表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/10

ドンマイヒーロー!4

 当然の話だけど、物語にはジャンルがある。


 それでジャンルで割とエンディングというのは推察可能だ。

 簡単なので言えばミステリーは謎が解けたことで完結。ファンタジーはラスボスを倒せば完結。

 いやもちろん色々な差はあるし、結末もそれに沿うとは限らないけど。大まかには分かるでしょ?


 僕がこの物語を王道ファンタジーと思っていた。当然だよね、勇者とか魔王とかいたんだしさー。

 でもそれはミスリード。


 今の僕なら分かる、嫌という程にね――


「ごめん…ごめんね」

「……コフ」


 血が溢れてきて上手く口に出せない。なので反論できないが、謝るぐらいなら刺すな。

 その謝罪はただ自分を慰めるだけのものじゃないか。

 少なくとも刺されながら言われても僕は逆に癪にしか触らないぞ。もしも僕が生き残ったら刺し返してしまうぐらいには。


「(ま、僕になら気にしないけど……君の気持ちは分かったよ、レナス)」


 意識が朧げになる。落ちていく。もう戻れないと分かる崖に飛び込んでいくような。そんないけない感覚に身を落とす。

 恐怖はない。痛みはあるけど。常人なら一度しか体験しない感覚であろうが、僕には慣れ親しんだ感覚だからね。


 そんな僕からのレクチャーをしておこう。

 無駄な抵抗はしないことだ。死ぬときは死ぬんだ。慌てず騒がず、委ねよう。その天まで続く流れにね。



 ――…、



「リリー起きろー、朝だぞー」

「うっさい死ねks」

「朝から辛辣過ぎないかッ!?」


 この能天気糞野郎はまたいつもの如く起こしに来た。

 死に戻りだ。

 物語を完結させず死んだ。そのためのリセット。

 リスタート地点はこのゴミ屑が起こしにくる魔王討伐までの二か月前の宿だ。


 ごみ屑が「僕が何かしたかい、ごめん」「何か気に障ることがしたなら許して欲しい、何でもするから」と言うので、とりあえずレナスの前でふしぎなおどりでも踊ってこいと言っておいてやり邪魔ものは排除した。

 これでレナスがgmkzハルトに愛想がつけばいいが、とっくの前にレナスはハルトに陥落されているのでそれは無理だ。と"経験"で悟っている。


 実に僕は、三回程既に死に戻りを経験していた。


 整理すれば、僕はレナスに三回とも殺されている。動機は単純で嫉妬だ。

 レナスはハルトに惚れている。これは決定事項だ。

 そしてハルトは決してそのレナスの思いに応えることはない。これも決まっている。


 初めにレナスにハルトとのキスシーン(僕から見れば襲われただけなのだが)を勘違からハルトのクズっぷりも合いまり誤解が解けないまま、最後は僕が刺される。

 正しく痴情の縺れとかいう奴だ。昼にやれ。少なくともファンタジー世界に持ち込んでんじゃねぇという奴だ。

 だがこんな物語でも完結させないことには僕が解放されることもないため、嫌々ながらもやるしかない。


 という訳で一番手っ取り早い方法としてレナスの恋心をどうにかしようとしたのだ。

 だがそれは結果として上手くいかなかった。それが三度の死亡に繋がる。

 一応レナスの恋心も分からなくないのだ。魔王を殺すまでのハルトは確かに良くも悪くもテンプレ勇者のように、誰にでも優しくすけこましで鈍感なのだ。

 そして一番問題なのは、そんな勇者も魔王を殺してしまえば一人の男でしかないということ。

 悪く言ってしまえば勇者の旅は自然と禁欲的生活をハルトに強いてしまった、だから直接的な欲望に免疫がないのは仕方ないとは言えるかもしれない。


 レナスの恋心を変えることは出来ない。となるとハルトの屑化をどうにかしようとするが、それだと僕がハルトにつきっきりになりレナスにまたあらぬ誤解を受けややこしくなる。

 解決地点が見えない。今はそんな状況だ。


「リリー…そのぉ、機嫌は直ったかい?」

「は、どの口が言ってるの。一体誰のせいでこんなに悩んでると思ってるんだか…」


 今のハルトに言っても仕方のないことなんだけどね。

 でも、この僕の気持ちも分からない(分かって貰っても困るんだけど)間抜けな顔を見てると沸々とイライラしてしまうんだよね。


「やっぱり何かしてしまっていたのか…ごめん」

「………こっちこそ言い過ぎた…」

「さっきも言ったけど、何か悩み事とか困ったことがあったら何でも言ってくれ。俺たち――仲間なんだからさ」

「………」


 …本当に、何でこんな男があんな屑に成り下がるのだろうか。人は確かに変わる生き物だが、こうも逆転するだろうか。

 ハルトが変わったのは、魔王を倒したあとのお祝いの付き合いで色々と回っているうちで…――



「ん…?」



 違和感だ。それは死に役としてではない。ハルトの幼馴染としてのリリーが訴える違和感。

 豹変した幼馴染を信じる、そんな真摯な気持ち。


「そうだよね…これは、王道ファンタジー…なのかもしれないね」


 僕は小さくひとりごちた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ