四番目 〖地獄の扉〗
ジーワジーワ
ミーンミンミンミン
シャワシャワシャワシャワ
蝉時雨が煩いほどに響き渡っている。
照りつける太陽が景色を揺らし、
行き交う人々を焼いている。
「あっちぃー!!
みや〜私も入れてよ〜!」
「だーめ。この日傘は1人用なの」
「えーケチィ」
「ふふ、仕方ないなぁ」
「わーい!さっすがみや〜!太っ腹〜!」
「やっぱやめよっかな〜」
「ごめんて、お願いします!みや様ー」
「もう!なつったら調子がいいんだから。」
みやが日傘を私の方に傾け、いつも通り
私が傘を受け取ってみやを入れる。
「ありがとね、なつ」
「当たり前だよ。
私の方が身長高いし、入れてもらうんだから」
「それでも、だよ。」
そう言って微笑むみやが可愛くて、
この時間がずっと続けばいいのに
とか思ってしまう私がいる。
「みやはまたあの野良猫にエサあげにいくの?」
「モチ太ね。うん、ずっとあげてるから」
「だからってわざわざ夏休みまであげなくていいんじゃない?あいつ色んなとこから貰ってるからまるまるしてるじゃん」
「いいの!それがモチ太の魅力なんだから」
「優しいな〜みやは。」
「そう言うなつは何で学校に?」
「本返し忘れてたから。」
「弟くんが?」
「そう、よく分かったね」
「分かるよ、だってなつは忘れないもん。
なつも優しいね」
「みやには敵わないなぁw」
そんなたわいもない話をしながら、
茹だるような暑さの中、
どこか気持ちの良い夏を歩く。
「あ、じゃあまた後でね。いつもの場所にいる?」
「うん、モチ太と一緒に座ってるね」
「おっけー!じゃあ行ってくるね」
「いってらっしゃい」
( 夏休み真っ只中なのに人いるんだ。)
慣れた手つきで本を返し、
カウンター近くのおすすめ新着本を確認する。
…あ。
これ、みやが読んでるやつの新刊だ。
借りてってあげよ。
校舎裏の木々の中、何故かあるベンチ
そこが野良猫…モチ太のお気に入りの場所で、
いつもそこで日が暮れるまで過ごしてる。
今日は、持ってきたお菓子と
さっき借りた本読んで──。
「きゃーーー!!」
みやの声!?
校舎裏の方からだったはず。
だいたいこの辺り……!!
「みや!!!大丈夫!?」
みやが百葉箱の近くでしゃがみ込んで何かしてる。
みやの手の先には………モチ太?
あれ?
丸まって寝てるモチ太を撫でてるだけ?
にこにこ笑ってるし。
さっきの悲鳴は何だったの。
「みやー?何してんの?」
その声に気づいてみやがこっちを向く、
寝てるから、って言うように口元に指を置いて
しーってしながら微笑んでる。
なぁ〜んだ、いつも通り。よかったぁ。
こっちこっちと招くような仕草をするみやに
安心して一歩踏み出した。
─── 瞬間。
キィ…ィ…
百葉箱の扉が開いてる…。
ふと、前に後輩に教えてもらった噂を思い出した。
『百葉箱の扉が開いている時、
近くにいる生き物は、たとえ知っている姿でも
それは、地獄の生き物である。
それに近づいてはいけない。近づいたら、
地獄に連れて行かれるだろう。』
何故、今思い出したのか。
考えたくも無い。
みやの…輪郭が、揺れてる。
気のせい。何かの間違い。ただの噂。
そうであってほしい。
いや、そうじゃなきゃだめだ。
揺れてるように見えるのも、少し歪んで見えるのも
全部暑さのせいだ。それか陽炎。
そう、そのはず。
私も、みやの隣でおんなじ様にしゃがむ。
「み、みや…?こんな所で何してるの…。……ッ」
反射的に息を飲み込む。
なんで。
寝てるモチ太の、
寝ていると思っていたモチ太の
首から先が…無い。
さっきまで、みやに聞きたいことが沢山あった。
さっきの悲鳴は?
何でこんな所にいるの?
どうしてさっきから喋らないの?
どうして…笑ってるの?
でも、強張る体が、震える喉が
みやを拒絶する。
違う。
視界に端に映る
みやのゆらゆらと揺れる影も、
体を伝う嫌な汗も、
全部、気のせい。全部、暑さのせい。
全部。全部──。
私の手に、みやが手を乗せた。
冷たい。
瞬間。
全身が粟立つ。
触れているはずなのに、感覚が無い。
嫌な気配が、逃げられないという恐怖が
背中を駆け上る。
『ナツ』
シャン…シャラン。
……声に、鈴の音のような音が混じってる。
『ナツ、ナツ…ナツ』
私の、手が…揺れて…
みやのようなソレが、笑ったまま歪むようにぼやけて……
『ナツ…ズット、イッショ』
── ずっと、一緒…。
『「なっちゃんのことは私が
どこにいたって見つけるし、守ってあげる!
だから、ずっと一緒にいようね!」』
そう。そうだね、みや。
ずっと一緒に。
幼い頃、みやとした約束。
みやのようなソレに、手を伸ばす。
頬に伸ばした手が、空を切っても関係ない。
”地獄に連れて行かれるだろう”
…今度は私が、見つけてみせる。
何があっても、どこにいても、見つけて守るよ。
だから…
「また後で、ね…」
「ねぇ、去年の夏休みに失踪した
加賀美先輩と早川先輩って覚えてる?」
「加賀美夏希先輩と早川雅先輩?そりゃ覚えてるよ。
あの2人ファンクラブできるくらい人気だったんだから。」
「マジか。あ、でね、あの2人が失踪した理由、
七不思議の『地獄の扉』なんじゃないか、って話。」
「え?それほんと?」
「ほんとほんと、失踪した日、図書室にいた人がね、
早川先輩の悲鳴が聞こえて窓から外見たら、
加賀美先輩が血相変えて走ってたんだって。
それでね、追いかけたらしいんだけど、
百葉箱の近くに、その日加賀美先輩が借りた本だけが落ちてたらしいの!」
「マジ?私の聞いた話と違う…」
「え、聞いた話って?」
「あの2人、駆け落ちしたって。」
「ちょっっっと待って!!!それ詳しく!!!」




