表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/32

第三十二話「滅びた街のプロローグ」


帰り道。


背には、眠るヨウタ君を背負って、隣にはスイがいて。

日は暮れてきてるけど、多分夜になる前にはギリギリ帰りつけるだろう。あの場所へ。

空の端には星がきらきらしていて、群青に染まる夜空には月が柔らかく浮かんでいた。


「……マユ、あのね、マユ」

「ん、うん?」


スイが、じゃれるように話しかけてくる。


「私、スイをやめようと思うんです」

「スイを……やめる? ごめん、ちょっと意味がわからない」

「あー、真面目に取り合う気ないですね?」

「い、いやそんなことないよ。毎度からかってるわけじゃないって。ホントにどういう意味なのかなーって思っただけだから」

「むー」


不機嫌そうに頬を膨らませながら、スイはまとわりつくように私の周りを駆け回って付いてくる。

それからじわじわ歩調を遅くして、私の歩くスピードに合わせて歩き始めた。

子供か妹みたいで面白い。そう言えば、最初に姿を見た時もそんなことを思ったっけ。


「……私の名前、自殺者スーサイド。こんな名前、嫌じゃないですか。自殺なんて悲しい名前、持ってたくないじゃないですか。せっかくマユと、生きてこの街を旅できるのに」

「んー、まあ……そうかも?」

「ちゃんと聞いてますー? だから、私、名前変えたいなって思ったんです。ね、マユ」

「……うん。それで、なんて名前に?」

「もー。だからそれをマユが考えるんじゃないですかー」

「えっ。私が考えるの? ええーっ」


そういうの苦手なんだけど、と言おうと思ったが、とても楽しそうに私の周りを歩くスイを見ると、言ってしまうのも何だか可哀想だなあと思ってしまった。


「……スイ、スイか。そうだなあ、じゃあヒスイとか?」

「むー、ヒスイだと私の色と関係ないじゃないですか。翡翠は緑色ですよ?」

「注文が多いなあ。じゃあ、目が赤いからルビーとか」

「ルビー……んー、悪くないけどしっくり来ないです」

「しっくり来ないて。それじゃあ……」


うーん、と首を傾げながら歩いて考える。

スイ。スイの代わりになりそうな名前。なんだろう。


――そうだ。


「……ナビゲイトとか、どうだろう」

「ナビゲイト?」


露骨に、スイは微妙そうな顔をする。


「だ、だって、ほら、スイは私だって知らないようなことを今は何でも知ってるし、その前から私と一緒にこの街を歩く時も、あの柱へ向かう時も、案内ナビゲイトしてくれたし。だから、自殺者スイサイドじゃなくて、案内者ナビゲイトじゃ、ダメ?」


何を話してるかわからないような、しっちゃかめっちゃかになりつつ提案する。

スイは、話している内に、何だか得心が行ったような顔になってうんうん頷いていた。

あれ? これで良いの?


「……ナビゲイト。良いですね、ナビゲイト! それじゃぁ、これから私の名前はナビゲイトです!」


おお、気に入ってくれたのか。

割と適当に考えたのに。


「……とか言ったら怒るよね」

「え? マユ、何か言いました?」

「あっ、ううん。何も」


スイ――いや、ナビゲイト。


ナビは、くるくると私の前で回ってみせ、機嫌良くにっこり笑って口を開いた。


「私はナビゲイト! マユの行きたいところに、どこまでだって案内します! さあ――マユ。今度はどこへ行きましょうか?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ