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 手綱が切れた馬をゆっくりと走らせながら、アンリエット達は町へとだとりついた。

 ウィリアムはすぐに手綱を修理に出してくれている間アンリエットは町の様子を眺める。

 大通りは多くの人が行き交っておりアンリエットが住んでいる王都よりも栄えているように見えた。

 戻って来たウィリアムをアンリエットは見上げる。

 ウィリアムは外套を頭からかぶっていて顔は近づかないとよく見えない。


「沢山人が居るわね。ウチの田舎の町と大違いだわ」


「アンリ姫の国よりは賑わっているな。アウリスタ王国に近づいてきているからだろう」


「だから顔を隠しているの?」


 アンリエットが聞くとウィリアムは肩をすくめる。


「俺は顔だけはいいからな。気づかれたら厄介だろう」


「そう言うものなの?私は一応姫っていう立場だけれどだーれも気にしないけれど」


 アンリエットが言うとウィリアムは苦笑した。


「そうだろうな。あの城は人の出入りが自由だったから、普通はあり得ないんだよ」


「なるほど」


 アンリエットは頷いてもう一度ウィリアムを見上げた。

 顔はフードで隠れているが、それでも隠し切れない気品が全身から出ている。

 一般の旅人と同じような服装をしているのに、なぜだろうか。

 剣も下げているが、あえて豪華なものでもなく一般的なものだ。

 王族や貴族らしさはパッと見は分からないが、ウィリアムはただ者ではないような感じは出ている。


 アンリエットは思い出したように鞄から手袋を取り出すてはめた。


「お兄さまに言われていたんだった。指輪を他人に見られるなって」


「そうだろうな。王族の指輪だとわかる人は居ないだろうが、高価な指輪だという事はわかるだろうから。指だけでなく腕ごと取られるかもしれないぞ」


 ウィリアムに脅されてアンリエットは身を縮めた。

 誰にも指輪を見られていなかっただろうかと不安になってくる。


「早く宿屋に行きましょう」


 震えているアンリエットを見てウィリアムは笑いながら歩き出した。



 ウィリアムが連れてきた宿屋はこじんまりとしたアットホームな雰囲気だった。

 受付に行くと、目に大きな傷をつけた巨体の男性が対応してくれる。


「おう、おかえり。バルメ先生は連れてこれない代わりに可愛い嬢ちゃんを攫ってきたのか?ウィル様」


 馴れ馴れしい様子の亭主にアンリエットは二人を見比べた。


「お知り合いなの?」


「騎士団を引退して宿屋をやっているザドだ。信頼できる宿屋だ」


 ウィルが紹介するとザドは筋肉質な腕を見せつけなが頷いた。


「ザドだ。ウィル様の城で騎士団をしていたが怪我をして引退をした。今は可愛い奥さんと小さな娘と暮らしているよろしくな。嬢ちゃんは、ウィル様に惚れてついて来たのか?」


「違うわ」


 アンリエットはザドの大きな筋肉を見て驚きながら否定するとウィリアムが紹介をする。


「サナリア王国のアンリエット姫だ。バルメ先生がお年で来れないので、代わりに来ることになった」


「姫さん……」


 まじまじと見られてアンリエットは肩をすくめた。


「姫に見えないって言う事は分かっているわよ」


「なるほど。素直で明るいいい子だな」


 ザドがにこっと笑うとアンリエットは頷く。


「それも良く言われることだわ」


「気に入ったよ。妻が作ったケーキがあるが良かったら食べるか?」


「ありがとう。頂くわ」


 アンリエットは頷いたが、ウィリアムは軽く手を振る。


「俺は遠慮しておく。部屋に居るから何かあったら遠慮なく尋ねてくれ」


「わかったわ」


 疲れた様子のウィリアムを見送る。

 

「ずいぶんお疲れね」


「ウィル様は心配性なんだよ。先を読みすぎて疲れるタイプだな」


 そう言ってザドは大きな声で笑った。




「どうぞ。ちょうど砂糖漬けにしたものがいい頃合いだからレモンのタルトにしてみたの」


 宿屋の亭主ザドの奥さんは、おっとりとした口調で言った。

 食堂のテーブルにちょこんと座っているアンリエットの前に手作りケーキが置かれる。

 コンポートされたレモンが乗っているタルトケーキだ。

 生クリームが綺麗に飾りつけされてその上にベリーも乗っている。


「わぁ、美味しそう」


 アンリエッタは喜んでケーキを頬張ってザドの奥さんを見上げた。


「とても美味しいわ」


 甘酸っぱいレモンが口に広がってアンリエッタは笑みを浮かべる。

 紅茶の中にもレモンの砂糖漬けが入っていてレモンづくした。


「今年はレモンがなかなか手に入らなくて。遠くの国から特別に輸入してもらったの」


「そうだったんですね。レモンが不作なんですか?」


「そうなのよ。隣のアウリスタ王国が大雨が続いているでしょう。作物とかいろいろ不作で、材料の調達が大変なのよ」


「へぇ。そうなんですね」


 アンリエッタは複雑な気分でレモンのケーキを食べながら頷く。


(大雨の影響はいろんなところに出ているのね。そりゃ、ウィルも気分が落ち込むわけよね)


 ケーキを食べているアンリエッタを微笑ましく見ていた奥さんは手袋をしたままケーキを頬張っている姿に首を傾げる。


「失礼だったらごめんなさいね。手袋は取らないのかしら?」


「あー、ちょっと怪我をしていて……」


 指輪が見られないようにしている手袋だが、やはり手袋をしたままなのは良くなかったかとアンリエッタは苦しまぎれに言った。

 奥さんは口元に手を当てて痛々しいものでも見るような目を向ける。


「まぁ、そうだったの」

「大丈夫。部屋に戻ったらちゃんと処置するので」

「お医者さんなの?」

「違うわ。薬師の知識があるだけだけだけど簡単な処置ならできるから」


 アンリエッタが言うと奥さんは頷いた。


「必要なものがあったら言ってね」


「ありがとう」



 

 アンリエッタは小さな机を挟んで前に座る不機嫌な顔をしたウィリアムに左手を見せる。

 指輪を隠すように包帯が指に巻かれているのを見てウィリアムは頷いた。


「手袋をするよりは良さそうだ」


「そうでしょう。手袋をしながらレモンケーキを食べていたから奥様に不思議に思われたわ」


「それはいいが、どうして俺の部屋で夕飯を食べるんだ」


 二人分の夕飯が並んだテーブルを眺めてウィリアムは言った。


「だって、一人で食べたら寂しいじゃない。ウィルは食堂に来ないって言うし」


「誰が見ているか分からないから行かない。だからって狭いテーブルで一緒に食べなくてもいいだろう」


「いいじゃない。ほら、さっさと食べて明日に備えましょう」


 アンリエットに何を言っても無駄だと気付きウィリアムは諦めて食事に手を伸ばした。

 綺麗な仕草で食事をするウィリアムをアンリエットはじっと見つめた。

 顔が綺麗なだけに、食べているところも見ているだけで得をした気分になる。


「俺の顔を見ていて楽しいか」


「楽しい。顔が綺麗だと食べているところを見ているだけで得した気分になるのね」


 正直に言うアンリエットにウィリアムは呆れて笑い出した。


「そこまで顔を馬鹿正直に褒めてくる人はお前ぐらいだな」


「そうなの?みんなありがたがっているんじゃない?王子様が美しいと得ねー。ウチは平凡だからみんな気さくなのはいいけれど、得している事は1つも無いわ」


 そう言うアンリエットは黒い髪の毛に平凡な顔をしている。

 確かに特徴が無いように見えるアンリエットをじっと見つめた。


「確かに、アンリは美しくないな」


 はっきりと言われてアンリエッタは少しむっとする。


「事実だから仕方ないけれど、せめてかわいいって言ってほしいわ」


「可愛いねぇ。まぁ、人は顔ではないだろう」


 綺麗な顔のウィリアムに言われても嬉しくないとアンリエッタは軽くうなずういて食事を開始した。


 サラダをフォークに刺したアンリエッタはピタリと動きを止めて荒く息を繰り返す。


「どうしたんだ?」


「……お腹が痛い」


 今にもうずくまりそうなアンリエッタの顔は真っ青で脂汗が浮いている。


「何か当たったのか?」

 

 嫌そうな顔をするウィリアムにアンリエッタは首を振った。


 


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