二番目 〖夢テレビ〗
『この学校には、七不思議がある。
そのうちの一つ〖夢テレビ〗。
昼食後、すぐの授業で視聴覚室を使う時、
絶対に寝てはいけない。
しかし、もし寝てしまったら…』
「『質問には絶対に正直に答えなければいけない。』
……かぁ〜。どうする?次、視聴覚室だぜ?
昨日徹夜したし、俺、寝る気しかしないんだけど。」
「そんなん噂だろ〜?w
どうせ視聴覚室で寝るやつ多いから先生達が作った作り話だよw」
そうやって、不安がる保を俺は軽くいなす。
所詮噂話だ。それに対処法も分かってる。
保がそんなに怯える意味がわからない。
「そうかも知んないけどさぁ〜…。直樹は怖くねぇの?お前も昨日、一緒にゲームしてただろ?」
「全っ然平気。今まっったく眠くねぇもん。」
「まじかぁ、俺、ちょ〜眠い。
………マジ怖えぇー。
寝ないようにずっと手とかつねっとくか…」
保は自分の手の甲をギュッとつねりながら歩く。
俺たちはそんな話をしながら視聴覚室へと向かった。
──授業が始まり、15分くらいが経った頃。
(…あれ?なんかすげぇ眠い。さっきまで全然眠くなかったのに。やっぱ、昨日のゲームのせいか…?)
先生やクラスメイト達は、みんな動画を見てるし、
部屋も暗いし、少しくらいはいいだろうと
俺は、前の席の人の影に隠れる様にして目を瞑る。
----------
(…あれ?ここ、どこだ?)
何も見えない。
自分の手すら見えない真っ暗な空間。
俺は、すぐにここが夢の中だと気付いた。
それも、七不思議の〖夢テレビ〗だと。
暗闇の中に、チカチカと光る何かがある。
それは、──テレビだった。
それも、ただのテレビではない。
スーツを着た人間の頭が、テレビだったのだ。
(…は? な、んだあれ……)
テレビ頭は、コツッ、コツッ、とゆっくり歩きながら近づいてくる。
そして、俺の目の前まで来ると
画面にこう表示した。
『最近、1番楽しかったこと。』
(マジか!あの噂、本当だったのか!?
…いや!大丈夫だ。本当のことを言えばいい。
大丈夫。…えーっと…)
「き、昨日、保とゲームしたこと!」
俺がそう答えると、画面に砂嵐が走る。
少しの沈黙が流れ、
俺にはそれがとても長く感じられた。
(なんだよ、答えただろ⁈ ……早く覚めてくれよ!)
足がすくむ。今すぐにでも逃げたい。
のに、動かない体が恨めしい。
砂嵐の走る画面が、パッと変わる。
『最近、悲しかったことは?』
(…は?まだ、あるのか……?)
俺はすぐに思い浮かばず、言葉を濁していると、
……ザ…ザザザ…
画面に砂嵐が滲み始める。
テレビ頭は、まだか、と急かすかのように俺の顔を覗き込んでくる。
(クソッなんなんだよ!)
「えーっと、この間バスの運賃間違えて200円多く支払ったこと!」
…ザザ…ザザザ…ザ…
今度は砂嵐がさっきより長く、
重苦しい沈黙が押し潰すように俺を蝕む。
画面が切り替わる。
『今までの人生で一番良かったと思うことは?』
「……。…親友が出来たこと。」
…パキッ
(…は? ヒビ⁈ 答えただろ⁈ )
俺の動揺など、どうでもいいとでも言うかのように
テレビ頭は、また画面を変える。
恥ずかしかったこと。人に言いにくいこと。
後悔してること。思い出したくないこと。
…………本当は、謝りたいこと。
質問に答える度、喉が焼けるように熱く掠れて、
張り付くように痛い。
手足の先から、ピリピリと痺れ、感覚が抜け落ちていく。
頭も、霞がかかっていくようにボーッとする。
ピキッ、パキキッ、と全てを蝕んでくるような音に
身をすくませる気力も、もう、無い。
こんな夢、早く目覚めてほしい…
──その時。
いつのまにか眼前にまで来ていたテレビ頭の砂嵐が止み、ヒビ割れた画面でおれを覗き込んでくる。
静寂の中、テレビ頭がおれの1番深いところまで辿り着く。
『最後の質問』
『保に隠していることは?』
…俺が、保に…?
…なんで…知ってるんだ………
胸の奥がざわつく。
思い出したくなかった、
”あの日”の記憶が溢れてくる。
---
子供の頃、たもつとおれの2人で入った山の中で、見つけた
小さな祠。
おれは気になって、貼ってある紙なんて
無視して開けたんだ。そこにあったのは、
祠の中で揺れる、黒い…”ナニカ”
─その瞬間、
たもつがおれを突き飛ばした。
最後に見たのは、たもつに伸びる黒い手。
次の瞬間、たもつはいなくなった。
でも三日後、保はふらりと帰って来た。
何も覚えていなかったけど、
それでも、帰って来たことが嬉しかったんだ。
…ただただ嬉しくて。
だから──。
---
「あ、の日、ほんと、は…」
なんで? 嫌だ…言いたくない…!
「ァ…違う。あれは!…ほんと、は……」
息が、吸えない……。声が震える。
おれは、……おれ、は。
すると、テレビ頭が何かを期待するようにゆらりと揺れる。
───その時。
テレビ頭が勢いよく両手で俺の頬を掴み、無理やり上を向かせる。
頬に指が食い込む。額に画面が押し付けられ、
明滅する光が目に刺さる。
まるで、早く言え と命じるかのように。
「ッ……ほんと…は、おれ、が…」
ヒビが深くなり、割れた隙間から黒い液が漏れ出る。
「…おれが……連れてかれるべきだった、のに…。
……ほんと、の保は……もう…いない、んだ…」
ピシッ
テレビ頭の画面に亀裂が走る。
それはまるで、歪に笑う口のように。
漏れ出る黒い液体が、俺を飲み込む。
──おれ、は…。
----------
暗い。何も見えない。
「…ろ…。きろって。」
何か聞こえる。
「…起きろって!大丈夫か?直樹」
パッと視界が開いた、
さっきまでいた視聴覚室だ。
──夢が終わったんだ。
ほっとしたけど、すごく疲れた。
「大丈夫か?夢見なかったか?」
そう聞いてくる保は、
相変わらず、俯くとじわりと目に緑が溶ける。
俺は、その事にも
胸の中の重く沈んだ真実にも目を背けて
”保”に返事をする。
「『聞いてくれ!保!俺、夢見ちゃった!』」
……は?
俺はそんなこと言ってない。
言うつもりも無かった。
口が、勝手に動く…?
いや違う、体が自分の意思で動かない…!
どういうことだ?質問には全部答えた筈だろ!?
「マジか!大丈夫だったのか?!」
『あぁ、もちろん大丈夫だったよ!』
……違う!答えたからだ。
全部正直に答えたから、入り込めたんだ…!
体が、喉がいうことを聞かない。
安心した顔の保は、いつものように笑う。
違う!ダメなんだ…!
こいつは俺じゃない!
こいつは、〖夢テレビ〗は…!
『質問をちゃんと正直に答えたら起きれた!』
───質問を正直に答えちゃダメだったんだ!
ねぇ知ってる?
七不思議の二番目〖夢テレビ〗。
「人の夢に入り込んで、質問するんだって!
それでね!質問には全部正直に答えないといけないらしいの!
でもさ、私ふと思ったんだけど…
なんで怪異に対処法なんてあるんだろう?」
「助かった誰かが広めたんじゃない?」
「そうかなぁ?もしかしたら
怪異自身が広めてるのかもしれないよー?」
「なんで、そう思ったの?」
「だって、怪異が自分で嘘の対処法
広めたら狩りし放題じゃん?」
「うわぁ…怖いこと言うね。」




