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「はぁ、信じられないわ。ウィリアム王子は一人で馬に乗って来たなんて」


 アンリエットは馬を器用に操りながら、同じように前で馬に乗っているウィリアムに言った。

 あれからすぐにアウリスタ王国へと旅立ったがウィリアムは伴も連れず一人でアンリエットの国にやってきてた。

 ウィリアムはチラリとアンリエットを振り返った。


「仕方ないだろう。早く国に帰りたかったんだ」


「爺ちゃんを連れて帰るつもりだったの?老人に馬はきついわよ」


「先生が一緒なら馬車を用意してもらった。お前だって俺に合わせず馬車で来てもいいんだぞ」


 姫なのに馬に乗るなんてというウィリアムの小さな言葉を聞いていたアンリエットはツンと鼻を上へ向けた。


「だって、早く帰りたかったんでしょう。アウリスタ王国だって雨が降り続いていたら大変だし、お姉さんの様態も気になるし。薬草と薬は大量に持って来たし、アウリスタ王国だって沢山物資があるから大丈夫だと思うけれど、早く行くことに越したことは無いわよね」


 アンリエットの言葉にウィリアムは目を伏せる。


「それは、ありがたいと思っている。俺の国の事情に巻き込んでしまったから……」


 少し弱っている様子のウィリアムにアンリエットは眉を上げた。


(嫌な奴と思っていたけれど、意外といい人なのかもしれないわね。お姉さん思いだし)


 腕を折られそうになったことを根に持っていたが、彼なりに国のことを思ってなのかもしれない。

 顔は綺麗なだけで嫌なやつかと思っていたが、もしかしたらいい人なのかもしれないとアンリエットは手綱を引いてウィリアムの馬と並ぶ。


「いいわよ」


「は?何がだ?」


 突然のアンリエットの言葉にウィリアムは意味が解らないと睨みつける。


「私の腕をへし折ろうとしたことは水に流してあげるって事。すっごく痛かったのよ」


「それも悪かったよ。女性にあんなことをしたのは初めてだ。指輪をしていたからつい必死になってしまった」


 言い訳をするウィリアムをアンリエットは大きく頷いて慈悲の笑みを浮かべる。


「いいわよ。ウィリアム王子は顔だけじゃなくてちゃんと謝ることが出来るとわかったから」


「何だよそのいい方。顔だけって……。そんなことを言われたの初めてだ」


 ムスッとするウィリアムにアンリエットは肩をすくめた。


「顔だけはいいって褒めているのに。性格は悪いわよ、腕をへし折るような人が性格がいいわけないわよ」


「俺は、優しいと有名なんだよ」


「絶対嘘よ」


 アンリエットが断言するとウィリアムは諦めたようにため息をつく。


「まぁ、確かに性格は良くは無いな。姉を守るためにいろいろ策略をしているし……」


「お姉さまを守るためなら仕方ないわよ。でも、私の指は斬らないでね」


 さらりと言われてウィリアムは苦笑する。

 

「アンリエット姫は変わっているな」


「そうかしら?アンリエットって言いにくいでしょう、アンリでいいわ。町の人もそう呼んでいるし」


 アンリエットが言うとますますウィリアムは苦笑する。


「そうか。ならば俺もウィルでいいよ。ウィリアムは言いにくいだろう」


「そうね。そうさせてもらうわウィル」


 馴れ馴れしい呼び方をされてウィリアムはますます笑っている。


「年下のくせに、呼び捨てか」


「年は関係ないでしょ。ウィルはお兄様と同じ30歳ぐらいかしら?」


 気にしないと言いつつもアンリエットが聞くとウィリアムはギロリと睨みつける。


「まだ27歳だ!」


「だいたい30歳ぐらいじゃない」


 あっけらかんというアンリエットにウィリアムは首を振る。


「バルメ先生が90歳を否定していたのが痛いほどわかるな。88歳と90歳では感じ方が違うものな……」


 呟いているウィリアムにアンリエットは眉をひそめた。


「細かいわねぇ。そう言う男はモテないわよ」


 ウィリアムが言い返そうと口を開いたと同時に、バチンと音がしてアンリエットの手にしていた手綱がはじけて切れた。

 切れた勢いで後ろにひっくり返りそうになったアンリエットの体をウィリアムは慌てて支える。


 ウィリアムのおかげで落馬を免れたアンリエットは安堵の息を吐いた。


「ビックリしたわ。手綱が切れるなて初めてよ」


「俺も初めて見たよ」


 馬から落ちたら大怪我をする場合もある。

 青ざめるウィリアムにアンリエットは軽く笑った。



「ありがとう。ウィルのおかげね。でも、どうしよう急いでいるのに……」


「大丈夫だ。少し先の町で宿泊する予定だったから。そこで修復を依頼しよう」


「そうなのね」


 明るく言うアンリエットに、ウィリアムは言いにくそうに口を開いた。


「ただ、姫様が止まるようないい宿は無いんだが……」


「そんなこと気にしなくていいわよ。私どこでも寝られるから。草むらでも意外と寝られるの」


 明るく笑うアンリエットにウィリアムは目を丸くする。


「野宿をしたことがあるのか?」


「あるわよ。バルメ爺さんの弟子は皆あるわよ。だって、薬草を採りに山の奥へ行ったりするの、そうすると何日も帰れないのよ」


 唇を尖らせて言うアンリエットにウィリアムは声を出して笑う。


「アンリは姫様らしくないな。貴族の女性でも野宿をするような女性は居ないよ」


「そうかしらねぇ。ベッドがあれば私には最高の部屋よ」


 アンリエットは明るく言った。



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