昼の、、、
次の星は、夜には落ちなかった。
昼。
太陽がまだ高く、街が最も無防備な時間。
鐘の音は鳴らなかった。
代わりに、世界そのものが一瞬だけ黙り込んだ。
鳥が空中で止まり、
水面の波紋が固まり、
人の瞬きが遅れる。
「……これは」
眠らない魔女が、初めて言葉を失う。
空が、裂けた。
光ではない。
炎でもない。
影が、落ちてくる。
それは星だった。
だが、願いの残骸ではない。
「これは……“叶った願い”だ」
魔女の声が低く震える。
星は通常、叶わなかった願いから生まれる。
だが、稀に――
あまりにも強く、完璧に叶ってしまった願いが、
居場所を失って星になることがある。
復讐が、完全に果たされたとき
救済が、行き届きすぎたとき
誰も不幸にならない結末が、成立してしまったとき
そういう願いは、
世界に“余白”を残さない。
「完結した願いは、世界にとって毒になる」
沈黙派の言葉が、記憶の底から蘇る。
その星は、光を放っていなかった。
だが、レイの持つ星片よりも重い存在感があった。
街の中央へ向かって、真っ直ぐ落ちていく。
「拾わせたら終わりだ」
眠らない魔女が言う。
「誰かが拾えば、
“終わらせる魔法”が生まれる」
その魔法は、破壊ではない。
支配でもない。
物語を閉じる魔法。
戦争を終わらせる。
争いを終わらせる。
願いを、これ以上生まれなくする。
一見、理想だ。
だが同時に――
希望も、後悔も、選択も、終わる。
観測者協会が必死になる理由が、ようやく分かった。
沈黙派が、この星を恐れながらも待っていた理由も。
そして、レイだけが気づく。
その星は、
誰かに拾われるつもりがない。
落下の途中で、
わずかに進路を変えた。
森でも、街でもない。
――レイのいる方向へ。
「……来る」
眠らない魔女が、レイを見る。
「次の星はね、
魔法使いを選ばない」
星は、
“選ばなかった人間”を選びに来ている。
そして鐘の音が、
今度は確かに鳴った。
夜空からではなく、
レイの胸の奥で。




