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「笑ってないで、どうして婚約者になるのよ」
アンリエットは笑ったままのウィリアムに必死に訴えた。
「悪い。その方がいろいろ都合がいいだろう。俺がアンリエットに求婚をして指輪を渡した。アンリエットはそれを受け入れて俺と過ごす時間を増やすために城へ来たってことにすれば違和感なくすべてが進む」
「進まないわよ!」
ウィリアムはアンリエットの左手の中指を指さした。
「一生包帯を巻いてい過ごす訳にも行かないだろう。それに何かの拍子にアンリエットが指輪をしていることがバレたら下手したら盗人扱いされるぞ」
ウィリアムに指摘されてアンリエットは唇を尖らせる。
「確かにそうね。盗みを指示したとか言われかねないわ」
ウィリアムは得意げに頷く。
「そうだろう。小国の田舎娘が俺みたいな大国の王子の気を引くために、王家の指輪を盗むように指示をしたっていう噂が立ったら最悪だ」
「私は関係ないのに。一体誰が盗んで川岸に捨てたのよ。やっぱりこの指輪は呪いの指輪よ」
ブスッとして指輪を眺めるアンリエットを見て今度はエラノーラがクスクスと笑った。
「そうよね。呪いの指輪よね。代々王家に伝わる指輪なんだけれど、どうしてもそれを付けると体調が悪くなるの。アンリ姫は大丈夫なのかしら」
「今のところ体調はすごくいいです。でも、嫌なことばかりです。王妃のみがする指輪を私がしていたらそれこそ可笑しくないですか?」
「そうねぇ。ウィリアムに相談されていた私が、この指輪を渡したっていうのはどうかしら?」
「無理がありません?」
アンリエットが言うとウィリアムは腕を組んで思案している。
「ならこうしよう。指輪が盗まれたことは事実、その指輪を探していたところたまたま俺が見つけた。しかし、アンリ姫に惚れこんでしまった俺は気を惹こうと代々伝わる王家の指輪を差し出してぜひ結婚してくれと懇願したっていうのはどうだ」
「ウィルが私に結婚してくれって頭を下げる光景が思い浮かばないわ。そもそもウィルがそこまで人を好きになるなんて思えないんだけれど」
「俺だって人を愛する心ぐらい持っている!ただ、代々伝わる王妃の指輪を渡すことはしないな……」
二人の会話を聞いてエラノーラはクスクスと笑った。
「二人とも仲がいいわね。ウィルがそこまで気を許しているなら求婚したっていうのは姉の私でも信じてしまうわ」
ウィリアムとエラノーラに言われてアンリエッタはギュッと目を瞑った。
どう考えても指輪が見えないように包帯をしているのも限度がある。
ウィリアムの婚約者として過ごすのが一番いいのだ。
「わかったわ。ウィルが私に結婚してくれって懇願してきたってことにする」
「懇願の部分を強調するな」
ウィリアムが呟くとアンリエッタは大きく頷いた。
「私が付いて来たみたいなのはリスクがありすぎるわ。ザドさんが言っていたじゃない、変な令嬢が居るって。私きっと殺されるわ」
両肩を抱いて演技がかっていうアンリエッタをウィリアムは白い目で見る。
「変な本の読みすぎだ。たしかに、クリスティナ嬢は厄介だが婚約者ということにすれば問題ないだろう」
「ほら、厄介って言った。クリスティナお嬢様が指輪も盗んだんじゃないかしら」
アンリエッタが言うとウィリアムは馬鹿にした目で見てくる。
「何のために?代々王家に伝わる指輪を盗んでどうするつもりだったんだ。嵌めただけで王妃にはなれんぞ」
「ウィルの気を惹きたかったとか?」
アンリエッタが言うとウィリアムは苦虫を噛みつぶした顔をする。
「ありそうな予感がしてきた」
「強烈なお嬢様だからありえないことも無いけれど、もし盗みを指示したり本人が盗んだとしたら大罪ね」
サラリというエラノーラにアンリエッタは驚きながらも頷いた。
「確かに。でもこれって、呪いの指輪なんですよね。王家の人が付けていないと、災害が起きるとか。それって有名な話なんですか?」
「一部の人しか知らないわ。表立って言う人は居ないわよ、呪いなんてあると思わないじゃない?」
エレノーラの言葉にアンリエットは頷く。
「この指輪、明らかに大きいサイズだったのに指に入れたらピタッとサイズが変わった気がします」
「わかるわ!私もそうだった!その指輪は普通じゃないわ。雨が止んだのは、指輪が帰って来たからね」
「そうですかね」
納得できない様子のアンリエッタにウィリアムは頷いた。
「俺が指輪をしてもそんな感覚は無かったし、雨も止まなかった。女性で王族がしているのがいいのか、それとも何かあるのか……。理由はわからないが、とにかく今は天気も収まっているからしばらく様子を見たい」
ウィリアムに言われてアンリエッタは頷く。
「そうね。大雨が降ると国民も困るから、今通常通りならそれがいいわよね」