瞬間
衝突ではなかった。
熱も、光も、衝撃もない。
ただ――
触れた。
それだけで、世界の重さが変わった。
星はレイの胸に沈み込み、
心臓の鼓動と、完全に同期した。
鐘の音が鳴る。
外ではなく、内側で。
「……っ!」
息ができない。
だが苦しくはない。
代わりに、終わったはずの感情が流れ込んでくる。
達成。
満足。
完結。
そして――
そのすべてに付随する、空白。
叶ってしまった願いは、
もう願う必要がない。
悲しむ理由も、
立ち止まる理由も、
前に進む理由すら――ない。
「目を閉じちゃだめ!」
眠らない魔女の声が、遠くで響く。
「それは“答え”をくれる星!
受け入れたら、君は――」
レイは、見てしまった。
その星が生まれた瞬間を。
戦争の終わり。
誰もが死なず、誰もが勝者になった停戦。
憎しみは整理され、正義は均され、
すべてが“正しい形”に収まった世界。
人々は泣き、抱き合い、
「これで終わりだ」と言った。
その瞬間、
誰も次の言葉を持っていなかった。
子どもは未来を描けず、
大人は夢を語れず、
物語は、閉じられた。
その完璧な終わりが、
世界から剥がれ落ち、
星になった。
――終わらせる願い。
「……僕は」
レイの口から、言葉が零れる。
「終わらせたく、ない」
星が、初めて揺らいだ。
叶った願いは、拒まれることを想定していない。
なぜなら、拒む理由が存在しないからだ。
だがレイは、理由を持っていた。
「終わりがあるから、
間違えるし、
後悔するし、
願うんだ」
胸の奥で、星片が反応する。
光らなかったはずの星片が、
ひび割れた星を支えている。
眠らない魔女が、静かに言う。
「……選ばなかった人間が、
“答えを拒否した”」
観測者協会の魔法が、遠くで弾ける。
沈黙派の結界が、森を覆う。
だがその中心で、
レイはただ立っていた。
星はまだ、レイの中にある。
だが――
役割を持たされていない。
終わらせる魔法にも、
救う奇跡にも、
まだなっていない。
レイは初めて理解する。
自分の力は、何かを生み出すことじゃない。
物語を、終わらせないこと。
星は、ゆっくりと脈打つ。
まるで問いかけるように。
――それでも、進むか?
レイは答えない。
まだ、決めない。
その選択こそが、
世界に残された最後の余白だった。




