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 翌日、ウィリアムの言う通り朝から彼は迎えに来た。


 朝の準備の為にアンリエットの部屋に居た侍女がウキウキしながら伝えてくる。


「ウィリアム様がいらっしゃいましたよ。お通しますね」


「はい」


「朝一番から来られるなて愛されておりますわね」


 うふふっという声が聞こえてきそうなぐらい浮足立って侍女はウィリアムを案内しに行く。


「なんだか厄介な気分だわ」


 昨日、ウィリアムに恋心を認識してしまってアンリエットは顔を顰めながら窓の外を見た。


 今日も良く晴れたいい天気だ。



 侍女に部屋へ案内されたウィリアムは爽やかな笑みを浮かべている。


「おはよう。アンリ姫、今日は俺も一日暇だから城を案内しようかと思って、どうだろうか」


 畏まって言うのは侍女が居るためだろう。

 

「そうね。まだ城に慣れていないからお願いするわ」


 アンリエットが頷くとウィリアムは左手を差し出してくる。


「なに?」


 不思議な顔をしているアンリエットの耳にウィリアムは囁いた。


「仲良くしておかないと怪しまれるだろう。婚約者殿、俺は恋焦がれて王家の指輪を差し出したんだから」


「な、なるほど」


 王家の指輪を差し出すという事はそれほどの想いがあるという事だ。

 アンリエットは頷いてウィリアムの手を握った。


「よし、なら行こうか」


「は、はい」


 ドキドキしながらアンリエットは手を繋いだまま部屋を出た。

 侍女は手を繋いでいる二人を見て満面の笑みで見送ってくれる。


「行ってらっしゃいませ」


 

 ウィリアムと手を繋いだまま廊下を歩く。

 すれ違う侍女や騎士達はアンリエットとウィリアムの姿を二度見するほど驚いている。


「なんだかすごく見られているわよ」

「そりゃそうだろう。俺が、女と手を繋いで城の中を歩くなんて馬鹿みたいだろう」


 にこやかかな表情を浮かべながらウィリアムは囁いた。

 アンリエットもウィリアムを見ながら囁く。

 顔はにこやかだが、言っている事と会っていない。


「馬鹿って……」


「女にうつつを抜かすような俺じゃないんだよ。それがなんで大切な王家の指輪を惚れたからって差し出すんだ。俺はそんな浅はかな男じゃない」


 言いたいことは分かるが、そこまで言うことは無いだろう。


(どうしてこんな人を好きになったのかしら。優しくない気がするわ)


 かといって、誰にでも優しい言葉を言っていた初恋のクリフみたいな男は嫌だ。

 アンリエットはウィリアムをそっと見上げる。

 彼の顔を見るだけで胸がドキドキしてしまい、やっぱり恋心を自覚する。


「どこを案内しようか」


「ウィルが考えてよ。何があるの?」


「そうだな、軽く城を回るか」


 ウィリアムはアンリエットと手を繋いで城を中を歩き回る。

 会議室や、衣装室など案内され一通り回る。

 手を繋いで歩いていることで、注目をされていたがウィリアムは気にする様子もなく親切な様子を見せてくれていた。


 城の端まで来ると調薬室というプレートが見えてアンリエットはウィリアムの手を引く。


「ウィル、調薬室を見学したいわ」


「声を掛けてみるか。俺はあまり出入りしないけど」


「でしょうね」


 アンリエットはウキウキしながら調薬室へと向かった。

 ノックをするとすぐに薬師が顔を出してウィリアムを見て慌てて畏まる。


「ウィリアム様、どうかなさいましたか」


「いや、俺の婚約者のアンリ姫が見学をしたいということなんだが、問題ないか?」


 真摯な笑みを浮かべて言うウィリアムに薬師は何度も頷いた。


「もちろんですよ!どうぞ」


 促されてアンリエットはウィリアムの手を振りほどいて部屋へと入って行った。


「ありがとうございます」


 アンリエットに続いてウィリアムも室内に入る。

 薬草の匂いが充満する中作業をしていた薬師達が一斉に立ち上がった。


「ウィリアム様、どうかしれましたか」


「いや、作業を続けてくれ。婚約者のアンリエット姫が見学をしたいというので」


 ウィリアムが説明をすると薬師たちは納得したようだ。


「バルメ先生の生徒さんなんですよね。いろいろ教えてほしいです」


 アンリエットはあっという間に薬師に囲まれてしまう。

 薬草の話で盛り上がるアンリエットをウィリアムは静かに待った。


 しばらく夢中で話をしていたアンリエットは暇そうにしているウィリアムを見て慌てて話を切り上げる。


「あの、まだいろいろ話したいんですがウィリアム王子が待っているので今日は失礼します」


「そうですね、またぜひ来てくださいね」


 愛想笑いをしながら薬師の輪から離れてアンリエットはウィリアムの前に立った。


「ごめんなさい。お待たせしちゃたわ」


「もういいのか?」


 ウィリアムは来てくれるが、これ以上王子を待たせるわけにいかないとアンリエットは頷く。


「また来るわ」


「来るところが出来てよかったな」


 ウィリアムはそう言うとまた手を差し出してきた。

 

(また恋人のフリをするのね)


 アンリエットは笑顔でウィリアムの手を握る。


(これが演技じゃなければいいのに)


 アンリエットは虚しくなりながらもウィリアムの手を握って歩き始めた。


 調薬室から出て廊下を歩き、外へと出る。


「今ちょうど薔薇が咲いていて見どころなんだ」


 そう言ってウィリアムに連れられて中庭を歩いていく。

 初夏を思わせるように外は少しだけ暑い。

 

 ウィリアムの大きな手を意識してしまいアンリエットはどう歩いて来たのか分からなくなる。

 ドキドキしていると、不意にバラのいい香りが漂ってきた。


「いい匂いね」


「そうだろう?女の子はこういうのが好きだろう」


 ウィリアムはニヤリと笑って顎で道の先を指す。

 視線を向けると小道の両側に植えられた薔薇が、アーチを描くよう枝を伸ばし絡み合っているのが見える。

ピンク色や赤い色など様々な大振りの薔薇の花が咲いており、近づいて行くといい香りが漂っていた。


「薔薇のトンネルね。素敵だわ」


 目を輝かせているアンリエットにウィリアムは微笑んだ。


「やっと雨が止んだから庭を散策できる。あと数日雨が止まなかったら花は咲かなかったようだ」


「そうなのね」


 ウィリアムはアンリエットの手を引いて歩く。

 薔薇のアーチを抜けると、白い屋根の下に椅子と机が置かれた小さな休憩場のような場所に出た。

 二人が来るのを分かってたように、侍女が二人待機していた。


「ここでお茶をしようと思っていた」


ウィリアムはそう言うとアンリエットをエスコートして椅子に座らせた。




 


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