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その花瓶に水は要らない 2

 今回の僕は病気に伏せったお嬢様であるが、どうやら記憶を見る限り生まれついてのものではないみたい。

 つい一年ほど前なら外で元気に遊び回っていた、そんな輝くような記憶が大事にしまわれていた。


 そして彼は、その記憶の名残だ。



「久しぶりだね、リリー」

「そうだね」

「あぁ、本当に…久しぶりだ」

「………」

「………」



 空気は重い。


 重い。いや、重い。重すぎだよ!

 仕方ないけどね! 僕はもう死を覚悟して誰にも顔を会わせないようにした訳だし、友達だった彼…ルドルフも死の際にいる人と何を話せばいいかなんて、少年の彼に問うのも酷だよね。



 なら、もうこの世界のリリーは僕になったのだし死に役として物語を薦める役を負おう。


「ルドルフは元気だった?」

「僕はげ………元気だよ…」

「………」


 うん、そうだったね。流石に全然元気じゃない人の前で、元気だよ! って答えさせるのはちょっと考えさせるものがあったか。

 ごめんね、これは僕が悪い。更に空気を重くしたのは僕が悪い、ごめん!


 あぁ、換気したい!



「…花が咲いたよ…」

「え?」

「ほら、リリーと。埋めた、あの花」

「あー…そうか、あの花。もう咲いたんだね…」


 リリーの記憶を辿るとすぐに答えは見つかった。


 元気だった頃、あの日もいつもと一緒に二人で遊んでいて--



『うわぁ、キレイだね』

『うん…いっぱいある…』


 あの日リリーが住む町には旅商人のおじさんが来ていたんだ。

 おじさんが並べる品々は子供にとってきらきらした…まるで宝物が並んでるみたいだった。


 でも宝物は正しく宝物で、リリー達のお小遣いでは買えるものじゃあなかった。

 お父さんやお母さんはそのとき働きに出ていたし、当時のリリーは自分の家が裕福ではない事を知っていたので気持ちをグッと押し込めて我慢したみたいだ。


『…行こっか』

『…ん』


 ルドルフはそんなリリーの様子を見てなんとかしたくて、でも今の自分じゃあどうしようもないことが悲しくて辛いけどリリーの腕を引いた。

 リリーもそのルドルフの心遣いは分かっていたし、惹かれる目線を切ろうとした。


『待ちなさんな、坊や』


 そんなリリー達を止めたのは、店主のおじさんだった。


『あ…ごめんなさい、僕たち買えるようなお金は無くて…』

『いやぁ、見るのは無料(ただ)だよ。呼び止めたのはちょっとした頼み事があってな』


 おじさんはごそごそと荷物を漁って、目当ての物が見つかったのかちょいちょいと手招きした。


 僕からすれば知らないおじさんに付いてっちゃダメ、と言いたいけれどリリーとルドルフは興味津々で近づいていった。


『ほら、これをあげよう』

『あ、ありがとうございます。これは…』


 ルドルフが受け取ったのは手のひらに丁度納まるぐらいの布袋だった。

 ルドルフはそれを開けてみると、中に入っていたのは小さな黒い粒。


『キラキラしてない!』

『こら、リリー!』

『いやいや、その通りだからなぁ。キラキラはしてないなぁ、この種は』


 そのときリリーはキラキラした物を貰えると思ったので思わず言ってしまった、でもそんなリリーを笑って許した店主はその種について説明してくれた。


『それはな、ある花の種なんだよ。おっと聞かれてもどんな花かは知らんよ。人づてに貰ってな、貰ったは良いが自分で育てようにも旅商人が一カ所に留まる訳にはいかんし』


 完全に要らない物渡したかっただけじゃねぇか、と店主に僕は言ってやりたくなるが。

 リリーにとって花の種というのは未知の物で、その黒い種が自分の知っている綺麗な花になるということにワクワクしていた。


『キラキラするの!?』

『キラキラ…ってーと、分からんが。ま、自分が一から育てた花は--キラキラしてんのかね』


 おじさんは自分の発言が恥ずかしくなったのか赤くなって顔を背けていたが、リリーにとってはそんなことよりそのキラキラしていない黒い種が、どんな風にキラキラするのかと心を膨らませていたのだ--



「(甘酸っぱいわ~)」


 ちょっともう子供とは言えない精神年齢を過ぎ去った僕には、眩しすぎるというか胸焼けがするというかなんだか自分が恥ずかしくなってきた。


 うわ、どうしよう。青春したい…猛烈に青春したい。若かりし頃の自分に戻って甘酸っぱい青春がしたいよ!


「ふわぁぁああ…」

「リ、リリー…?」

「んん、なんでもない。なんでもないよ、ルドルフ」


 ちょっと鬱屈とした感情が漏れ出てしまっただけだからね。

 もう1回だけ溜め息をついて、キチンとルドルフと向き合おう。


「ルドルフ、一つお願いがあるんだけど」

「! なんでも言って! 僕に出来ることなら、何でもするよ」


 ルドルフは嬉しそうだ。何をやったら良いか分からないルドルフには、これ以上待ち望んだ言葉はないだろうからね。


 でも、リリーはその気持ちを踏みにじるんだけど。


「もう面倒を見なくていいよ、その花」

「え?」

「いらないの、花もルドルフも」

「…何を、言ってるんだよリリー。約束したじゃないか、一緒に見ようって。キラキラした花を--」

「私ね、もう見たくないの。なんでそんなに私を苦しめるの?」

「ちがっ--」



「私はもうすぐ死ぬのに」



「僕は……!」ルドルフはその後の言葉を続けることは出来なかった。

 見てしまったからだろう、目の前の彼女の頬を伝う涙を見てしまったから。

 ルドルフと決して目を合わせようせず、もう出ることはない窓から見える風景を見つめるリリーにかける言葉をルドルフは持っていないだろうから。



「ごめんね」

「あ…」

「でも、出て行って」

「…分かった。僕の方こそ、ごめん。また明日も--」

「忘れて、もう私のこと」


 ルドルフは今度こそ言葉を失ったみたいだ。


「もう、会いに来ないで」

「ッ--」



 小さい頃から一緒だった存在からの、この言葉はとても効いたようで。

 ルドルフはもう色んな感情でしっちゃかめっちゃかになった表情のまま走り去っていった。


 ……中々心にくるものがあるなぁ、死に役と言えど憎まれ役は買いたくないよ。



「でもこれが、彼女の本心ではあるんだよね…」



 僕は胸の中のリリーに確かめるように呟いた。






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