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歪み

最初は、誰もそれを“異変”だとは思わなかった。

井戸の水位が、減らなくなった。

収穫前の麦が、枯れも実りもしないまま立ち尽くす。

傷病人の容態が、良くも悪くもならず固定される。


人々は言った。

「今年は不思議な年だ」と。


だが魔法使いたちは違った。


星の観測図が、中心を失った円になり始めた。

未来予測は収束せず、

因果律は“途中”で止まる。


すべての線が、

ある一点を避けるように、

ある一点を回り込むように、

歪んでいく。


――レイ。


「彼が動かない限り、世界も動かない」


観測者協会の中枢で、誰かがそう呟いた。


星を宿した存在は、

世界の“結末”を一時的に引き受ける。


本来、世界は無数の小さな終わりを繰り返しながら進む。

争いが終わり、

命が尽き、

物語が閉じられることで、次が始まる。


だが今、

終わりが一箇所に集約されている。


レイが迷い続ける限り、

世界は「次」を選べない。


街では奇妙な噂が流れ始めた。


祈りが届かない

呪いが効かない

魔法が“最後の一歩”で止まる

沈黙派は、それを“兆候”と呼んだ。

「中心ができた」


「世界が、個人を基準に回り始めている」


それは神話の構造だ。

だが、レイは神ではない。

意思を持ち、迷い、恐れる人間だ。


眠らない魔女が、森で膝をつく。


「……まずいね」


彼女の影が、初めて地面からずれた。

彼女自身もまた、世界に固定され始めている。


「このままだと、君は“点”になる」


「誰も触れられず、

誰も通り抜けられず、

世界の計算から外れた一点」


レイは、自分の周囲の風景を見る。


木々は揺れている。

鳥は飛んでいる。

世界は動いているように見える。


――でもそれは、

彼を避けて動いている。


レイが一歩踏み出すと、

地面がほんの一瞬、遅れて応答した。


「……僕が、ここにいるだけで?」


「いるだけで、だよ」


魔女は静かに言う。


「君は“答えを保留した星”を宿している。

世界は、答えが出る場所を中心にしか回れない」


遠くで、協会の鐘が鳴る。

排除ではない。

世界規模の調整が始まる合図だ。


沈黙派も動く。

彼らは知っている。


ここから先は、

守るか、壊すか、動かすか。


レイは理解する。


自分が何もしないという選択が、

もはや“中立”ではないことを。


迷い続けることは、

世界を止めることと同義になる。


胸の奥で、星が静かに問う。


――それでも、決めないか?


レイは、初めて一つだけ答えを出す。


「……動こう」


それは、終わらせる答えでも、

救う答えでもない。


世界の中心でいることを、やめるという選択。


その瞬間、

風が――遅れずに吹いた。


歪みは、まだ消えない。

だが世界は、再び“進み方”を思い出し始める。


物語は次へ進む。

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