その花瓶に水は要らない 1
「………」
「珍しいですね。君が黙っていると」
「…僕って、そんなお喋りだった?」
「えぇ、そんなに元気がないと僕の調子も狂ってしまいます」
「…そっか…」
そうは言っても、何か言う気は起きなかった。でもラルクの調子が出ないのは仕事に差し支える。
それは困るよね。
「その本、僕がやったやつだよね?」
「えぇ、そうですよ。君と少年の物語です」
「………」
分かってるよ。もうその話の僕の出番はもう終わりで、関係ないことだし。必要以上に干渉することは、ただの無駄だってことは。
でも…――
「読みますか、死に役さん」
「え?」
「君が歩み、死に役として全うしたこの物語を」
「でも…僕の役目はもう終わって…」
「だからといって、その後を知るのは別に悪いことではありません。逆にその気持ちを抱えたまま次の仕事に取り掛かったら、支障が出てしまいそうです」
笑いながらラルクはそう言っていた。いいのかな、って僕は思う。でも、それでいいっていうなら僕は読みたいと思う。
彼らの物語を、君の物語を――
――…、
「んっ…」
いつもの感触だった、この世界のリリーの情報が流れ込んでくる。
でも、少ないかな今回の記憶は。すんなりと受け入れることが出来た。
そして、
「うわ…ちょろいな、今回」
もうリリーは死にかけていた。
「ほらリリー、大丈夫固くなかったかしら?」
「大丈夫だよ、お母さん」
ぎこちない体を頑張って動かしてお椀からスープをすくう。中に入っていた豆は薄味だが、しっかりと味付けされて美味しい。
とても温かみを、愛情を感じる料理だった。
「これ、お父さんが遠くの薬屋さんまで探してきてくれたお薬なの。きっと元気になれるから!」
「うん、ありがとう。お母さん、お父さん。でも――」
リリーの体は病気に犯されていた。この町でまだ治療法が見つかっていない流行病らしい。治療は困難だ。それでもリリーの両親は遠方にも手を出し、小さな噂話まで聞いて娘のことを諦めていなかった。
しかしそれは、
「もういいよ。私のために、無理しないで…。知ってるから、私のせいでお父さん、お母さんが苦しんでるの」
治らない病を治ると偽り、金を奪う輩もいるのだ。こういう状況だからこそ、金を稼ごうとする奴が。
このリリーの両親も心無いそんな奴らに、高額の薬を騙されて買わされたのだ。その事を聞いてしまったこの世界のリリーはとても悲しんで、扉を閉ざしていた。
そんなとこに僕が来た訳だが。で、開けた。だってお腹が減ってたもの、仕方ないでしょ。