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ドンマイヒーロー!3

「あ…、なんだって?」

「だから女遊びもほどほどにしろって言ってるのさ」


 僕がこの世界に来てまだ3ヶ月程しか経っていない。

 僕がこの世界にきて2ヶ月で魔王を倒して、1ヶ月は宴会やらでゴタゴタしてたってことだ。


 そんな短い間でも人は変わる。

 人なんて元々不安定な生き物だし、たった100年も生きられればいい人間が不動の心なんてものを持てる訳がない。

 だから変わることは否定すべきじゃない。だけど、悪者になっていいって訳じゃないのは、分かるよね?


「別にね。僕も君が何処に行こうと知ったこっちゃないし、君が何をしでかそうと僕はどーとも思わない」


 それは間違いなく。僕としても、そしてこのリリーとしても同意見だ。


「だけど、君は勇者だ。魔王を倒して世界の救世主となった勇者なんだ。その勇者が女の尻ばっか追いかけていいと思ってるの?」

「…英雄色を好むっていうだろ。何か問題あるか?」

「あるね、大いにある。君のその、馬鹿みたいに開き直った態度にもね」


 ハルトは馬鹿だ。大馬鹿だ。小さい頃から。

 辺境の小さな村で産まれたくせに、本で知った勇者になりたいと小さな子供が大口叩いて。その癖毎日努力を重ねる馬鹿だった。

 僕自身も小さな村の小さな呪い師になる予定だったのに、こんな馬鹿と幼馴染だったせいで巻き込まれて、世界まで救うはめになった。

 そんな周りも巻き込んでしまう、馬鹿で大馬鹿でどうしよもない馬鹿だった。

 …けれど、だからこそこのリリーも。そしてレナスも君に付いて行く気になったんだ。そんな君だったから"好きだったんだ"。


「君は英雄たる勇者になりたかったんだろう? 君の思う勇者は、世界を救った後は遊び呆けるような阿呆だったのかい?」

「…っせえなぁ」

「は?」

「一々うるさいんだよっ! 幼馴染だからって黙って聞いてりゃ言いたい放題いいやがって…俺は勇者だぞ! 世界を救った英雄(ヒーロー)だ!! そんな英雄の一味だったからって調子乗ってんじゃねぇぞ。世界を救ったのは俺だ! 俺の力だ!!」

「………」


 何も言えない。ショック? そんなんじゃない。

 幻滅だよ。ガッカリし過ぎて溜息さえ出なかったよ。馬鹿だ馬鹿だ言ってきたけど、違うね。コイツは馬鹿ですら無い、只の畜生で屑だ。


「…分かったよ、もう僕から何も言うことはない。ただ一つだけ。幼馴染からの一生でたった一回限りの最後のお願いだ。"レナスにもう近づくな"」


 僕自身もこんな野郎会話するのも嫌だけど。でも僕はリリーではあるが、その前に死に役だ。この物語の結末を探すことを放棄することは絶対に許されない。…ま、仕事柄こんな奴と関わることも少なからずあったしね。

 そして僕だって死ぬばいいって訳じゃないんだ。僕が適当な死にポイントまで物語を進めるのも僕の仕事だ。

 正直言って、レナスの友人としてのリリーとしてこんな奴に胸を悩ませるのも馬鹿らしいと思うし。死に役としても、とりあえずレナスとハルトがこれ以上関わるのは物語として危険な気がする。

 そんな色々な意味を込めての言葉だったんだけど、


「え、なに? 何で此処でレナスの名前が出る訳おかしくない?」

「何もおかしくないよね。僕はレナスの友人として、正しい言葉を選んだつもりだ。…それと近づかないでくれる、気持ち悪いんだけど」

「ハハハッ」


 アイツはそう笑った。それで、僕の中のリリーは。本当にハルトは変わったんだな、と失望した。

 それで終わればまだ死に役としての僕は呆れずにすんだけど、あろうことかこの(Fuck)野郎は壁に僕の華奢で儚げな体をぶつけやがった。簡単な言葉で言うと壁ドンした。しかも馬鹿だから思いっきり僕の肩を掴んで押しやがった。それ物理的ダメージ負うからね? 普通の女の娘にやったら普通に怪我するからね?


「なんだよ、そういう事ね。お前も、ってことね」

「言ってる意味が理解不能なんで、人間に通じる言葉で話せないの? ま、馬鹿だからね。勇者の中の英雄(笑)だからね、仕方ないか」

「いいっていいって。この後に及んで恥ずがしがんなよ。分かってからさぁ、俺聡い奴だからね。ちゃ~んとレナスの気持ちにも気づいてるし、"お前の気持ちにも気づいてる"」

「は?」


 …ゴメン。いつもは死に役として物語のことを考えてから発言しているけど、これはリリーとしても死に役としても心から思わず零れてしまった。

 お前は何を言っているんだ?


「好きってことだろ。リリー、お前も。まぁ仕方ないよなぁ。幼馴染だから切り出せないってこともあるし、毒も吐いちまうよ。許す、許すよ俺は。だって勇者だからね、勇者の中の英雄だからな。でもな、だからって仲間をな、裏切っちゃいけないぜ。いくら俺が好きだからって、こんな裏から手を回すようなやり方でライバルを減らそうなんて…女って怖いわ~」

「………」


 何も言えない。うん、これは何も言えないわ。こんな勘違い(ファック)野郎に何を言っても無駄。無駄無駄無駄無駄過ぎる!

 久しぶりに本気で切れていた。やっぱり長く過ごしていると、怒りの琴線っていうのも山より高く海より広くなるんだけどさ。

 無理、こいつ無理。生理的にもの凄く無理。僕が男だったとしても、こんな奴無理!


「死ね」

「おいおい、恥ずがしがんなって」

「は?――」


 それはアレだった。うん、強姦です。訴えます。この世界の司法機関がどうだか知らないけど、私刑も厭わない。


 この馬鹿阿呆糞虫屑塵芥ボケ間抜け死ね最低しょんべん小僧!! まとめて死ね(Fuck)!!



「え…――?」



 そして物語はこんな展開を待っていたんだろうか。ハルトに無理矢理キスされた僕の視界は彼女を映していた。

 彼女は茫然とした顔をしていた。リリーとしての僕は彼女にそんな表情をさせてしまったことに非常に申し訳なく思い。死に役としての僕はとりあえず目の前の間抜け顔で決め顔を作っているこいつをぶち殺したくなった。


 だが僕がどう思おうと、彼女の心には目の前の光景だけが映りそしてそのままの意味で捉えてしまう。


「待っ――」


 ハルトを思いっきり突き飛ばしたが、彼女はそのまま身を翻しエルフの身軽さで逃げて行ってしまう。



「レナス…――」


「あ~あ、見られちまったか…グギャ!」とのたまうハルトの金○を思いっきり踏みつけ、僕はこの後どうすればいいのか。レナスの友人として、死に役として必死に考えていた。



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