13
夕暮れ時になり、アンリエットをウィルが尋ねてきた。
「また侍女が居ないのか」
「だから断っているの。用事があればちゃんと頼んでいるわよ」
部屋のドアを開けたアンリエットにウィリアムは眉を顰める。
なかなか部屋に入ってこないウィリアムにアンリエットは大きくドアを開けて部屋の中を指した。
「どうぞ」
「いや、侍女が居ないなら外で話すか」
「大丈夫よ。一応婚約者同士なんでしょ、変な噂なんてこれ以上たたないわよ」
アンリエットが言うとウィリアムは頷いて部屋に入って来た。
ウィリアムは応接室のソファーに座る。
「クリスティナと会ったって?」
「そう、ビックリしたわ。ものすごい美人だけれど迫力がある方ね」
アンリエットは美しいクリスティナを思い出して顔を顰める。
お茶の準備をして、ウィリアムの前に置いた。
「アンリ姫がお茶を?」
驚いた様子のウィリアムにアンリエットも驚く。
「お茶ぐらい誰だって淹れるでしょう?……毒なんて入れてないわよ」
「それは心配していないが、普通は侍女が淹れるものじゃないのか?」
「ウィルはお茶をわざわざ侍女にいれさせているの?」
「いや、俺は面倒だから自分でやるよ」
そう言いつつも不思議な顔をしてウィリアムはお茶を一口飲んで味を確かめている。
「失礼ね。お茶ぐらいちゃんと淹れられるわよ」
アンリエットはムッとしながらウィリアムの前に座った。
「そうか。薬師の勉強をして野宿した経験があるぐらいだから何でもできるか……」
呟くウィリアムにアンリエットは頷いた。
「薬師は関係ないけれど。ウチの親は甘やかさないから。王室だって普通のご家庭と変わらないって言われて、あまり贅沢なんてしていないわよ」
「城の中を自由に人が出入りしている様子をみていたらそうだろうな」
ブツブツと呟くウィリアムは気を取り直してアンリエットに向き直る。
「クリスティナ嬢に変なことをされなかったか?」
「エラノーラ様の前だったから大丈夫だったわ。でもすごい恨みのこもった目で睨みつけられた」
「なるほど。直接手を出してくることは無いと思うが、クリスティナ嬢には気を付けて」
「言われなくても気を付けるわ。ウィルとどうしても結婚したかったのでしょう?」
アンリエットに言われてウィリアムは顔を顰めた。
「俺はその気が無い。クリスティナ嬢は王族に嫁ぎたいだけだよ」
「それもあるけれど、ウィルぐらいの好条件ってそうそうないものね」
「好条件ねぇ」
呟きながらウィリアムはアンリエットが出したお茶菓子を手に取って食べ始める。
「それ、クリスティナ嬢からの差し入れよ」
冷めた目でアンリエットが言うとウィリアムは咳き込んだ。
「嘘よ。クリスティナ嬢の差し入れなんて怖くて食べられないわよ」
「アンリ姫そう言う冗談はやめてくれ」
「私をほおっておいたからよ。お城歩いていたら、ヒソヒソと私を見て噂をしているのよ」
「悪かったよ。時間があれば一緒に居るよ」
そう言ってウィリアムはなぜか微笑んだ。
微笑むウィリアムを見てアンリエット胸が高鳴った。
ドキドキする胸を押さえつつ変な顔をした。
(まさか、ウィルの事が好きになった?)
アンリエットは胸を押させてウィリアムを見つめる。
金色の髪の毛に青い瞳、整った顔。
そして身分も申し分ない。
(もしかして、とんでもない人を好きになっちゃった?でも、偽りの婚約者だし、指輪が抜ければさよならだし、いや指輪が抜けなかったらどうなるの?)
ぐるぐると考えているアンリエットをウィリアムは不審な顔をする。
「どうしたんだ?」
「なんでもないわ。気にしないで」
そう言いつつも、自分の恋心を認識すると急にクリスティナが必死になっているのも理解できた。
これだけの好物件を逃したくない、逃すものかという執念は分からなくもない。
(どうしよう、きっとこの恋だって実らないわ)
そう言い聞かせてアンリエットはお茶を一口飲んだ。
「変な奴だな」
挙動不審なアンリエットを見てウィリアムはまた笑った。
(だから、その笑みがよくないんだってば)




