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終わり?

方法は、残酷なほど単純だった。

「星を、分ける」


眠らない魔女はそう言った。

それは古い理論で、誰も実行したことがない。


星は通常、

ひとつの願い=ひとつの核を持つ。

だから拾った者ひとりに、役割が集中する。


だが今、レイの中にある星は違う。

“叶った願い”であり、

“拒まれた答え”であり、

すでに割れかけている。


「君が中心なのは、星が一箇所に留まっているから」


魔女はレイの胸に手を当てる。


「なら、中心をなくせばいい」


やることは三つ。


星を完全に壊さない

誰か一人に渡さない

複数の“未決定”に分散させる

それは魔法ではない。

儀式でもない。

選択の共有だ。


レイは理解する。

自分が星を宿していた理由。


選ばれなかった人間だからこそ、

星を「役割」にせず、

「問い」のまま他者に渡せる。


「……でも、それをやったら」


レイは言葉を濁す。


「僕はもう、特別じゃなくなる」


「そうだね」


魔女は、微笑んだ。


「君は、ただの人間に戻る」


星を分けるということは、

中心でいることをやめること。

世界を背負う資格を、放棄することだ。


そして――

代償が生まれる。


星は中心を失っても、

問いそのものは消えない。


誰かが、

その問いを“一番強く引き受けた場所”が、

次の中心になる。


レイは、直感で理解した。


「……あなただね」


眠らない魔女は、否定しなかった。


「私は眠らない。

夢を見ない。

だから問いを溜め込める」


彼女はかつて、星に選ばれた。

そして拒み、

役割を失い、

その代わりに“見続ける役目”を引き受けた。


「中心になるってことはね」


彼女は静かに言う。


「答えを出すことじゃない。

答えが出ないままでも、壊れない場所になること」


レイの星が、はっきりとひび割れる。


光ではない。

音でもない。


重さが、分散していく。


街のどこかで、

誰かが迷う。

森の奥で、

誰かが立ち止まる。

戦場跡で、

誰かが願いを飲み込む。


その一つ一つに、

星の欠片が届く。


誰も魔法を得ない。

誰も世界を終わらせない。


ただ、

「すぐには決めなくていい」という余白だけが残る。


そして、最後に残った核が、

眠らない魔女の中へ流れ込む。


彼女は、初めて目を閉じた。


「……ああ」


それは眠りではない。

だが、夢に近い沈黙だった。


世界は、再び動き出す。

終わりも、始まりも、以前と同じ速度で。


レイは、膝をつく。


胸の奥に、鐘の音はもうない。


「……終わった?」


「いいや」


魔女は、目を閉じたまま微笑む。


「君が“中心じゃない世界”が、

やっと始まっただけ」


レイは立ち上がる。

ただの人間として。


だが彼は知っている。


問いは、誰か一人が背負うものじゃない。

分け合うものだということを。


そして、遠くでまた星が落ち始めている。


今度は、

誰にも答えを強要しない星が。

星が落ちる音を、

世界はもう鐘の音とは呼ばなくなった。

それは、答えを告げる音ではなく、

問いが生まれる音になったからだ。

かつて、星を拾った者は魔法使いになり、

拾えなかった者は、ただの人間だった。

今は違う。

星は拾われても、

すぐに役割を与えられることはない。

光ることも、沈黙することも、

その星自身が選ぶ。

世界は、少しだけ不確かになった。

けれど、その不確かさは、

恐怖ではなく余白として受け入れられている。

森の奥で、眠らない魔女は目を閉じている。

眠りではない。

だが夢に近い、深い静けさの中で、

彼女は問いを抱え続けている。

答えを出さず、

壊れず、

世界を見守るために。

丘の上では、レイが街の灯りを見下ろしていた。

魔法は使えない。

星を宿してもいない。

ただの人間だ。

それでも彼は、星が落ちる夜に耳を澄ます。

もし、誰かが答えを急ぎすぎたなら。

もし、世界が再び一つの結末に縛られそうになったなら。

――立ち止まることを、思い出すために。

夜空に、一つの星が落ちる。

光らず、鳴らず、ただ静かに。

レイは微笑んだ。

世界はまだ、

終わっていない。

そしてそれでいい。

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