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「アンリ姫、どうしたの?ため息ばかりついて」


 やることもないアンリエットは毎日エラノーラのお見舞いに来ている。

 エラノーラは体調が良くなったと言っても一日のほとんどをベッドの上で過ごしている。

 体のだるさが抜けないようで、日中動き回るのは辛いようだ。

 今日もエラノーラのベッドサイドでたわいのない話をしていたが、アンリエットはため息ばかりだ。


「いや、何でもないですよ」


 そう言いつつも考えることはウィリアムの事だ。

 あれから忙しそうにしているウィリアムだが、それでも夕方には部屋を訪れてくれる。

 気になる異性が毎日やってきては優しい言葉を言ってくれたらますます好きになってしまう。

 そして偽りの婚約だという事に気づき落ち込むという事を繰り返しているのだ。

 一人でいろいろと考えて疲れ切ってしまったアンリエッタはまたため息をついた。


「なんだか恋をしている少女みたいよ」


 ウフフっと乙女な笑みを浮かべてから買ってくるエラノーラにアンリエットはドキッとする。


「こ、恋?そんなわけないですよ」


 しどろもどろなアンリエットにエラノーラはますます笑った。

 笑った顔がウィリアムとそっくりでアンリエットはわけもなく胸がドキドキとしてくる。


(これは重症だわ)


 自分でも自覚をしてまたため息をついた。


「ウィリアムはどう?酷い事をされていないかしら?」


「優しくしてくれています」


「初めて会った時は腕をへし折られそうになったんでしょう?まだ恨んでいるのかしら?」


 エラノーラに言われてアンリエットは思い出したように手を叩く。


「そう言えばそんなこともありましたね。なんだか遠い昔のように感じます」


 しみじみと言って指輪を眺める。

 あれから大して日にちは経っていないが、自分の心の変化を考えると数年は経過しているような気がしてくる。


「その指輪もアンリ姫に馴染んでいるわね。本当に体調悪くならないの?」


「全くなりません。どうしてですかね」


 不安になってくるアンリエットにエラノーラは首を傾げた。


「適正があるのかしら。もういっそ、アンリ姫が王妃になったら?」


「冗談でも止めてくださいよ。王妃なんて大変なの知ってるわ、お兄様なんてずーっと勉強しているもの」


 顔を顰めるアンリエットにエラノーラは頷く。


「そうね。大変だけれど、ほとんどウィルとヘンリーがやってくれるから大丈夫よ」


「そういえば、ヘンリー様との出会いはどんな感じだったんですか?」


 どうしたら自分の恋愛がうまくいくのかヒントが無いかとアンリエットは何気なく聞いてみる。


「出会いねぇ。昔からの知り合いよ。ヘンリー以外と結婚するのを考えられなくて、結婚してほしいってお願いしたの。でも、何度も振られたのよ」


「えっ?そうなんですか?」


「いずれ王位を継がないといけない私だったでしょう。とてもその責任は負えないって言われて、でも両親が亡くなった時に、一緒に頑張ろうって言ってくれたの」


 頬に手を当てて顔を赤らめているエラノーラを見てアンリエットは羨ましくなってくる。


「いいなぁ。私も、そんな風になりたいです」


 思わず言ってしまった本音にエラノーラは優しい瞳を向けてくる。


「大丈夫よ。自分に素直になれば、いいことがあるわよ」


「素直ですか」


 (でもウィルに好きだなんて言ったら困るわよね。婚約者のフリをしているだけだし)


 天井を見て考えているアンリエットの後ろから侍女が声を掛けてくる。


「まぁ、乙女のお話をされておりますわね。今日もクリスティナ嬢からフルーツの差し入れがありましたわ。捨てます?」


 あんまりの侍女の言いようにエラノーラは笑って首を振った。


「フルーツがもったいないわ。頂くから切ってくれるかしら」


 時計を見るとちょうど昼時だ。

 アンリエットは立ち上がった。


「そろそろ失礼します。私、ウィルとお昼を一緒に食べる約束をしているので」


「まぁ、そうなのね。ウィルによろしくね、最近忙しいから来てくれないのよ」


「はい」


 アンリエットは頷いて部屋を後にした。



 (はぁ、なんだか本当に恋をするって辛いわ)


 報われない恋な気がしてアンリエットはまたため息をついた。

 城の廊下を歩いていても、侍女や騎士達は軽く頭を下げるだけで興味本位で見られることが無くなった。

 だいぶ城に馴染んできているのだろう。

 恋について悩みながら歩いていると前からウィリアムが歩いてくるのが見える。

 アンリエットに気づくと笑みを浮かべて速足で近づいてきた。


「仕事が早く終わって、姉上の所に迎えに行く所だった。ちょうど会えてよかった」


 そう言って当たり前のように手を差し出してくる。

 恥ずかしくなりながらもアンリエットはウィリアムの手を取って歩き出した。


 手を繋いでウィリアムと歩いていても当たり前の光景になっているようだ。

 

(このまま本当に結婚できたらいいのに。いや、でもウィルに愛されないと意味無いわ)


 チラリとウィリアムを見上げると青い瞳と目があった。

 

「なんだ?」


「何でもないわ」


 目が合うだけでドキドキしてしまう。

 アンリエットは平静を装ってそっぽを向いた。

 ウィリアムは微笑むとアンリエットの手を強く握る。


「そういえば、今度アンリ姫の国から届け物が来るらしいね」


「こっちに居る日数が長くなりそうだからいろいろ届けてもらう予定なの」


「なるほど、もし何か足りないものがあれば言ってくれ。愛する婚約者のために出来ることはやるから」


 揶揄うように言われてアンリエットの顔が赤くなる。

 それを見たウィリアムは楽しそうにアンリエットを抱き寄せる。


「な、な、なにをっ」


 驚くアンリエットが面白いのかウィリアムはギュッと抱き込んで歩き出した。


「あまりにもアンリ姫が可愛いから、ついね」


「ついって何?どういう事?」


 侍女や騎士に変な目で見られるとアンリエットは必死に離れようとするがウィリアムの腕が強くて離れられない。

 そんな様子を見てウィリアムは声を上げて笑う。


「俺の愛するアンリ姫は可愛いな」


 ワザとなのか大きな声で言うウィリアムだが、侍女も騎士も暖かい瞳で見つめて通り過ぎていく。


(もう誰も変な目で見ないわね。むしろ、本当の婚約者だと思われているわ)


 あのウィリアム王子も本気なのねという声が聞こえて来てアンリエットはますます恥ずかしくなる。


(これが本当にウィルの本心だったらいいのに……)


 嬉しい気持ちと虚しい気持ちが混ざってアンリエットは不思議な気持ちになった。





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