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「ど、どうしてウィルに気があると、指輪が抜けなくなるの?」


「指輪に意志があるとしたら、俺と気が合う嫁を探してくれたんじゃないのだろうかと思うんだ」


「気が合う……」


 確かにウィリアムとは気は合う。

 (だったら、友達ってことじゃない)


 ムッとしているアンリエットを見てウィリアムは慌てて言い換えた。


「気が合うは違ったな、お互い夫婦としてやっていけるっていうか、愛し合うっていうかなんて言ったらいいんだ」


 しどろもどろになっているウィリアムを見てエラノーラがクスクスと笑った。


「つまり、ウィルはアンリ姫を愛しているってことでしょう?」


 そう言われてウィリアムは頷いた。


「そうだ」


 アンリエットはそう言われてもとても信用できない。

 冷めた目をウィリアムに向ける。


「どうせ都合のいい女が来たから良いように言いくるめて王妃の指輪を当てがっておこうと思っているんじゃないの?」


 そう言われてウィリアムは首を振る。


「違う。正直なアンリ姫を見ていると救われるんだ。かといって王妃の指輪をしていることで犠牲にしているのではないかと心苦しくて俺はアンリ姫に好意を伝えることは出来なかった。ただ、指輪抜きにしても俺と結婚をしてほしいと願っている」


 少し早口に言うウィリアムは正直なことを言っているのだろう。

 あまり嬉しい状況でない。

 アンリエットは疑心の目を向ける。


「それは本当にそう思っているの?私だっていつも能天気ではないわよ」


「解っているよ。でも、クリスティナ嬢と俺が仲良くしているのを見てショックで指輪が抜けたってことを考えると、俺に気が合ったと思うんだけれど」


 そう言われてアンリエットは思わず手を叩いた。


「なるほど!指輪が抜けたのが理解できたわ。二人がキスをしているのを見たとたんに指輪がスコーンって抜けたの!でもね、その時に私の心がウィルから離れたままかもしれないじゃない」


 唇を尖らせて言うアンリエットにウィリアムは笑った。


「そうだとしたら俺はショックで死んでしまうよ。俺はアンリ姫が好きなのに」


 目を見て言われてアンリエットは思わず顔が赤くなってしまう。

 何か言い返してやろうと口を開いたと同時に、ドアがノックされた。

 エラノーラ付きの侍女がすぐにやって来た。


「クリスティナ様がいらしておりますがお通ししますか?指輪を返しに来たからウィリアム様に会わせてほしいと」


「さっさと指輪を返してもらおう。その後、フルーツについて問いただそう」


 ウィリアムが言うと、エラノーラは頷く。


「すっかりフルーツの事を忘れていたわ」


 すぐに侍女に通されてクリスティナが部屋へと入って来た。

 勝ち誇った様子のクリスティナは満面の笑みを浮かべている。


 昨晩まで体調が悪かったせいかアンリエットはクリスティナの強い香水の匂いに顔を顰めた。

 エラノーラも匂いが鼻につくのかそっとハンカチで口元と鼻を覆っている。


「ごきげんよう。エラノーラ様もお元気そうで何よりですわ」


「どうも、ありがとう」


 毒入りのフルーツを送って来たくせにとアンリエットは思いながらクリスティナを睨みつけた。

 クリスティナはアンリエットをチラリと馬鹿にしたように見た。


「もう体調がよろしいの?お元気な体をお持ちですのねぇ」


 シャンパンに何か入れたのではないかと問いただそうと口を開きかけたアンリエットをウィリアムが制する。


「クリスティナ嬢、昨晩は迷惑をおかけしました。お陰様で、愛する婚約者はすっかり元気になりました」


 ウィリアムの言葉にクリスティナの頬が引きつる。


「あら、王妃の指輪を無くした人なのにまだ愛しておられるんですの?」


「指輪なんて関係ないですよ。ただ、王家に伝わる物なのでお返しいただきたい」


 ウィリアムが言うと、クリスティナは微笑んだままハンカチで包んだ王家の指輪を取り出した。

 クリスティナの手のひらで赤い石を付けた指輪は怪しい輝きを放っている。

 ころころと指輪を転がしながらクリスティナは指輪を眺めている。


「凄く素敵な指輪ですわよね。じっと見ていると吸い込まれるような怪しい輝きを放っているわ、きっと私の指にこそ輝くと思うんですの」


 先ほどの強気な様子と変わりクリスティナの目は王家の指輪をうっとりと見つめて呟いている。


「残念ですが、その指輪にふさわしい人は姉上か僕の最愛の人アンリ姫ですよ」


 ウィリアムが言うとクリスティナはなぜか微笑んだ。


「王妃の指輪、私はずっとほしかったの。これさえあれば、国が手に入るんですもの。私が王妃になることが出来るのよ。やっぱり私の元へ来た、私がこの指輪にふさわしいのよ」


 うわ言のように呟いて長い指で指輪を持ち上げるとゆっくりと左手の薬指につけた。

 

(ひぃ、あの指輪を付けるなんて……)


 心の中で悲鳴を上げてアンリエットはウィリアムを見つめる。

 彼も険しい顔をしてアンリエットに窓の外を見るように視線を送って来た。


 窓の外は相変わらず滝のような雨が降り続いている。


(そんな魔法みたいに、適正の人が指輪したからってパッと天気が止むわけないでしょ)


 心の中で呟いているアンリエットの声が聞こえているのかウィリアムはもっともだというように頷いている。


 左の手薬指についている王家の指輪をかかげてクリスティナは恍惚の表情を浮かべて眺めている。


「ほら、私にふさわしい指輪だわ。私は、病弱なエラノーラ様に代わって王妃になるの。そして、美しい夫とともに城で暮らすのよ。沢山の宝石を身に着けるの、美しい私が輝くのはそれしかないわ」


 夢を語っているクリスティナを、ウィリアムとアンリエットは黙って見つめる。

 静かな時が流れ雨音が窓を叩きつけている音が室内に響いている。


 一瞬、雷の音が響き窓から眩しいほどの光が入って来た。

 

「わっ」


 音と雷の光に驚いてアンリエットは一瞬目をつぶった。


「ぎゃぁぁ」


 クリスティナの悲鳴が室内に響いた。

 大きな悲鳴に驚いてアンリエットはクリスティナを見ると、真っ赤な炎が全身を包んでいるのが見えた。

 赤い炎に全身を包まれたクリスティナが悲鳴を上げてのたうち回っている。


「ひぃぃぃ」


 クリスティナが燃えているように見えてアンリエットは腰を抜かしそうになりベッドの上のエラノーラに抱き着いた。


「も、燃えてるの?」


「いや、炎ではないようだが……」


 ウィリアムも茫然として答えると、悲鳴を聞いた騎士が数人入ってきて驚きの声を上げる。


「な、なにがあったのですか」


「わからない」



 クリスティナは悲鳴を上げながらのたうち回り床へと転がった。

 ゴロゴロと転がると赤い炎が一瞬で消えた。

 騎士達も茫然としながら様子をうかがっている。


「火ではないですね。一体なんですか」


「わからない」


 ウィリムもそう答えるしかないのだろう。

 焦げ臭い匂いもしないが、どうみても炎に見えた。

 意識を失って倒れているクリスティナの肌は所々焼けただれているように見えて、アンリエットは顔を顰めた。


「い、一体何が起こったんですか?」


 エラノーラに抱き着きながらアンリエットが聞くが誰も答えることはできない。


「王家の指輪の呪いか?」


 ウィリアムが呟くと同時に、コロンと音がしてクリスティナの指から指輪が抜けて床に転がった。

 坂道を転がるように指輪は転がっていくとアンリエットの足に当たり動きを止める。


「ひぃぃぃ、指輪が動いている」


 悲鳴を上げるアンリエットにエラノーラが呟く。


「アンリ姫、指輪に選ばれているのではなくって?」


「嫌です。見ました?クリスティナ様、燃えてましたよ!」


「そ、そうね」


 意識を失ったままのクリスティナを見つめてエラノーラは頷く。

 

「やっぱりあの指輪は不幸の指輪ですよ!」


 アンリエットの叫びが部屋に響いた。




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