表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/11

代償

最初に失われたのは、時間感覚だった。

昼と夜の境目が、曖昧になる。

朝日を見ているはずなのに、胸の奥では夜が鳴っている。

「……大丈夫?」

眠らない魔女の声が、少し遠い。

レイは頷こうとして、気づいた。

首を動かすより先に、答えが世界に滲んだ。

彼が「大丈夫だ」と思った瞬間、

周囲の空気が“そうであるべき形”に落ち着く。

傷は開かず、

疲労は深まらず、

だが回復もしない。

星は、レイを守っているのではない。

世界を、先送りにしている。

「これは……」

魔女が息を呑む。

「君の中で、時間が“保留”になってる」

星を宿した代償。

それは力でも呪いでもない。

進まないこと。

レイは怪我をしない。

だが、治らない。

老いない。

だが、若くもならない。

感情も同じだった。

怒りは湧き上がる寸前で止まり、

悲しみは溢れる前に形を失う。

喜びは確かにあるのに、

終わりがない。

「……僕、ちゃんと笑えてる?」

魔女は答えなかった。

代わりに、彼の胸に手を当てる。

そこから聞こえるのは、心臓の音ではない。

鐘の音。

問いかけの音。

「星がね」

彼女は静かに言う。

「君を“生かしている”んじゃない。

君を結論にさせないようにしている」

星を体内に宿した者は、

世界にとっての未決定事項になる。

殺せない。

救えない。

終わらせられない。

観測者協会が恐れる理由が、ここにあった。

レイが存在する限り、

世界は“次のページ”をめくれない。

その夜、レイは初めて眠りかけた。

だが夢は見ない。

代わりに、無数の「もしも」が流れ込む。

もし、星を受け入れていたら

もし、終わらせていたら

もし、拒まなかったら

どれも起こらない未来。

どれも、確定しない可能性。

目を開けると、夜明け前だった。

眠らない魔女が、彼を見ている。

「……ねえ、レイ」

彼女は、ほんの少しだけ震えた声で言う。

「このままだと君は、

世界の外側に立ち続けることになる」

「人として生きる時間も、

物語の登場人物である時間も、

どちらも失う」

レイは、星片を握る。

光らなかったそれは、

今も光らないまま、確かに重い。

「それでも」

レイは言う。

「誰かが、すぐに答えを出す世界より、

迷い続ける世界の方が……」

言葉は、最後まで形にならなかった。

星が、静かに鳴る。

問いは、まだ続いている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ