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続・トイレットペーパー戦争

 私の名前は向坂藍さきさかあい

 至って一般小市民であり、大勢に埋没するタイプの花の高校二年生である。



 クラスの中に一人は居る友達も出来ない根暗なタイプが私であり、今日も今日とて会話らしい会話など一つもせずに一日が終わる。


 小学校の時分から親友を作るのが夢なのだが、どうやら今日も叶いそうになかった。ちなみに長年想いが募るだけあり、私の親友への理想は高い。

 栗色の緩く癖のついた髪をした私とは正反対なタイプの明るくて可愛い子が私の理想だ。何をしてもトロい私と違い、爽やかなスポーツ少女だと尚いい。グランドで部活中、ふと顔を上げた瞬間に目が合えば、にぱっと破顔して両手を振ってくれるような、そんな子犬系の女の子が欲しい。

 しかし根暗な私と元気少女のとは全く繋がりがなく、めぼしい子に目をつけたとしても距離は縮まらない。


 そして距離を近づけたくもない男との距離がじわじわと縮まっていくのだ。




 私の妄想をかき消すように、今日も今日とて後頭部に衝撃が走る。

 初めの頃のように消しゴムや定規は飛んでこなくなったが、ある意味それ以上屈辱的なトイレットペーパーがくしゃくしゃに丸められて飛んでくる。


 身体的な痛みこそないが、精神的な面でのダメージは計り知れない。


 だってトイレットペーパーだ。名前の如く彼らはトイレを住まいにし、用を足した後に利用するものなのだ。トイレ自体が目茶目茶清潔というイメージがない。そりゃたまに高級ホテルとかに足を踏み入れるとその美しさに目を見張るが、ここは学校だ。学校のトイレなどその道のプロでもなんでもない学生が洗うものだ。消臭剤すら安っぽい、長年の汚れが染み付いた場所。


 一応どこから手に入れてきたか知れない新品を利用しているが、入手場所がわからないだけに安心できない。まさか家から持参したとは思えないが、大体一日一ロール使うとして、彼の手元には残り七つは残っていた。



 初めてトイレットペーパーを投げられてから早一週間。先週の月曜から始まった奇怪な行動は、特進クラスだけで行われる土曜の授業を除き延々と続いている。

 ちなみに土曜にトイレットペーパーの襲撃がなかったのは、単純に襲撃者が学校に来てなかったからだ。『奴』は今年に入ってから一度も特別授業に参加しておらず、教師もクラスメイトも誰一人として進言していないため、私にとってその日は唯一の学校での安息日になっている。


 そして平和な日曜を挟んでの月曜日。

 彼の奇行は相変わらず続いており、もう呪いか何かかと疑いたくなってきた。



 初日は流石にぶちきれた私は、奴───恐怖の大魔王もとい、恐怖を募らせる番長の佐倉葵さくらあおいの顔面に向け、女子トイレから失敬してきた使い掛けトイレットペーパーを全力投球した。しかも顔面狙い。


 当たった瞬間気分は爽快だった。


 何しろそれまでの一週間、延々と後頭部を襲撃する物体を黙って受け入れていたのだ。あの、強面番長に逸し報いてやった瞬間の気分の良さったらない。


 しかしそれは本当に一瞬の快感だった。


 息を整え我に返れば、あの空恐ろしい三白眼をきりきりと細め、獲物を狙う肉食獣のように喉を鳴らしかねない凶悪な顔をした番長は、まるで呪いでもかけるかのようにゆるりと口角を上げた。天下の悪役も真っ青だよ!と絶叫したいくらい極悪な表情を見た瞬間、私は泣きたくなった。


 一瞬の喜びは本当に一瞬でしかない。彼の前では悪魔もないて逃げ出すはずだ。それくらい怖かった。

 忘れたいのに心のシャッターでメモリーに刻み込まれてしまったあの笑顔は、毎夜私を唸らせる。何が怖いって眠った後に夢まで出演する奴の執念が怖い。



 すっかり萎縮した私は、もうトイレットペーパーを投げられようが、その芯を投げられようが無抵抗主義だ。嘗て平和のために無抵抗を貫いた偉人がいるが、彼に倣って貫いている。

 例え後頭部が将来禿げようとも、握っているシャーペンが折れようとも、私は無抵抗だ。


 それなのに、ああそれなのにそれなのに。


 何を考えているのか、今日も今日とて悪魔は私にトイレットペーパーを投げ続ける。昨日チラリと見てしまったが、彼が投げたトイレットペーパーには赤いペンで描かれたと思しきハートがあった。

 ひびが入り所々棘が生えている歪なそれは、私への残酷な宣言に他ならないと思う。


 曰く、『お前をコロス』的な。なんかそんな感じな。


 だってあのハート怖すぎる。心臓に毛が生えているとでも言外に言いたいのだろうか。トイレットペーパー(使いかけ)を顔面投球した私に怨み辛みを募らせているのだろうか。

 もう、いっそばっさりやってくれ。生殺し状態に発狂しそうだ。



 冷や汗を流しながら今日も授業を受け続ける。このまま行くと登校拒否になるかもしれない。

 これは虐めじゃないだろうか。学校で一番の悪に目をつけられてる状態じゃなかろうか。

 根暗であっても今までカツアゲや呼び出しにはあったことがないのが密かな自慢だったのに、何でここにきて番長に目をつけられたのか。


 神様、私はひっそりと生きてきました。清く正しく美しく生きて来ただなんてあつかましいことは言いません。ですがここまで残酷な人生を突きつけられるような何かをしましたか!!?

 心からの問いかけは今日も今日とて返事はない。



 時計を見れば授業終了まで残り一分。

 番長の行為はトイレットペーパーが尽きれば終わる。そしてそれは計ったように一日の最後の授業のチャイムが鳴る瞬間なのだ。

 秒針を刻む時計をギンギンに睨みつけ早く進めと心から祈る。



 そうして今日も、チャイムと同時にトイレットペーパーの芯が投げられ、私の一日は終了する。

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