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05:「うわあ知りたくなかった」

 夢を見ているようだ、と思った。

 伸ばした手指の先が、つうと冷たいガラスをなぞる。ゲームの時も思ったが、実際の近世フランスよりもずっと質が良いのではないだろうか。

 魔法なんてものがあるので、リアリティを求めても無駄か、などとひとりごちていると、その指の間に金色が見えた。


美形だった。


 ……なるほど。存外、自意識過剰というわけでもないのか。


「出会い頭に割と酷いことを言われたような気がするのだが」


 いや、あくまでも自称美男子なのかと、ね。


「よりはっきりと酷いことを言われた気がするのだが!」


 うわあん、と涙をぬぐうそぶりをしているが、口元がにやついているのが丸見えである。


 改めて、彼を見る。

 誰もがほう、と息をのむような、均整のとれた身体。その上に乗っかる顔もまた見事なもので、現代風に言えばアイドルグループにいそうな感じ、といったところか。

 瞳は深い海のような青。闇の中輝く金色の髪は、三つ編みにして背に流している。


 再三と自画自賛する様子があったのは確かだったが、なるほど。実際にこうしてその姿を観察してみると、女性に好まれそうな美男子だ。


 と、わたしがじろじろと見ているうちに、彼もまた観察をしていたようだ。ふむ、と腕組みを解いてぐっと親指を立てる。


「いや君、絶対にごく普通の女子高生じゃないだろう。まさにクール系美少女といった容姿に、実際は高い戦闘力とその場の面白さを追求するノリの良さ。実に私好みだが」


 うん? 褒められたんだか貶されたんだか。


「褒めたつもりさ、一応はね」


 ……いや、良く考えたらこれも自画自賛じゃないか?


「そうだね!」


 てへぺろ、とかやられても痛い、だけ、……でもないな。思いのほか似合う。心なしかオノマトペと星が飛ぶ様子まで見えそうだ。


「さて、遊ぶのはこれくらいにして本題に入ろうか」


 そうだな。今更、前置きが必要な間柄でもないし。


 さて、現状の確認、と行きたいところだが、その前に事前知識のおさらいでもしておこうか。

 いくら差異があると言ってもゲームと酷似しているのは確か。ならばまずはゲームのストーリーの確認だ。


 ゲーム『フェアリーテイル・シャンゼリン』を、振り返ろう。


「シャンゼリンを主人公として、ストーリー開始は学園の入学式。期間は一年間、で良かったね?」


 ああ。シャンゼリンは他の多くの登場人物と同様に18歳。だが魔法の才能の発見が遅れたために、本来は16歳で入学するところを2年遅れで入学する。


「このあたりの流れは私の方も変わっていないな。そしてエンディングは卒業記念式典のイベントを経て、エピローグが少しだけ語られて終わる、はずだった」


 公式サイトのあらすじを参考にすれば、だな。

 まあ、実際はその前段階である年度末のダンスパーティーのイベントで、わたしの記憶は途切れている。本来ならばあのシーンの後にテオフィルの卒業式の描写と、エピローグが挿入されるはずだったろう。

 内容がどんなものかは知らないが……今は、なんとなく察している。


「奇遇だね、私もだよ。……おそらくは、私の計画が狂わずにそのまま進行していたら、ゲーム通りのエンディングに辿りついていただろうからね」


 はあ、と彼はため息をついて苦笑を浮かべた。実にわざとらしい。

 この男はあの詰んだ状況で道化を演じて見せていたが、むしろ常に道化を気取っていると言えそうだ。やることがいちいち、うさんくさい。


 では、そのテオフィル攻略エンディングへのルート……テオフィルルートの確認だ。

 ゲームでは入学して一週間のチュートリアル部分で、基本的な攻略キャラクターすべてに出会うことになっている。テオフィルは最も早く、最も頻繁に会うキャラクターだ。


「あぁ、どのキャラクターを攻略しようとしても、絶対に干渉する。そんなところだったかい?」


 参考までに、軽く二番目の兄に聞いたところ、ゲームバランスを狂わせるレベルでの過干渉らしい。

 テオフィルのイベントが起こりすぎるために、他のキャラクターのルートに入れない事態が頻発。狙ったキャラクターより先にテオフィルのフラグが立ってしまい、強制的にそちらのルートに変更されたり、な。

 一部では、悪役令嬢よりも邪魔をしてくるキャラとして憎まれているらしいぞ。


「うわあ知りたくなかった」


 というか、だな。むしろ悪役令嬢役のヴィヴィアンヌはあまりそれらしい邪魔はしてこない。

 美男子によく声をかけられるシャンゼリンに対しての忠告がほとんどで、いじめだの暴言だのは一切ないしな。


「今のヴィヴィアンヌを知っている身としては、らしい、としか言えないな。性格がキツそうな顔をしてはいるが、生真面目で正義感の強い人だ」


 うむ、実にわたし好みのキャラターだ。


「……」


 ……さて、ゲームの話に戻ろうか。


 公式が出している攻略キャラクターは4人。王子、騎士、平民、魔法使いと、まあファンタジーの王道といった取り合わせ。

 ただしエンディングは5種と発表されているから隠しキャラがいるのではないかという話だったか。5人目は妖精と匂わされていた。


「妖精、ね。君のイメージとはだいぶ違うらしいね?」


 うんまあ、フェアリーというよりもエルフ、といった感じかな。

 羽の生えた掌サイズの小人をイメージしていたが、違うんだろう?


「有名どころだと鉱山妖精ノーム屋敷妖精ブラウニー靴妖精レプラコーン腐金妖精コボルトなんかもいるね。ああ、私のご先祖様は丘尾妖精フルドラを王妃にしたとかいう伝説もある」


 かなり知名度の低いファンタジー生物の名前ばかり出てくるから、これは乙女ゲーなのかと何度も疑ったよ。

 しかも手垢がついた和製ファンタジー生物ではなく、原典よりというのだから恐れ入った。


 そうだな、ゲーム名にフェアリーテイルと挿入されているし、妖精についても少々調べた方が良いかもしれない。お伽噺というよりも、史実が大半という気もするが。


「うん、確かに。まあ私の目的にも関わってくるしな。妖精の約束とか。……さて」


 そう言って、彼は嘆息しわたしを見た。


「実に有意義な話し合いだった。名残惜しいくらいだ。しかし、自問自答・・・・はこれくらいにしておこう」


 そうだな。現実的に今の『私』を見れば、一人で虚空に向かって会話している怪しい人物だ。しかも鏡に向かって。白雪姫のお妃さまのようだ。


「ははっ、あながち間違ってもなさそうだ。あれもまた自問自答であり、悪役なのだからね」


 悪役ね。まあ確かに、このまま『私』の目的が達成されれば、誰も幸せにはならなさそうだ。1人勝ち逃げを決めるとしよう。


 最期に笑うのは、『わたし』たちだ。


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