幕間 1
「どうですか死に役さん、君も飲みます?」
「いいね、貰うよ。いやー誰かさんのせいでいつも大変だからさー」
「ははっ、それは大変ですね」
ははっ、じゃないよ。主に君のせいだからね、ラルク。自覚してる? 自覚してますかー?
「それにしても久しぶりの休暇なのですから、外で羽を伸ばしてきた方が良かったんじゃないですか?」
「そうしようと思ってたんだけど、いざ休みってなったら外で遊んでくるより家でゆっくり過ごしたくなっちゃてねー」
「家が一番、っていうのは同意致しますね。どうぞ」
「ありがと」
ラルクに淹れて貰った紅茶は美味しい。いつも本を読んでるラルクは本のお供になることなら、なんでも出来るエキスパート。
例えば読書するのに必須な暖かい飲み物は勿論だし、ゆったりとしたリクライニングチェアもラルクの自作だっていうのも驚きだ。
というより、そもそもこの空間自体もラルクが作ったものだしね。
「思ったんだけどさ、ラルクって飽きないの?」
「何がですか?」
「読書」
身も蓋もない話だが、記録者であるラルクは"仕事"としてずっと本を読まなくちゃいけない。
僕も死に役として散々愚痴を言い続けているが、仕事だし仕方ないと割り切って頑張っている。
だからプライベートではせめて仕事の事は忘れて、ゆったりと過ごしたいし。
でもラルクは僕が見た限りでは、この部屋以外ではほとんど見たことがないしずっと本を読んでいる。
ラルクだって流石に不眠不休で毎日仕事なんていうデスワークではないだろうし。
「趣味ですから」
「いやいや趣味だからって普通に飽きない!? 毎日毎日読んでたらさ!」
「甘いですねー死に役さんは。私クラスになれば寝てる文章を読めば寝た気になりますし、ご飯の場面を読めばお腹一杯になります。もはや読書だけで生きられるんですよ、私は」
「…それって、もう人間やめてない」
掛け値なしに。
「まぁ、半分冗談です。私だって生きてますし、ちゃんとご飯も食べてますし寝てもいますよ?」
「それにしたってさ、もっとアウトドアスポーツ的な。やらないの?」
「本を読めば「分かった、分かったから! ちゃんと体を動かそう!」
コイツ、全ての質問を本を読めばで返してきそうだ…。
流石にずっと座りっぱなしで本を読んでるだけなんてマズい!
「よーし! じゃっ、キャッチボールしようよ! 僕も体を動かしたいし」
「お調子役さんが空いてますから。どうぞ」
「呼んだ?」
頭上からいきなり猿(一応人間)が現れた!
「猿は呼んでないんだけど。っていうか、猿も今日休みなの」
「人様のことを猿サル言うんじゃねーよって言ってんやろ! 仕事上がりー、ぃあー疲れた疲れた」
「お疲れ様です、お調子役さん」
ラルクはそう言ってお調子役が仕事を果たしてきたであろう本を受け取って、次に読む本のタワーに重ねていた。
記録者は全ての役柄の仕事のチェックが仕事だ。良くやるよ、僕の身長ぐらいに重なった本を見て思うね。
「って猿のことはどーでもいいんだよ! だーかーらーキャッチボールしようよ!」
「おーいいやん、やろうぜやろうぜ!」
「猿には聞いてないんだけど」
「だから誰が猿やねんっ! ワイはれっきとした人間だから、にーんーげーん!!」
「あぁ分かったよ、とりあえず猿人が鏡を見れてないってことはね」
「あぁ、なに言うてんねん…このイケメンフェイスは毎日チェックしとるわ…」
「で、ラルク遊ぼうよっ!」
「なに無視しとんねん! ねー、えー、おー、いやー…あの、ちょっとぐらい反応してんええやないっすか…」
本格的に猿を無視していた。全く、小さい体躯でピョンピョン視界を遮るので無視するのも一苦労だ。
「ふふふ、有難い申し出ですが遠慮しておきますよ。やっぱり私は本を読んでないと気が済まない人間のようですし…それに――」
「あー、何服引っ張ってるんだよ!? しかも涎までついてるじゃん、この汚物がッ!」
「酷いッ! 酷過ぎるやろ、その言い草はっ! それに涎ちゃう、涙や! お前に流されたなッ!」
――君たちと一緒だと、飽きませんので