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「お城も豪華でとっても広いわねぇ」


 ウィリアムと並んで歩きながら物珍しそうにアンリエットは呟いた。

 広く長い廊下の白い柱は彫刻が施されており、時折高そうな壺や絵などが飾ってありアンリエット立ち止って眺めたくなる。

 ウィリアムはそのたびにアンリエットの腕を引いて歩かせた。


「姉上が待っている。見学をするのは後にしてくれ」


「わかっているわよ。それにしても豪華ね、なんだかうちの城が恥ずかしくなってくるわ」


 使用人も多く、侍女や騎士が廊下を右往左往しておりアンリエットはすれ違うたびに頭を下げる。

 ウィリアムは慣れている為に侍女が頭を下げても見向きもしないで歩き続けている。

 しばらく歩き続け、ウィリアムは金色の大きなドアの前で立ち止まった。


「姉上の部屋だ」


 ノックをしようとするウィリアムの手をアンリエットが掴んで止める。

「待って、私重要なことを思い出したわ。お姉さまはなんてお名前なの?指輪のせいで全く勉強してこなかったわ」


 焦るアンリエットにウィリアムは軽く笑いながらお構いなしにノックをした。

 直ぐに侍女がドアを開けてウィリアムとアンリエットの姿を確認すると頭を下げて通してくれる。


 怖気づくアンリエットの腕を引きながらウィリアムは部屋の中へと入って行った。

 アンリエットが与えらえた部屋の3倍はありそうなほど広く、中心に天蓋付のベッドが置かれている。

 ベッドの上には美しい女性がクッションを背に入れて身を起していた。

 アンリエットの姿を見ると優しく微笑んだ。


「ようこそ、アンリエット姫。遠いところ、わざわざお越しいただいてありがとうございます。体調が悪くて、こんな姿でごめんなさいね」


 金色の髪の毛に真っ白に抜けるような白い肌、人並外れた美しい顔をした女性はウィリアムによく似ている。

 アンリエットは笑顔の練習通りにっこりと笑って軽く膝を折った。


「初めましてアンリエット・アルゼインと申します」


 ウィリアムはアンリエットの背を押してベットの横の椅子に座らせた。

 初対面なのに座ってもいいのかとアンリエットは戸惑う。

 ウィリアムもアンリエットの横に座ると、軽く笑った。


「そんなに畏まらないで大丈夫だよ。姉は田舎者なんて馬鹿にしたりしないから。ちなみに姉上はエラノーラでその夫はヘンリーという名前だ忘れるなよ」

 

 どうして本人を前にそんなことを言うのかとアンリエットとがウィリアムを睨みつける。

 ウィリアムとアンリエットのやり取りを見てエラノーラは上品に笑う。


「ウィリアムがこんなに打ち解けているなんて、やっと雨が上がったのにまた大雨が降るわね」


 指輪のせいで大雨が降っているのにとんでもない例えをするものだとアンリエットは口をへの字に曲げた。

 ウィリアムはアンリエットの顔を見て意を決したように口を開く。


「姉上、今回アンリエットを連れてきたのは理由があるんだ。バルメ先生の弟子でもあるから姉上の薬の相談のために連れてきたのもあるが、もっと重大なことがある」


 緊張した様子のウィリアムにアンリエットはそっと中指の指輪を撫でた。


(まだ言っていなかったのね)


 指輪の状況をどこまで話しているか分からずアンリエットはじっとウィリアムを見つめた。


「なにかしら?」


 おっとりとした口調でエラノーラが聞いた。


「姉上が王位を継いであの指輪をしてから体調を崩すことが多かっただろう」


「そうね。だから指輪を外してくれたのでしょう?私は意識も無く寝込んでしまったから、ウィリアムが心配してくれたのよね」


(やっぱり意識が無いほど体調が悪かったのね)


 のほほんと微笑んでいるエラノーラの顔色は悪くない。

 良いとは言えないが、血色がある顔色をしている。


「まだ新婚なのに姉上がこのまま死んでしまったら可哀想だと思ったんだ。王家の指輪を保管していたんだが、……それが盗まれたんだ」


 ウィリアムが言うとさすがのエラノーラの顔色が変わった。


「盗まれた?誰もそんなこと言っていなかったわよ」


「姉上に心配を掛けたくなかったんだ。安心してほしい、指輪は見つかった」


「そう。良かったわ、あの指輪が無いとまた災害が続くから、……でも外は晴れているわね」


 エラノーラは今気が付いたかのように外を見る。

 

「指輪は見つかった。でも、最悪の状態なんだ」


 ウィリアムはそう言うとアンリエットの左手を持ち上げ、中指の包帯を取った。

 包帯を外すと、代々王家に伝わる赤い石が付いた指輪が現れる。

 エラノーラはじっと指輪を見つめてからウィリアムに視線を向けた。


「プロポーズでもしたの?」


「違う!アンリ姫曰く落ちてたそうだ。それを嵌めたら取れなくなった」


「取れなくなった?そんな言い伝えあったかしら?私も母も自由につけたり嵌めたりできたわよね」


 頬に手を当てながらエラノーラは過去を思い出しながら言った。

 ウィリアムは頷く。


「どうやっても取れないので仕方なく城に来てもらった」


「なるほどね。でも、雨が止んでいるし落ち着いているから、アンリ姫は指輪と共にずっとここに居てくれてもいいんじゃないかしら」


 おっとりと言うエラノーラにアンリエットは驚く。


「か、返します。今はどうやっても取れないけれど、大切なものでしょう」


 必死に言うアンリエットをウィリアムは見つめた。


「考えたんだが、俺の婚約者になるのはどうだろうか」


「こ、婚約者ぁ?」


 驚くアンリエットの顔があまりにも間抜けに見えて真剣な顔をしていたウィリアムは噴き出して笑いだした。



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