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寝取られたキミと自分のために生きた俺【累計125万PV感謝】  作者: けーきまる
柚希の戦い

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幼馴染と秘書

柚希の机の上には、分厚いファイルが積み重ねられていた。


(使った調査費用、いったいどれくらいになるんだろう……。)


弁護士として働き始めてから、給料のほとんどを調査会社に投じてきた。悠斗の周りの人間を、片っ端から調べ上げる日々。時には法的な境界線すれすれの調査も行った。


そんな中で、ある人物に着目することになった。笹木玲奈。悠斗の秘書だ。


最初は、単なる秘書の一人として調査対象に入っていた。しかし調べれば調べるほど、玲奈は特別な存在であることがわかってきた。


---


笹木家、その名だけは、柚希も聞いたことがあった。


調査を進めるうちに、その家が代々続く名家であり、財界にも強い影響力を持つ一族であることを知った。


それに加えて、玲奈の父親は外務省の高官。母親も事業を経営しており、その父は笹木家の当主。いわゆる超お嬢様だ。その玲奈が、なぜ秘書として働いているのか。不自然に思えた。


---


調べていくと、玲奈の父親と悠斗には面識があることがわかった。むしろ、かなり親密な関係のようだ。


(玲奈さんの父親、悠斗のことを婿候補として見ていたのかもしれない。)


そう考えると、玲奈が秘書として悠斗の元で働いているのも、不思議ではなかった。


しかし、玲奈は悠斗と結婚しなかった。代わりに、同じ秘書室で働く男性と結婚した。その経緯も興味深かった。


---


玲奈の夫は、同じ秘書室で働く玲奈の部下だった。東応大卒とはいえ、特別な家柄でもなく、ごく普通の一般家庭の出身。


玲奈の父親は、この結婚に猛反対した。


「玲奈には、もっとふさわしい相手がいるはずだ。」


そんな言葉を盾に、何度も説得を試みたらしい。


親戚筋からも、「家柄を考えろ」「もっと条件のいい相手がいる」と口を出され、玲奈は何度も衝突を繰り返していたという。


---


しかしながら、調査によれば、ある人物の口添えによって、父親の態度が急変したという。


悠斗。


彼が説得に動いたことで、玲奈の父親は最後には折れた。「彼がそこまで言うなら……」と、結婚を認めたという話もあった。


玲奈が本当に好きな人と結婚できるよう、悠斗が後押ししたのは間違いない。その経緯もあり、玲奈夫婦は悠斗に強い恩義を感じているようだった。


(実に、悠斗らしい。)


思わず、柚希は笑みを浮かべた。


---


人は変わる。裏切ることもある。


それを、柚希は身をもって知っていた。だからこそ、慎重に人を選ぶ必要があった。しかし、玲奈には「裏切らない理由」が山ほどあった。


実家が裕福で、金銭的な誘惑に強い。夫婦で同じ職場で働く、安定した生活。悠斗へ恩義がある。まっすぐな性格。


そして何より、玲奈には「守るべきもの」があった。夫との幸せな生活。それを壊すようなことは、決してしないだろう。


――この人なら、信用できる。


柚希は、動き出す決意を固めた。


これまでの調査で培った知識と、弁護士としての資格。そして、玲奈という協力者。この三つがあれば、悠斗をサポートできる。


柚希は、深く息を吐いた。


---


(アポを取るべきか……いや、リスクが高すぎる。)


アポイントを取ろうにも、悠斗の会社のオフィスにこちらから訪問する形になってしまうだろう。そうなれば、悠斗と鉢合わせする可能性も出てくる。


(仕方ない。待ち伏せして、直接会うしかないか。)


---


というわけで、柚希はある場所で玲奈が現れるのを待っていた。


玲奈は毎週水曜日、この場所を通る。


柚希は、その情報を何度も確認していた。調査会社から送られてきた行動記録によれば、玲奈は必ずこの時間に、このルートで帰宅する。出社時は不規則でも、帰宅ルートは決まっている。


柚希は、立ち止まって深く息を吐いた。冬の夜気が、その吐息を白く染める。


そして、その時がきた。


颯爽と歩く黒髪の女性。髪はセンター分けのストレート。凛とした立ち姿。間違いなく、笹木玲奈だ。


---


「失礼します。笹木玲奈さんでよろしいでしょうか?」


柚希は、静かに声をかけた。


「はい? 失礼ですが、どちらさまでしょうか?」


「御社の社長について、少しお話がありまして。」


玲奈は丁寧だが、どこか冷ややかな口調で返す。しかし、その視線は柚希を値踏みするようにじっくりと動いた。すると、玲奈はわずかに口角を上げ、静かに言った。


「もしや社長とご関係を? あなたみたいな真面目そうな方にも手を出されたのですか? 困ったものですね。」


呆れたような様子のその言葉に、柚希はわずかに眉をひそめる。


「違います。」


玲奈は小さく溜息をついた。


「……そうですか? でも、社長の周りには、こうして彼に近づく女性が後を絶ちませんからね?」


その声には、疲れが滲んでいた。


---


柚希は、静かに名刺を差し出す。


「失礼しました。わたくし香坂柚希と申します。弁護士をしております。」


少し意外そうな声。そして、もう一度言う。


「御社の社長について、お話があります。」


その言葉に、玲奈の表情が一瞬だけ硬くなる。


「社長に関することなら、私がすべて管理しております。ですが、正当な理由がない限り、お会いさせるわけにはいきません。」


玲奈の声は冷静だったが、その奥には警戒が滲んでいた。


---


(……やっぱり、悠斗の周りにはこういう問題がついて回るんだ。)


柚希は玲奈の態度から、多くのことを読み取った。悠斗の女性関係、それに頭を悩ます秘書。会社への影響を心配する立場。


――素晴らしい。


---


「用があるのは笹木さん、あなたです。社長の件で、お話があるんです。できれば、人目につかない場所で。」


「……弁護士を名乗れば、何でも聞いてもらえると思っているのですか?」


「違います。ただ、これは社長にとっても無視できない内容だと思っています。」


柚希は真っ直ぐに玲奈を見つめ、もう一度名刺を押し出した。玲奈は名刺をじっと見つめると、溜息をつきながら小さく肩をすくめる。


「……三十分だけです。」


そう言うと、玲奈は柚希を案内し始めた。


---


カフェの片隅。


「信頼してもらうために、まず自分についてすべてお話しします。」


柚希は、ゆっくりと口を開いた。


「香坂柚希と申します。社長の幼馴染であり、過去に彼とお付き合いしていました。そして……彼を裏切った人間です。今は弁護士をしております。」


玲奈は、静かにコーヒーカップを置くと、意外そうな視線を向けてきた。


「なるほど? あなたが?」


どこか探るような、少し興味を引かれたような声だった。


「ええ。」


柚希は淡々と頷く。


「思うところが有りまして、今でも彼の動向を見守っています。調査会社を使って、彼の周りの人間を調べています。」


玲奈の眉がわずかに動く。


「まるでストーカーですね? いいえ、ストーカーそのものですよ?」


「ええ、おっしゃる通り。ですが――」


柚希は、鞄から一枚の写真を取り出した。


「この女性をご存知ですか?」


写真を見た玲奈の表情が、一瞬だけ強張った。最近、悠斗の周りでよく見かける女性だ。玲奈は写真から視線を上げ、柚希をじっと見つめる。


「……その人が、何か?」


警戒を滲ませながら問い返した。柚希は目を逸らさず、静かに答えた。


「彼女には、反社会的勢力とつながりがある可能性があります。」


「……証拠は?」


柚希は分厚いファイルを取り出した。


「こちらが調査の結果です。ただ、確実に黒と断定はできません。しかし、不審な点がいくつもあるのは事実です。」


玲奈は無言でファイルを受け取り、慎重にページをめくっていく。目を走らせるごとに、その表情は次第に険しくなった。


「……なるほど。確かに、これは警戒すべき案件ですね。」


初めて、真剣な表情を見せた。


「でも、こんな調査、普通できませんよ? 相当なお金がかかってるはずです。」


「私は弁護士です。給料のほとんどを、こういった調査に使っています。」


「なぜ? こんなストーカー行為をしてるんですか? 弁護士ともあろうものが全財産を使って。復縁でも狙ってるのですか?」


玲奈は、驚いたように言った。柚希は横に首を振って否定した。


「復縁なんてありえません。強いて言えば。幼馴染である悠斗への贖罪。いえ違いますね。自分のためです。悠斗の役に立っているという実感がないと、自分に対する気持ち悪さが抑えきれなくなるんです。一種の強迫観念だと思います。病的であることは自覚しています。」


「そうですか……。でも、なぜ今ごろ? なぜ私に接触を?」


「私一人の力では、限界がありまして。悠斗の身近にいて、彼の味方で、彼を一緒に守ってくれる人が必要なんです。」


「……。」


玲奈は、しばらく黙り込んでいた。


「……わかりました。少し考えさせてください。ただし、もし私があなたに協力するとなっても、社長には会わないこと。それが条件です。絶対にこれだけは守ってくださいね。」


「もちろんです。そのつもりでした。」


「本当に?」


「はい。私には、悠斗に会う資格はありません。」


玲奈は、じっとこちらを見つめてくる。


「こちらから連絡しますね。連絡するまで、一切の接触は控えてもらいますよ?」


「ありがとうございます。」


柚希は、深々と頭を下げた。柚希は続けた。


「笹木さん、最後に一つ、お願いしてもよろしいでしょうか?」


「はい?」


「私の存在は、悠斗には秘密にしていただけないでしょうか? まわりをチョロチョロしている事が分かったら、彼も落ち着かないと思うんです。」


「……約束しますよ。」


そうして、最初の接触は終わった。


柚希にはわかっていた。これは始まりに過ぎない。玲奈の信頼を得るには、まだまだ時間がかかるだろう。


しかしながら、最初の接触としては悪くなかった。こちらの事情は伝えられた。聞いてもらえただけでも上々だ。


だが、その翌日。


危機は、思っていたよりもずっと早く、目の前に迫っていたことに気づくのだった。






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