対立
最初に現れたのは、昼間だった。
森を抜け、街道へ出たところで、空気が不自然に熱を帯びた。
風もないのに、落ち葉がじり、と焦げる。
「来たね」
眠らない魔女は、振り返らずに言った。
赤い外套の男が道を塞いでいた。
胸元には、星片を嵌め込んだ徽章。
魔法使いである証だ。
「その星を渡せ」
声は穏やかだったが、
背後の空間が歪み、炎が“待機”しているのが見て取れた。
「君には使えない。
魔法を持たぬ者が星を持つのは、規律違反だ」
レイは、初めて理解した。
魔法使いたちには規律がある。
星を管理し、配り、回収するための――世界を“安定”させるための仕組み。
「規律、ね」
魔女は小さく笑った。
「あなたたちは、星を救っているつもりなんでしょう?
でも実際は、星に仕事を押し付けているだけ」
男の目が細くなる。
「役割を与えなければ、星は暴走する。
過去に何が起きたか、知らないはずがない」
その瞬間、レイの足元の星片が震えた。
鐘の音とは違う、低く、割れた響き。
レイは一歩前に出た。
「……もし、その“役割”が間違っていたら?」
男は一瞬、言葉に詰まった。
「魔法使いは、選ばれた存在だ。
選ばれなかった者が口を出すな」
その言葉で、はっきりした。
彼らは星を恐れているのではない。
星に選ばれなかった人間を、恐れている。
眠らない魔女が、初めてレイを見る。
「いい目だね」
次の瞬間、炎が放たれた。
だが、レイは逃げなかった。
星片に、触れた。
冷たいはずのそれが、微かに脈打つ。
魔法ではない。
術式も詠唱もない。
ただ――
「まだ、決めてない」
炎が、途中で霧散した。
魔法使いの炎が、
“役割を与えられていない星”に拒まれたのだ。
男は後ずさる。
「そんな……前例は……」
「ないよ」
魔女が言う。
「だって今まで、
選ばれなかった人間が星を持ち続けた例がないから」
その日を境に、
魔法使いたちはレイをこう呼ぶようになる。
――星の空白。
魔法を使えないのに、
魔法の前提を壊す存在。
そして彼らは気づいてしまった。
この少年が星を“決めてしまう”前に、
奪うか、消すか、従わせるしかないことに。
対立は、もう避けられなかった。




