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ドンマイヒーロー!1

「……は~…」

「どうしました? そんな人肌に包まれ死にそうになった魚のような眼をして」

「回りくどいな!? シンプルに気だるげとか物思いに耽ったような眼をしているでいいんじゃない!」

「あぁ、そういう心境だったんですか。久しぶりに実家に帰ったはいいけど、友達もいないしやることもない、無為にテレビを見て時間を潰している息子の様だったので」

「例えが庶民的に具体的過ぎて的確に思えてきたよ!? …まったく」


 僕は紅茶を傾け一息入れた。

 ラルクと話すと話題が尽きることは無いけど、いっつも無駄に僕がツッコミを入れることになるから疲れるんだ。


「――それで、今回はどのような物語だったのですか?」


 まぁ、それでも馬鹿みたいに振る舞っているだけで。ちゃんと僕の気持ちを分かってくれてるから、許すけど。


「知ってるくせに。今もその本を読んでるじゃないか」

「いえいえ。確かにこの本は君が経験したことを記してくれていますが、結局私は傍観者でしかないのですよ。当事者としての君の気持ちは、君しか知ることは出来ない」

「…それは、記録者(ホルダー)としてのラルクの言葉?」

「いいえ、君の親しい友としての。純粋な興味です」

「…ふ~ん」


 その言葉を、信じてやるとしよう。


「ま、単純な話だよ。…そうだな、身近にあるものほどその大切さに気づかないってやつかな」

「もう家族みたいなものだと思っていた幼馴染な女の子が、気が付いたら友人に寝取られていたときと同じ心境ってことですね」

「違うよ!? 僕はそんなドロドロしたメロドラマの主人公みたいな気持ちで言った訳じゃないから! だからシンプルに、王道っていうのは王道だからこそいいもんだと思ったの! 分かった!!」


 なんだろうか、ラルクの例え話は微妙にニュアンスが異なるので突っ込まないといけない気持ちになる。


「少し前までは飽きたー、食あたりー。いい加減お前らは親友が死なないと魔王を倒せないのか…etc。と、言っていた本人の言葉とは思えないですね」

「だから分かったの! 変に捻るより、王道の方がまだマシだった。何で僕があんな奴のために何度酷い目にあったか…!」

「はいはい、もう終わった話だからいいじゃありませんか。いや終わった話ではなく、君のおかげで続くお話ですね」


 そうラルクに励ましのような言葉を貰うが、思い返せば思い返すほど腹が立つ。

 それぐらい、前の話は最低(さいってー)な話だったよ…。




 ――――――…、




「リリー起きろー、朝だぞー」

「…ん…くゅ?」

「お、今日は寝起きいいなぁこの程度で起きるとは。みんなー、今日の朝飯は早く食えるぜー!」


 ハハハ、と何処か遠くで笑い声が聞こえる。その声で僕は完全に意識が起き始めた。


「お、本気で今日は寝起きいいみたいだな。昨日はマグプラントの駆除で大分無理させちまったから、当分起きねーと思ってたんだが」

「……ん」


 記憶が、洗い出される。常識から、人間関係、技術、近況、そのときどう思ったか、昨日は何を食べたのか。

 昨日までこのリリーが生きていた記憶の全てが、今僕の中に再吸収され整理されていく。


「ハルト…だよね?」

「ん…ンハハハハ! 珍しく起きてると思ったら、どうやらいつも通り眠ったまんまみたいだな。新しいパターンに挑戦中かっ!」


 そうだ、この特徴的な笑い声は間違いなくハルトだ。僕が聞くまでも無く、


「"勇者"ハルトだ…」

「おう! 俺こそが、世界を救う英雄(ヒーロー)になる勇者ハルト様だぜ!!」


 …またこの展開かい。



 ――…、



 あーはいはい、分かりました分かりました。

 僕が何をすればいいのか、何処で死ねばいいのかハッキリ分かりましたよこんちくしょー!


「リリー…大丈夫、何かあった?」

「ん!? 何もないよ! 何もありませんよ、えー全ッ然!!」


「あんた朝何かやったの?」「俺がリリーに変な事するわけないだろ!」と、僕がキレ気味に答えたせいかハルトがレナスにあらぬ誤解を受けているようだが知ったことじゃあない。


「(何度目だ、この展開!? しかも連続だよ、連続! この前も僕はリリィ、リリィ叫ばれながらやっとこさ世界を救ったとこだったのに!)」


 人間に敵対する魔物の親玉、魔王を倒そう。そのために何か人類から選ばれし勇者とか選んで、旅程ぐらい組んでくれればいいのに少ない種銭貰って色々寄り道しながら魔王討伐を目指そうぜ!


 …うん、まぁね。細部に違いはあるけど、大筋はこんなもんだと思うよ。神様とか、実は魔王の裏には的な展開もあるけど。選ばれし勇者がいて悪の親玉をぶっ倒そうってのは王道だと思うよ、うん。


 でもね! 流石にこっちももうお腹いっぱいなのその展開! ただでさえ無駄にダラダラと仲間集めたり、船貰ったり、空移動できるようにしたり!!

 長いわッ! 魔王倒したいなら主人公鍛えてくれる師匠とか一杯連れて来て、最初から空飛ぶ船でも使って魔界とか魔城とかに乗り込めばいいじゃん!

 毎回毎回、プロセス踏んで…。

 初見なら楽しいだろうけど、僕は何回、何十回、何百回それに付き合ってきてると思ってるんだか…もうプロだよ、その道のプロ。村人からちょろっと会話すれば、即座にストーリーを進められる自信があるよ。


「(今回はもう僕が来た時点で仲間は揃ってるみたいだから苦労は少ないけど。めんどく臭いなー、どうせ魔王の城に入るのにもクリスタルが4つ必要とかあるんだろうなー。やだなー)」



 っていう風に、この頃の僕は考えていた。いつも通りの、勇者が魔王を倒す王道の物語なんだと。

 でもそれは間違っていた。これは王道の皮を被った――






「馬鹿な…この我が、全の魔を統べるこの魔王ルシファーが、こんな小僧に負けるはずが…――!?」

「………」

「やった、やったぞ俺は…! 魔王を、倒したんだぁぁぁぁあああああああ!!」

「………」

「やったわね、ハルト! やっと私たちの冒険を、使命を果たせたのね!」

「………」

「やれやれ、やっとこれで。俺も死んじまった娘に、顔向けが出来らぁ……」

「………」



 エンディング。きっとこれがいつものなら、もうここで壮大なエンディングが流れているはずなんだ。

 うん、きっと。でもね、それいつも僕は画面から見てる側なんだけどね。


 僕――"此処に立っちゃってるんですけど"


「(死ねて、ないんですけどーーーーーーーーーーーーーー!?)」


 この話は、魔王を倒す物語なんかじゃなかった。


 ――ここから始まる物語だったんだ。




 とりあえず一言。


「オウフ…」

「どうしたリリー?」

「…なんでもない」



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