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 アンリエットは居心地の悪さを感じながら城の長い廊下を歩く。

 ヒソヒソと侍女達が噂話をしている様子を見てため息をついた。


「昨日の今日で、噂ってすごいわね」


 ウィリアムがアンリエットに求婚したというのは城中で広まっているようだ。

 そのおかげでアンリエットは指輪を隠すことなく堂々と付けることが出来たのはありがたい。

 そのウィリアムは用事があるとかで不在だ。


(慣れるまで、一緒に居てくれてもいいじゃない)


アンリエットは心の中で呟きながらもエラノーラの部屋へと向かった。


「こんにちは。体調はどうですか?」


 侍女に招き入れられ部屋へ入ると、エラノーラは起き上がってフルーツを食べていた。

 顔色もよく、おいしそうに食べている様子を見てアンリエットは笑みを作る。


「お元気そうで良かったです。ウィルがとても心配していたからもっとお悪いのかと思いました」


 ベッドサイドの椅子に座りながら言うアンリエットにエラノーラは頷いて微笑んだ。


「指輪から離れたら体調が良くなったの。その指輪返さなくていいわ、ずっとアンリ姫につけていてほしいわ」


「私はまだ元気ですけれど、絶対にこれのせいで不幸になっている気がします。侍女の方達は私の噂でもちきりですよ」


「ウィルは人気だから、仕方ないわよ。あのウィルが結婚してくれって懇願した女性ですものねぇ」


 上品に笑ってフルーツをまた一口食べる。

 

「お食事は他にも食べていますか?」


「えぇ。天気が回復したから安心したのかしら、三食しっかり頂いているわ」


 アンリエットは頷いて、紙を数枚取り出して眺める。


「先ほど主治医の方々とお話してきましたけれど、お薬も問題なさそうです。倒れられてから特に病気というわけではないので、お薬は栄養剤のみだったので飲み合わせなんてものは存在しませんしウィルが心配するほどの事ではないですね」


「ウィルは心配性なのよ」


「お姉さん想いなんですよ。ご両親が早くに亡くなっているから、心配だったんでしょうね。おじいちゃん先生をここまで連れてこようとするぐらいに」


 アンリエットが言うとエラノーラは嬉しそうに微笑んだ。


「ウィルは気難しいのよ。何を考えているか分からないし、真面目で先のことまで考えて余計な心配ばかりしているのよ」


「まぁ、わかります。私なんて指輪を盗んだと勘違いされて腕をへし折られるところだったんですよ」


 へし折られるという表現が面白かったのかエラノーラは声を上げて笑った。

 

「ウィルは真面目だから。私が寝込んでいる間に指輪が盗難にあったことを気にしていたんでしょうね」


「確かにすごく剣幕でしたね」


 盗人だと疑われた時を思い出してアンリエットは頷く。


「……ウィルなりにちゃんと考えていると思うのよ。私としてはウィルとアンリ姫が結婚してくれると嬉しいわ」


 おっとりと言われてアンリエットは考える。


「まぁ、確かに悪くないのかしら?」


 悪くないといういい方にエラノーラは笑う。


「そうよ。姉の私が言うのもなんだけれど、ウィルは人気なのよ」


「そうでしょうね」


 アンリエットは頷いてウィルの事を考える。

(確かに、地位もあるし女遊びはしてなさそうだし、悪くないのかもしれないわね)


 ウィリアムの事を考えていると、エラノーラ付きの侍女が申し訳なさそうに声を掛けてくる。


「あの、クリスティナ様が面会に来られました。今は来客中だとお断りしたのですが、引き下がらないんです」


 困った様子の侍女にエラノーラは肩をすくめる。


「例の問題な令嬢よ。弟とどうしても結婚したい一人ね。きっとアンリ姫を見に来たのよ」


「えっ」


 会いたくないと思っているアンリエットの心を見透かしながらもエラノーラは頷いた。


「いいわ。お通しして」


 アンリエットの希望もむなしくエラノーラは入室の許可を出した。

 嫌そうな顔をしているアンリエットにエラノーラは微笑みかける。


「いつかは会うのだから早いに越したことないわよ。アンリ姫は、ウィルが選んだ人なんだから堂々としていればいいの」


(選んだと言っても、指輪が抜けないせいで婚約という嘘をついているだけなのに……)


 

「お久しぶりでございます。エラノーラ様」


 すぐに可憐な美女が部屋へとやって来た。

 金色の長い髪の毛は綺麗にカールされていて、美しい顔は派手なお化粧がされているが嫌味が無い。

 青い瞳がエラノーラを見た後にアンリエットを睨みつけた。

 真っ赤な首紅を付けた口元は微笑んでいるが、雰囲気が恐ろしい。

 

「お久しぶりね。噂は聞いているかと思うけれど、こちらはアンリエット姫よ。ウィルが惚れこんで結婚を申し込んだのよ」


 オホホッと上品に笑うエラノーラの言葉にクリスティナの頬が引きつった。


「噂は真実ですの?」


「えぇそうよ。私もウィルの恋を応援しているから、王家に伝わる指輪を差し上げたらと言ったのよ」


「指輪を?」


 眉を潜めてクリスティナはゆっくりとアンリエットの指を見る。

 左手の中指にはまっている王家の指輪を見て驚愕表情を浮かべた。


「な、なっ!どうしてその指輪をなさっているの?それは王妃しか許されない指輪でしょう?」


「いいのよ。王妃でないとしてはいけないわけではないから。ウィルのお嫁さんになってくれるなら、私からは指輪を贈ろうと思っていたのよ」


「まだ結婚もしていないのに?ウィリアム様の気が変わるかもしれませんわよ」


 表面上は普通な様子で話しているクリスティナだが怒りが押し隠せないのか目が怒りで血走っている。

 

「大丈夫よ。ウィルはアンリ姫の事をとても愛しているから」


(どうしてそんな火に油を注ぐようなことを言うの!)


 これ以上余計なことを言わないでほしいとアンリエットはエラノーラに視線を送る。

 エラノーラは気にすることなく話続けている。


「愛している?まだ会って数日ですよね」


「ビビッと来たらしいわ。恋なんてそんなものよね」


 ウフフっと笑うエラノーラにクリスティナは額に手を置いて長いため息をついた。


「エラノーラ様がお元気そうで良かったですわ。わたくし、これで失礼致しますわね」


「あら、そう?あ、お見舞いありがとう。いつもフルーツを差し入れて下さってとても美味しかったわ」


「選び抜かれたフルーツですから。またお届けしますわね」


 ふらつききながらクリスティナは部屋を出て行った。


 彼女の気配が消えてからアンリエットは身震いをする。


「美しい人ですけれど凄い迫力がある方ですね」


 クリスティナが付けていた優雅な香水の残り香が部屋の中に充満している。

 エラノーラ付きの侍女は窓を開けて空気が逃げるように大きな扇子で仰ぎだした。


「全くあの方が来ると部屋が臭くて!病人がいるというのに匂いが強い香水をつけてくるなんてマナー違反ですわよ」


 文句を言う侍女にエラノーラは頷いた。


「そうね。見ての通り、性格がきついからウィルは嫌っているのよ」


「わかります。私は凄く恨まれている気がします」


 恨みのこもったクリスティナの瞳を思い出してアンリエットはまた身震いをした。


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