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 サワサワと風に揺れてバラの花が揺れるたびに花のいい匂いが漂ってくる。

 アンリエットは大きく息をう吸い込んだ。


「とても素敵だわ」


 前に座るウィリアムは用意されたお茶を飲みながら肩をすくめた。


「そうか?まぁ、姉上のおすすめの場所なんだ。アンリ姫も気に入って良かった」


「なるほど。ウィルは薔薇には興味ないのね」


 花をめでる様子もないウィリアムの態度を見てアンリエットは頷いた。

 ウィリアムはまた肩をすくめる。


「あまり興味ないな」


なんだかがっかりした気分になりアンリエットはケーキを一口食べる。


「そういえば、雨はいつ止んだのかしら?」


 この国に入った時、すでに雨は止んでいた。

 この話をしても大丈夫かと心配になりあたりを見回すアンリエットにウィリアムは頷く。


「姉上付きの侍女だから事情は全部知っているし、口は堅いから大丈夫。なんでも聞いてくれ」


「やっぱり指輪が帰ってきたからかしら?」


 それでも話を誰かに聞かれる恐れを考えてアンリエットは小声で聞いた。

 ウィリアムも声を潜める。


「そうだと思う。俺達がこの国へ帰る少し前に雨が止んだようだ。今は何も異変はないよ」


 王家の指輪を見ながらウィリアムは言う。

 赤い石は怪しい輝きを放っているように見えてアンリエットもじっと左手の指輪を見つめた。


「ウィルがやった時は変化なかったのに、部外者の私に効果があるなんてどうしてかしら。女だから?」


「もしくは、アンリ姫も王家の血を引いているからとも考えられる」


「なるほど。とても説得力あるわね」


 ウィリアムは瞳を伏せて声を潜めた。


「もし、体調が少しでも悪くなったら言ってくれ。母も姉もその指輪をしてから体の調子が悪くなったから、心配だ」


 小さな声で言うウィリアムにアンリエットは明るく笑った。


「今の所大丈夫よ!体は元気だし、変な不幸は無くなったし……」


「そうか」


 アンリエットにつられてウィリアムも微かに微笑んだ。

 その微笑みを見てアンリエットの胸は高鳴り息が苦しくなる。


(ウィルの笑顔は心臓に悪いわね)


 クリフには感じたことが無い胸のときめきにアンリエットは戸惑いながらそっと息を吐いた。

 まさか自分がウィリアムを好きになるなんて考えられなかったが、もうどうしようもない。

 好きになる気持ちは止められないが、ウィリアムは自分を愛しているという演技をしているだけだと思うと虚しくなってくる。


 「クリスティナ様がこちらに向かってきますよ」


 にこやかにアンリエット達を見守っていた侍女がそっとウィリアムに囁いた。

 

「なぜここに俺達が居るのがわかるんだ……」


 嫌そうにウィリアムが呟くと同時に大きな音を立ててバラの花が揺れた。

 花びらをまき散らしながらクリスティナは登場するとアンリエットを睨みつける。


「二人で、仲良くお茶をなさっているのですか?一体誰の許可を得てそんなことをしておりますの?」


 偉そうに宣言するクリスティナにウィリアムは呆れた様子でため息をついた。


「クリスティナ嬢こそ、なぜ俺達の邪魔をするんですか。俺はアンリ姫と愛を育んでいるのに帰っていただけますか」


 無表情に冷たく言うウィリアムにアンリエットの方がドキリとしてしまう。

 いつもと違う冷たい様子のウィリアムにアンリエットは驚くが、クリスティナは気にした様子が無い。


「愛ですって?ウィリアム様目を覚ましてくださいませ。小娘にうつつを抜かしているような方ではないでしょう?」


 あまりの言われようにさすがのアンリエットもムッとするが、ウィリアムの方が早く口を開いた。


「小娘と言いましたか?サナリア王国のアンリエット姫ですよ。失礼のないようにしてください」


「姫と言っても小国でしょう。大したこと無いわよ」


「俺の婚約者にこれ以上失礼なことを言うのは止めていただきたい。そもそも、俺はクリスティナ嬢に会う予定はありませんでしたがなぜ城に居るんですか?」


 冷たく言うウィリアムにクリスティナはぐっと言葉に詰まった。


「お父様に用事があったのよ」


「ならばどうぞ用事を済ませてさっさと帰って下さい。これ以上俺達の邪魔をするようなら出入り禁止にしますよ」


 出入り禁止と聞いてクリスティナは唇を噛んでアンリエットを睨みつけた。


「覚えていなさいよ!私は絶対にウィリアム様と結婚するんですから」


 そう言い残すとカツカツと足音をさせて速足に去って行った。

 唖然としているアンリエットにウィリアムは長いため息をつく。


「すまなかった。今すぐ出入り禁止にしてもいいが、さすがに俺達のデートの邪魔をされたからではまずいだろう」


「そ、そうですね。凄い迫力で驚きました」


 クリスティナがまたやって来るのではないかと様子を伺いながら言うアンリエットにウィリアムは頷く。


「困った女性だ。どうして俺は結婚する気もないのに、結婚できると思っているんだろうか」


 ウィリアムは困り果てた様子だ。

 お茶のお代わりを注ぎながらエラノーラ付の侍女が頷く。


「勘違いなさっているんですよ。自分の想い通りにならないことがないって、ウィリアム様もはっきり言っているのに、全く気にしていませんよ」


「早く、何か理由をつけて出入り禁止にしたい」


 ぼやくウィリアムにアンリエットは少しだけ笑ってしまう。


「大変ね」


「アンリ姫も指輪の事だけじゃなく、クリスティナ嬢に何かされたら直ぐに俺に言ってくれ」


「もちろんそうするわ」


 気にかけてくれるのが嬉しくてアンリエットは笑顔で頷いた。





「はぁ、困ったわね」


 自室に戻ったアンリエットはため息をついて左手の王家の指輪を眺める。

 夕日に当たりキラキラと怪しく輝いている赤い石は見ているだけで気分が落ち着かなくなってくる。

 不幸な指輪かと思ったが、今はこの指輪が無いと自分の価値が無いのではないかとさえ思ってくる。

指輪が外れないからウィリアムの結婚相手として城に居ることが出来ている状態が心地よくなってきている。

 ウィリアムの笑顔を見るとどんどん好きになっているような気がしてアンリエットはまたため息をついた。


「このまま指輪が外れないといいのに」


 


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