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 馬車の中でアンリエットは何度目かのため息をついた。

 前に座るウィリアムも今日は豪華な衣装に身を包んでいて、いつもの数倍素敵に見えてアンリエットの心が落ち着かない。

 ため息をついているアンリエットにウィリアムは笑みを作りながら話しかける。


「浮かない顔をしているな。ま、気持ちはわかるけれど」


「クリスティナ嬢の主催するパーティなんて絶対に私虐められるわ」


 嫌だと思いつつ無常にも馬車はクリスティナ嬢の屋敷に入り、車止めに泊まる。


 ドレスに身を包んだアンリエットにウィリアムは畏まって手を差し出した。


「俺から離れなければ大丈夫だよ。挨拶を済ませてさっさと帰ろう」

「そうね」


 馬車から降りたアンリエットは頷いてウィリアムの手を取った。


 クリスティナのお屋敷を見上げてアンリエットは小さく呟く。


「大きなお屋敷ね。ウチの城より大きいのではないかしら」


「それは言い過ぎだろう」


 笑みを称えながらもアンリエットは肩をすくめる。


 ウィリアム王子が到着したとあって、お屋敷の人達が一列に並び出迎えてくれる。

 頭を下げている使用人たちの前を通りながらアンリエットは居心地が悪くなる。


「なんだか、悪い気がするわ」


「そんなことを気にしていたら、この先上手くやって行かれないぞ」


 ウィリアムに囁かれて思わず口がへの字になってしまう。


(この先って言われると、私がウィリアムと結婚した先を想像してしまうわ)


 指輪が抜ければそれまでの関係なのに、どうしてもウィリアムとその先を想像してしまう。

 ウィリアムの手を握りながらアンリエットはそっと彼を見上げた。


 笑みを称えながらウィリアムに振りむかれてアンリエットの胸が高鳴った。


「なにかな?」


 王子モードのウィリアムに聞かれるとアンリエットは何も答えられないぐらい胸がいっぱいなる。


「何でもないわ」


 ウィリアムにエスコートされながら屋敷の大広間へ行くと、沢山の招待客でいっぱいだった。

 王子が来たとあって一斉に注目されるが、ウィリアムは軽く手を上げて笑みを称えている。


 アンリエットも作り笑顔をしながらなるべく目立たないようにと気配を消すことに努めた。


「あら、ようこそおいで下さいましたわ。ウィリアム様」


 豪華な青いドレスに身を包んだクリスティルが大げさに喜びながら現れた。

 いつもより濃い目の化粧に、香水も強めだ。

 強い香水の匂いにむせ返りそうになるのを耐えているアンリエットにウィリアムが囁いた。


「今日の匂いは強烈だな。気が遠くなりそうだ」


 ウィリアムの呟きにアンリエットは笑いを堪えた。

 そんなことを言われていると知らずクリスティルは上機嫌にウィリアムに話しかける。


「今日も素敵ですわ。こんな小娘なんかより私の方が美しいと思いません?」


 本人を目の前によく言うとアンリエットは思っているとウィリアムに左手を取られた。


「俺にはアンリ姫が世界で一番美しいと思っています。世界で一番愛しているのアンリ姫ですよ。王家の指輪を差し出すほどにね」


 そう言って指輪に軽く口付けをした。

 その様子を眺めていた招待客からどよめきが聞こえてくる。


(なんでそんな怒りを買うようなことをするの)


 ハラハラしながらアンリエットはウィリアムを見上げると彼は軽く肩をすくめた。


「そ、そうなの。まぁいいわ、そのうち私が一番だという事がわかるでしょうから。乾杯しましょう」


 クリスティナは引きつった笑みを浮かべながら給仕からグラスを受け取るとウィリアムとアンリエットに渡した。

 クリスティナの睨みを受けながらアンリエットは差し出されたグラスを受け取った。


「今日は来てくださりありがとうございます。良い夜をお過ごしください」


「ありがとう」


 作り笑いを浮かべてウィリアムはクリスティナと乾杯をした。

 他にも挨拶があるとクリスティナが離れるとアンリエットは安堵の息を吐く。


「相変わらず凄い迫力ね」


「香水の匂いが強すぎてほとんど会話の記憶が無い」


 ウィリアムも眉をしかめて頷いた。

 緊張の為に喉が渇きアンリエットは一気にシャンパンを飲み干した。

 

「ここの物はあまり口にしたくないな」


 一気に飲み干したアンリエットを信じられないような目で見てウィリアムはそっと給仕係に言って一口も口につけずグラスを戻した。


(この様子なら万が一にもクリスティナ様とウィルがどうにかなるなんて無いかしら)


 少しだけ安心してもう一杯とアンリエットはグラスを取る。


「良く飲めるな」


「食べ物に何か入れるようなことはしないでしょう、大勢の人がいるのよ」


 紫色の葡萄ジュースを眺めてアンリエットが言うとウィリアムはますます顔を顰める。


「たしかにそうだろうが、俺はクリスティナ嬢を信用していない」


「よっぽど嫌いなのね」


 ウィリアムがクリスティナを嫌っている様子が嬉しくてアンリエットは顔がにやけてしまう。

 上機嫌でジュースを飲もうとしたが手が滑ってグラスから液体がこぼれアンリエットのドレスが汚れた。


「やっちゃった。ちょっと、軽く落としてくるから待ってて」


 慌てて会場から出るアンリエットの背にウィリアムは頷いた。


「気を付けて」


(こんなに人が居るのに何を気を付けるのよ。ウィルったら意外と心配性ね)


 心配されることも嬉しくてアンリエットは化粧室へと駆け込んだ。

 駆け込むアンリエットの背後から、お屋敷の侍女もついて来てくれる。


「アンリ姫様、お手伝いいたしますね」


「ありがとう」


 クリスティナと違いお屋敷の侍女はアンリエットに優しく接してくれるようだ。

 濡れた布巾で丁寧に葡萄ジュースを拭きとってくれている。


 (クリスティナ様ももしかしたら、口が悪いだけで意外と優しいのかしらね)


 侍女の様子を見てアンリエットは思った。




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