六番目 〖猫さん〗
──桜永高校三階。
「ねー、ひなはもう進路決めた?」
3年生になって、この先の進む道を決め始める頃。
里奈が、机に突っ伏しながら聞いてくる。
「んー?うん、もう決まってるよ。」
「まじ?就職?進学?」
「進学。里奈は?」
「まだ決まってないー。どこ行くの?」
──三時三十三分。
「水橋大学の医学部行く。」
「うっそ!?
あ、だから勉強中?がんばれ!」
「ありがとう、頑張る!」
今日、風強いな。
少し開いた窓から風が吹き込んで、ページがパタパタと捲れる。
窓を閉じようと、手を掛ける。
ベランダにいる何かと目が合った。
ひゅっと息を飲む。
尻尾が3本の…猫?
──三又の三毛猫を見てしまうと、
『みゃ〜ん』
猫が一鳴きして…消えた?!
「え、何今の?!
ねぇ里奈!!今、猫が…!」
「…里奈?」
さっきまで横にいた里奈が居ない。
ううん。里奈だけじゃない…
誰も、居ない。
「どこ、行ったの?次、移動だったっけ?」
教室に私の声が響く。
時計の音すら聞こえない。
次、数学だった気がするんだけど。
立ち上がって、廊下まで歩く。
まだチャイムも鳴ってないのに、自分の足音しか聞こえない。
日差しはあったかいまま。
開いたままの窓から吹く風は、カーテンを揺らしている。
なのに、人だけが居ない。
教室も、廊下も、職員室まで。
「誰も…いない。」
頭が、じわりと絞めつけられる。
喉が渇いて、どうしようも無く水が欲しい。
「これ…夢…?」
その声すら、空気に溶ける。
そうだ、外!
玄関まで行き、ドアを開け──
開かない。
「うそ…。」
鍵は掛かってない。
なのに、押しても引いても開かない。
「家に、帰れない…?」
サーっと血の気が引く。
ふらふらと、歩く。
いない。誰も、居ない。
教室まで戻ってきた時、思い出した。
「スマホ…!」
急いで鞄からスマホを取り出す。
電源をつけて…後悔した。
圏外。
その場にへたり込む。
壁に背をつけ、膝を抱える。
どうして。
夢であってほしい。
そんな考えが頭を巡る。
それから、どれくらい経ったのか。
空はもう赤い。
『みゃ〜お』
その声で、目を開ける。
足の先に居る、尻尾が3つに分かれた三毛猫と目が合う。
「……これは、あなたのせい?」
『な〜ん』
目を細め、ゆらりと尻尾を揺らす。
猫がそっと近づき、体を足に擦り付けようとする。
「…ッ!来ないで!」
さっと足を引く。
「なんで…?なんで、私なの?」
目の奥が熱い。
喉が強張って、声がひっくり返る。
「ねぇ…答えてよ…。」
猫はその場に座り込み、毛繕いを始める。
私の問いなんて、興味無いみたいに。
「…お願いだから。」
猫と目が合う。
金色の目が、嗤うように細まる。
「……私の未来、返してよ。」
震えた声で、ぽつりと溢れた言葉に
『にゃあ』
猫は、ただ嬉しそうに鳴いた。




