではあるが、職場の先輩に告白し、振られていた。

私にも青春していたときがあったのだ。

それから部署を何度か異動してもみたが、実りはなく、いや、職場に恋愛を求め

ていたわけではない。

俗に言う婚活パーティーにも3回ほど、参加したことがある、しかし、出会いと

いうのはそうやすやすと転がってはいないものなのだ。

そんな私のクリスマス、いつも決まってやっていることがある。

それはケーキの買出しだ。

趣味もない私はなんだかんだそれなりの貯金を蓄えている。

母親は私の記帳しにいかないという面倒くさがりな性格にかこつけて、通帳を握

っているのだ。

だからというわけではないだろうが、クリスマスケーキは毎年私の担当になって

いた。

いつもイブに実家でケーキを下調べし、翌日買いに行っている。

普通は予約とかなんだりをするものなのだろうが、私は記帳しない性格なのだ。

予約なんてもってのほか、だってクリスマスにクリスマスケーキを売っていない

ケーキ屋はない。

だから予約せずとも買えることに3年前に気がついた。

コートとマフラーとめがねとマスクの重装備を整え玄関でブーツを履く私に母は

こう言う。

「去年と同じところはやめてね?あそこ、美味しくなかったから」

私はブーツを履いて立ち上がりざま、二度うなづきドアに手を掛け、外に出る。

屋内の暖房という空間から外に出ると、嫌が応にもその冷たい空気にさらされる。

一瞬、家でトイレを済ませてから、とも思ったが、記帳しない性格なので、その

まま歩き出した。

今日買いに行くお店は地元では9軒しかケーキ屋がなく、毎年買っていたら、去

年、9軒目で

ケーキを購入してしまい、打つ手がなかった。

しかし、私は昨晩、実家近くの駅でチラシを配るお兄さんに救われた。

今年オープンしたばかりの名前は英語で書いてあるがなんだか読めない、しかし

場所の地図は読めたので、今そこに向かっている。

この地元にまさか新規参入するお店があるとは、神様が珍しく記帳しない性格の

私に微笑んでくれた。

まだ時間は9時を回ったところ、お店は9時30分開店とチラシに書いてあった

ので

それを見越して10分前にはつく計算だ。

世の中のクリスマスは油断できない、3年前は油断していたらケーキ屋4軒を回

る羽目になった。

早朝でも何十人かは並んでいるとは思うが、並べればケーキは手に入るのだ。

そんなことを考えていると、自分の横に列が連なっているのに気づく。

まさか、と思いつつ、初めて行くお店なので誤った列に並ぶわけにもいかない、

とりあえず見せの入り口まで歩を進めた。

「まもなく開店しまーす!列に並んでお待ちくださーい!」

店の入り口に若い男がプラカードを持って立っていた、私の記憶に間違いがなけ

れば昨晩、駅前で

チラシを配っていた人物と同じだった。

列の行き先を確認できた私は、すこし小走りに列に沿って最後尾を目指す。

ようやく最後尾にたどりついた私の吐く息は白く、マフラーの下は少し汗ばんで

いた。

店の入り口から300mほど、私が入り口まで行っているあいだにずいぶん列は

ながくなっていた。

しかし並べた安心感で私はコートのポッケに入れていたスマホを取り出す。

時間は9時27分、これだけ長いと、30分以上、1時間くらい待たされてしま

うだろう。

私はスマホをポッケにしまい、小刻みに進む列に合わせてすこしづつ前に進んで

いく。

列に並んでから1時間は過ぎただろうが、ようやく店の入り口が視界に見えてき

た。

待ちに待ったケーキ購入、待たされたがゆえに期待感が膨らむのは人間の心理な

のだろうか。

私はスマホを入れた右ポッケとは逆のポッケに手をいれ、思わず固まる。

出かける前に入れた筈の財布が、入っていない。

焦る私はコートの内側、も探るが、財布はない。

思考がまとまらないまま、列は前に進んでいく。

そして、その時はやってきた。

「お待たせいたしました!」

店員の元気な声に私は答えられず、身体も膠着している。

「ご注文はどちらでしょうか?」

ガラス張りの棚には見たこともないがきっと間違いなくおいしいだろうケーキが

たくさん並んでいた。しかし、今の私はどのケーキを選ぶかという問題より、根

本的な問題に直面している。

「お客様?どうされました?」

店員が異変に気づき、声をかける。そして自分の後ろに並ぶ人だかりも同じくざ

わつき始める。

「あ、あの、お、お金忘れて、財布なくて、だから、その…」

「あ、そうなんですか、…」

店員もその先に何を言えば良いか分からず沈黙が流れる。

「ちょっと!あんたお金ないならどきなさいよ!」

後ろに並んでいたおばさんが痺れを切らし、私を押しのけるように突き飛ばす。

元々線の細い私はあっという間に列からはじき出され、店内で体勢を崩す。

「危ない!」

その声と共に私の背中にそっと手が触れた。

転びかけた私の背中を支え、その肩越しから声が聞こえた。

「お客様、大丈夫ですか?」

「あ、すみません…」

私は体勢を整え、振り返り頭を下げる。

「何があったんですか?」

「あ、いや、私が悪いんです」

私はゆっくり相手の顔を見る。

「あ…」

「ん…?」

瞬間、私はその男性の次の一声を聞く前に目にも止まらぬ速さで店の外へ走り出

す。

「ちょ、待てよ!、じゃない、待ってくださいお客様!」

その瞬間、わたしにとって最悪なクリスマスが始まった。




あなたの3分間をありがとうございます。

あなたに良いクリスマスが訪れることを祈っています。

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