五番目 〖赤い本〗
窓から差し込む夕焼け。
誰もいない図書室に1人だけ。
「…何やってんだろ。」
╶ ╶ ╶ ╶
「ごめんなぁ、千佳。
お父さんもう無理だ。」
…ふざけないでよ。
╶ ╶ ╶ ╶
帰りたくない
目の奥が熱い。
深く息を吐いてしゃがみ込む。
「…本、読も。」
ふらっと立ち上がって本を探す。
できるだけ分厚くて、何も考えなくていいもの。
「いいの、無いなぁ。」
並んでいる分厚い本は、難しそうなものばかり。
「新着ならあるかな。」
そう思って目を向ける。
あれ?
夕陽に照らされた机の上に、赤い本が置いてある。
「さっきあったっけ?」
まるで読めと言うかのように、綺麗に置かれたその本の表紙を指でなぞる。
赤くしっかりとした背表紙に、黒い蔦が絡み付くような装飾がされていて。
「きれい。」
そっと表紙を捲る。
中は…
「全部、白紙?」
その時。
僅かに本が震え、開いていたページにじわりと文字が浮かんだ。
『夕陽が差し込む図書室はどこか寂しい。
でも、今の私にはそれが心地よかった。』
今、文字が…?
『机の上にあった本が目についた。
綺麗な装飾のそれは、まるで私のためにあつらえられたかのようで…
私はその〖赤い本〗を開いた。』
私みたい。
浮かび上がる文字に嫌な汗が背中を伝う。
けれど私は、文字を追ってしまった。
『何も書かれていないその本に、がっかりした
──その瞬間。文字が浮かび上がった。
これはダメだ。
そう思うのに、ページから目が離せない。』
「え、嘘…」
『「え、嘘。こんなにリンクするなんて…」
そう言おうとした瞬間。同じ文字が浮かび上がる。』
ヒュッと息を飲む。
目を見開き、絞り出すように声が出る…
「」
『「ありえない。」思わず口をついて出そうになった言葉さえも…。』
体が強張り、喉が痺れる。
『次の瞬間。
手に吸い付くような感覚がし、本が離れなくなった。
そして、抉るような鋭い痛みが走る。』
「ッいや!」
咄嗟に、本を投げ捨てる。
「……投げ捨て、られた?」
痛くもないし…ただ似てただけ…?
無造作に置かれた赤い本に、変わった様子は無い。
「あ、はは。気のせいか…。
あんまりにも似てたからびっくりしちゃった。
そうだよね、うん。」
声が喉の奥で引っかかる。
「それにしても、すごい本だな。
自分のことかと思っちゃった。」
強張る手を解くように揉む。
「か、帰ろうかな。もう。」
時計を見る。時間は、五時半だ。
お母さん、いつも朝から飲んで七時過ぎに潰れてるから。
……もうちょっと。
視界の端にある赤い表紙に、私はそっと手を伸ばした。
悪寒が走り、喉が鳴る。
──でも
「さっきは平気だったんだから…」
別にこの本じゃなくても良かった。
でも、私と似たこの主人公がどうなってしまうのかどうしても気になって
私は、本をゆっくりと開いた。
『ありがとう、千佳。』
黒く滲んだその文字から目が離せない。
「なんで…名前…」
瞬間。
手に鋭い痛みが走った。
黒い蔦の装飾が、私の手に潜り込んでいる。
抉るような痛みが、ゆっくり這うように腕を伝っていく。
目が潤む。
喉が閉まって声が出ない。
腕に、肩に、首に、私じゃないものが蠢いている。
あれ…?怖いはずなのに、なんか…。
╶ ╶ ╶ ╶ ╶
「なんで、千佳なの…どうして?あの人を返してよ…お願い…」
「……お母さん。」
「お母さんって呼ばないで!!!────。」
「…。」
╶ ╶ ╶ ╶ ╶ ╶
…あ、嘘。頭のナカに入っテ…
ァ。
パキッと、何かが壊れるように目の奥が白く弾けた…
あレ?何してたんダっけ。
まァ、イいや。
『「 家、帰ろ 。お母さんが待ってる。」』
よかっタ。もう、ドこも痛くない。
「五番目〖赤い本〗赤い本は絶対に開いてはいけない。開いてしまえば、その人は…「そういえばさ」もー割り込むなよー、せっかく怖めに話してるのにさ」
「あ、ごめん。でさ、〖赤い本〗もしかしたら私、見たかも知れないんだよね。」
「え、開いたの?」
「開いてないよ笑。この間、忘れ物取りに戻った時にね、赤い本ぎゅっと抱えた人がいたのよ。」
「それ、普通に赤い本借りた人じゃね?」
「いや、それがさぁ。笑いながらふらふら歩いてて気味悪くてさ。しかもその人、一昨日のあれ。」
「一昨日のあれ?」
「あれだよ、あれ。家族全員消えたってあの。」
「ガチじゃん怖っわ」




