その後
「アンリ姫が妹になるのね。嬉しいわ」
今はすっかり体調が良くなったエラノーラはのほほんと紅茶を飲んでいる。
城の大きな庭園の中ほどにある、ガゼボでエラノーラとアンリエットそしてウィリアムは座ってお茶を楽しんでいた。
あれから1か月程が経った。
アンリエットの左手の薬指に王家の指輪は怪しく輝いている。
「私もお姉さんが出来るの嬉しいです」
照れたように笑うアンリエットをエラノーラは可愛くて仕方ないというように見つめる。
「やっぱり王家の指輪に徐々に体力を奪われていたけれど、クリスティナ嬢がお見舞いに持って来たフルーツが毒だったようね。あれを食べなくなったらすっかり良くなったわ。これから少しづつ弱っている内臓も良くなっていくそうよ」
「お元気になって良かったです。でも、毒だとわかってお見舞いに持って来たのかしら?」
アンリエットが疑問に思っていると、ウィリアムは頷く。
「そのようだ。クリスティナ嬢が指示を出して毒入りのフルーツを取り寄せていた。その一部が市場に流通していることも判明したよ」
「どうしてそんなことをしたの?」
アンリエットはテーブルの上に置かれているお菓子の中からマカロンを手に取って口に頬張る。
「王妃になりたかったようだ」
「……王妃なんて大変なだけなのに。私にはわからないわね」
アンリエットの言葉にウィリアムとエラノーラが苦笑している。
「指輪を盗るように指示をしたのもクリスティナ嬢だった」
「泥棒が城に入ったってこと?警備はどうなっているの?」
驚くアンリエットにウィリアムは頷く。
「まったくだ。しかし、盗んだ犯人はそのまま高く売れるだろうと逃亡した。そしてアンリ姫の国へ通りかかった」
「なるほど!そして落としたの?馬鹿な盗人もいたものね」
川べりに落ちていた指輪を思い出してアンリエットは軽く笑うがウィリアムは首を振った。
「いや、違うと思う。指輪を盗んで落とすと思うか?灰の中から拾ったと言っていただろう、……好奇心で指輪をはめて燃えた可能性がある」
「えぇぇぇ?」
アンリエットはのけぞって驚く。
「たしかに、大量の灰の中に落ちていたわよ。あれが人の燃え尽きた跡ってこと?お、恐ろしいわ、やっぱりこれは呪いの指輪よ」
震えながら指輪を外そうとするが全く動かない。
そんな様子を見てエラノーラは微笑む。
「ウィルが愛人を作れば外れるわよ」
「作らない!姉上冗談でもやめてくれ!」
全否定をするウィリアムに少しホッとしつつアンリエットは指輪を眺めた。
「……クリスティナ様は死んでいないわよね」
「大火傷をしているが、死んでいない。すべて、クリスティナ嬢から調書を取った結果だ。城の中だったから指輪も控えめに攻撃をしたんじゃないのか?」
適当なことを言うウィリアムをアンリエットは睨みつけた。
「アンリ姫のおかげで全て丸く収まって良かったわ。これからよろしくね」
のほほんとエラノーラに言われてアンリエットは頷く。
「はい。私も嬉しいです」
アンリエットは左手を上げて指輪を青空へとかかげた。
キラキラと輝く赤い石を見てニヤリと笑う。
「指輪が外れた時、ウィルへの愛が無くなったってことだからわかりやすいわね」
「外れないように頑張るよ」
肩をすくめるウィリアムにアンリエットはまたニヤリと笑った。
(呪いの指輪かもしれないけれど、これが私とウィルを繋いでくれたと思うと悪くないわね)