一番目 〖永遠の桜〗
桜の舞う校舎裏。
卒業式の後に告白するには、これ以上ないほどのシチュエーションだった。
舞い落ちる花びらよりも赤く染まった君の頬、これまで見たことがないほど幸せそうで、魅惑的な笑み。
――僕は、夢を見ているのかと思った。いや、思いたかった。
彼女の足元には、変わり果てた姿で横たわる親友。
そして、血に染まった顔で僕に笑いかける、大好きな君。
あまりの出来事に、思考が追いつかなかった。
──数時間前
「おーい、宏人!」
そう呼びかけてきたのは、親友の坂本和樹だ。
和樹は僕の肩を肘で小突きながら言う。
「今日、するんだろ? 告白! がんばれよー? 詩織ちゃん人気高いぞ?」
「わかってるよ! 当たって砕けろだ!」
「ハハ、砕けちゃダメだろw」
緊張している僕を、いつもの軽口で和樹は励ましてくれる。
そんな親友との“当たり前の日常”が、
この数時間後に音もなく崩れ落ちるだなんて、
あの時の僕は、まだ思いもしなかった。
「それにしてもお前、筆箱拾ってもらっただけで
よく三年間想い続けたよな」
「それくらい衝撃が強かったってことだよ。
わかるか? 入学してすぐで不安で仕方なかった時、自己紹介ミスって焦って落とした筆箱を、あんな美人が笑顔で拾ってくれたんだぞ?
あれは十人中十人が惚れるね」
僕が堂々と言うと、和樹は堪えきれない様子で吹き出した。
「お前ほんとチョロいな……!」
あんまりにも笑うから、僕は少し恥ずかしくなって
「そんなに笑うなよー!」と顔を背けた。
その瞬間。
ちょうど今話題にしていた彼女
——小鳥遊詩織と、目が合った。
「……ぁ」
詩織ちゃんから目が離せない。
日の光を浴びてキラキラと光る白い肌。
風に靡く濡れ羽色の髪。
一瞬で、顔に熱が集まるのを感じた。
「……ぃ、おい、どうした? 宏人」
和樹に声をかけられて、そちらを見る。
「……今、詩織ちゃんと目が合った」
「マジで? よかったじゃん。でもどこにいたんだ?」
そう聞かれて、さっき彼女が立っていた桜の木の下を指差した。
──けれど、詩織ちゃんの姿はもうどこにもなかった。
−キーンコーンカーンコーン−
チャイムの音が鳴り、卒業式の終わりを告げた。
クラスでは泣いている子もいれば、
写真を撮りあって笑っている子もいる。
そんな中で、僕だけは、戦場に立つ戦士みたいな気持ちだった。
「小鳥遊さん! この後、用事ある……?」
詩織ちゃんがゆっくりとこちらを見る。
たったそれだけで、心臓がありえないほど早鐘を打った。
「ないよ」
真っ直ぐな瞳でそう言われる。
「じゃ、じゃあ……この後、校舎裏に来て欲しいんだけど。い、いい?」
「いいよ」
その一言で、僕はもう告白をOKされたみたいな気分になっていた。
有頂天という言葉が、これほどぴったりくる日はない。
……だからその時、和樹が詩織ちゃんを鋭い目付きで見ていたことにも気づかなかった。
――――――――――
校舎裏─
「お前、俺の親友に何するつもりだ?」
「何の話?」
「お前 "小鳥遊詩織" じゃないだろ」
「」
「さっき、お前が階段から落ちたところを見たんだ。
その時、腕がありえない方向に曲がってた。普通だったら痛みで動けないはずだ。
だけど、お前は何事も無かったかのように立ち上がって、腕を元の方向に戻してた。」
「…」
「前までは確かに人間だった。…だが今は違う。
お前は"何"なんだ。
……いや、いい。宏人に何もしないでくれ。そうしてくれたら俺は何も言わない。頼む。」
「………アハ、アハハ。バレちゃっタ。
でモ、いっか!みんナ一緒にご飯にシちゃえバ」
「……!」
――――――――――
〘冒頭に戻る〙
「…ゥグ………ハァ…ァ…」
(和樹が…さっき、まで一緒に話してた、のに。
なんで…?どうしよう…何…?なんで…)
頭がグルグルとして思考が定まらない。
…目の前の惨状が信じられない。
(ありえない…なんで…?夢…?なんで詩織ちゃん…?)
「宏人君。」
「詩織ちゃ…」
小鳥遊詩織が宏人を抱きしめた。
ふわっと、桜のような香りが宏人を包んだ。
──瞬間。
腹部に鋭い痛みが走る。
詩織の手だったものが鋭い木の枝となり、宏人を貫いていた。
「アハハハッ」
詩織ちゃんが笑ってる。
かすれていく意識の中、僕を引きずって運ぶ詩織ちゃんの頬から、ひらりと桜の花びらが舞い落ちるのが見えた気がした。
ねぇ知ってる?
この学校の七不思議の1番目
〖永遠の桜〗。
うちの学校ってさ、絶対に卒業式の日に満開の桜が咲くでしょ?それで、その桜の下で告白すると叶うってジンクスあるじゃん。
でもさ、あんまり知られてない噂があってね。
桜の木の下で告白した生徒が、時々行方不明になる時があるんだって。
しかも、告白した方も、された方も。
それが何回もあるから、その人達もしかして、
桜の木に食べられちゃったんじゃないかって。
だから毎年、卒業式の日に満開の桜が咲くらしいよ、
"餌"を誘き寄せるために。




