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 アンリエットは唇を尖らせながら前に立っているウィリアムを見つめた。

 彼の手のひらには王家の指輪が乗っている。

 相変わらず赤い石は禍々しい光を宿しているように見えて、アンリエットは眉をしかめる。


「なんですか。ウィル様、私に用事ですか」


 冷たく言われてウィリアムは困ったように頭をかいた。


「アンリ姫に結婚を申し込みたい」


 意を決したように言うウィリアムにアンリエットは冷たい視線を向ける。


「指輪の処理に困って私に結婚を申し込んでいるの?」


 冷たく言ってアンリエットは窓の外を見た。

 昨日から雨は滝のように降り続き、止む様子が無い。


「ちがう、と言えばウソになるか……」


 ウィリアムは呟いてため息をついた。


「王家に生まれたからにはそれなりの役目があると思っている。俺は姉上夫婦を助けて王族として国に貢献をしていきたい。国が安定をして国民が幸せに暮らしてほしいと思っているしその努力もするつもりだ。ただ、そのためにはアンリ姫がともに居てくれると俺は嬉しい」


「私が指輪をすれば雨が止むから?」


「それも違うとは言い切れないが、俺はアンリ姫が傍に居ると明るい気分になって楽しい未来しか想像できなくなるんだ。アンリ姫の明るさに何度も救われている。これは本当だ、信じてくれ」


懇願する様子のウィリアムを見ているとアンリエットも意地を張っているのが申し訳なくなってくる。


(私も、素直になるべきね)


 ため息をついてアンリエットは笑みを作った。


「わかったわ。私も意地悪をするのは止めるわ」


 明るく言うアンリエットにウィリアムはホッとしたように体の力を抜いた。


「でも、クリスティナ嬢とキスをしたことは許していないから」


「あれは事故の様なものだ。無理やりしてきたんだ、でも謝るよ」


「もう二度と、他の女性とそんなことが無いようにしてね!」


 念を押すアンリエットにウィリアムは苦笑する。


「もちろんだ。ただ、こうして俺は今指輪を持っているが嫌ならしなくていい。アンリ姫の意志に従うよ」


 ウィリアムに言われてアンリエットはゴクリとツバを飲み込んだ。

 ウィリアムの手のひらに置かれている指輪はあんなことがあったからか怪しいオーラをまとっているように見える。

 喜んで付けますと言えずにアンリエットは顔を顰めた。


「エラノーラ様が付けると体調が悪くなるのよね?」


「そうだな。調査した結果、体調が悪化したのはクリスティナ嬢が差し入れたフルーツのせいだということが解ったが、フルーツを食べる前から姉は明らかに不調だった」


「指輪のせいね」


「姉上は今かなり体調が悪くて指輪を付けると悪化する恐れがある。だから俺が付けてみたが効果は無かった」


「へっ?ウィルがつけてみたの?」


 驚くアンリエットの前でウィリアムは頷いて王家の指輪を指にはめて見せる。

 何も変化は起きず、雨も降り続いたままだ。


「一晩つけていたが、天候も変わらなかった」


 がっかりした様子のウィリアムにアンリエットは声を出して笑った。


「ウィルが燃えないってことは、私がしても大丈夫だって事かしら」


 少し前向きなアンリエットの言葉にウィリアムも少しだけ笑みを見せる。


「そうだと思う。クリスティナは明らかに悪意があった。姉上に毒入りのフルーツを送ったりしていたせいだと思うが、しかし恐ろしい指輪だ」


「本当ね。もし私がクリスティナ様みたいなったらどうする?」


 アンリエットが聞くとウィリアムは当たり前のように答える。


「一緒に燃える覚悟はあるよ。アンリ姫の身に何かあれば俺が命を懸けて守る。ただ、無理につけなくていい」


 ウィリアムの言葉を聞いてアンリエットも覚悟が決まった。


「ウィルが本当に私と結婚してくれるのなら私も覚悟を決めるわ」


「俺は結婚を申し込んでいる。指輪をしてくれとは願っていないよ」


「嘘ね。指輪もしてほしいと態度で示しているじゃない。いいわよ、指輪をしてあげても」


 そう言って指輪を手に取った。

 大きく息を吸い込んで、指輪を指にはめようとするアンリエットをウィリアムが止める。


「ありがとう。ただ、指輪は俺がはめるよ」


 ウィリアムは指輪をとると、恭しくアンリエットの左手を手に取った。


「も、燃えないわよね」


 緊張しながら言うアンリエットにウィリアムは苦笑した。


「大丈夫だよ。アンリ姫ほど我が王家にふさわしい嫁はいないよ。俺にとっても最高のお嫁さんだよ」


 そう言って、ゆっくりとアンリエットの左手の薬指に指輪を入れていく。

 アンリエットの指に吸い付くように指輪がギュッと締め付けてきた。


「ひぃぃ。指輪が勝手にサイズを変えるのよ」


 悲鳴を上げるアンリエットにウィリアムも顔を顰める。


「俺の時はそんなことなかったが、本当に勝手にサイズが変わったな」


 アンリエットは左手の薬指に怪しく輝く王家の指輪をまじまじ見た。


「私、燃えてない?大丈夫?」


「何も変化は無いが……」


 ウィリアムはそう言って、アンリエットの肩を叩いて窓の外を指さした。


「雨が止んでいる」


 滝のように降り続いていた雨はすっかり止んでおり、アンリエットは驚きながら窓へと近づいた。


「本当だわ。そんなすぐに効果が出るとか恐ろしいわね」


 そう言っている傍から雲が晴れてゆき青空が見え始める。

 アンリエット以上にウィリアムは驚きながら窓を開けて空を見上げた。


「晴れている……。アンリ姫、虹が出ている」


 ウィリアムが指さしている方向をアンリエットも眺めた。

 青空に大きく虹がかかっているのが見えた。


「信じられないけれど、これも指輪のおかげってことかしら」


 アンリエットは呟きながら指輪に触れた。

 興味本位で指輪を抜こうとするがピクリとも動かない。


「抜けないわ」


 絶望的な表情を浮かべているアンリエットにウィリアムは満面の笑みを浮かべている。


「アンリ姫が俺の事が嫌いになったり、信用できなくなったら指輪が抜けるだろうね」


「……なるほど。本当に呪いの指輪だわ」


 恐ろしいものでも見るような顔をしているアンリエットをウィリアムは抱きしめた。

 急に抱きしめられてアンリエットは驚き悲鳴を上げる。


「ひぃぃ、何?急に」


「嬉しいからだよ。アンリ姫、ありがとう。指輪がはずれないように、アンリ姫を愛するし、信用を失うようなことはしないと誓おう」


 ギュッと抱きしめられてアンリエットも嬉しくなってくる。


「そうね。そう思うと指輪も悪くないかもしれないわね」


 指輪が外れない限り、ウィリアムと繋がっているという事だ。

 アンリエットは指輪を青空へと掲げた。


 太陽に当たり赤い石がキラキラと輝き美しく見えた。




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