幼馴染との約束
「ねえ、いつか結婚しようね!」
公園のブランコに座りながら柚希がそう言った。夕焼けが背中を染める中、彼女の声はどこまでも無邪気で、まっすぐだった。
「うん! 約束する!」
悠斗も何の迷いもなく、そう返した。幼いながらに、この約束がとても大切なものに思えた。彼は柚希の小さな手をぎゅっと握り、指切りをした。
「嘘ついたら……指、切っちゃうからね!」
柚希はそう言って、いたずらっぽく笑った。
「こわっ!」
悠斗は思わず笑ってしまったが、彼女はふくれっ面をしながら、真剣な目で彼を見つめていた。
「だって、約束は守らなきゃだめだよ!」
「わかったわかった、絶対に守るよ。」
それでようやく満足したのか、柚希は笑顔を取り戻し、またブランコを漕ぎ始めた。その笑顔を見ているだけで、悠斗はなんだか嬉しくなった。
あの頃の二人は、いつも一緒だった。家が近所だったこともあり、保育園から小学校まで、朝も帰りも、遊ぶときも、何をするにも二人だった。
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「ねえ、これ見て!」
柚希は自分のお気に入りの本やシールを見せながら、楽しそうに話す。そのたびに、悠斗は「へえ、すごいな!」と相槌を打つのが日常だった。
「今日のお弁当、お母さんが私の好きな卵焼き入れてくれたんだ!」
「いいな! 俺も食べたい!」
「じゃあ、一個あげる!」
彼女が差し出した卵焼きを頬張ると、ほんのり甘くて美味しかった。二人は当たり前のようにお互いのものを分け合いながら、ずっと笑っていた。
そんな日々がずっと続くと、本気で思っていた。
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しかし、少しずつ周りが二人を変えていった。
中学生になると、クラスメイトからこんなことを言われるようになった。
「お前ら、付き合ってるの?」
「いや、幼馴染だから!」
「そうそう! ただの幼馴染!」
その言葉に、二人は必死に首を振った。けれど、それをきっかけに、悠斗は柚希を意識するようになった。気づけば、彼女といる時間が今まで以上に特別に感じられるようになっていた。
柚希はどう思っているのだろう?
そんなことを考えながらも、二人はこれまで通りの関係を続けていた。
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中学三年の冬。受験勉強の合間に、久しぶりに二人で公園に行った。
「ねえ、覚えてる? 昔ここで結婚の約束したよね。」
柚希が小さく笑いながら言った。
「ああ、覚えてるよ。」
悠斗も笑う。
「……あの時、本気だった?」
「……うん。」
柚希は遠くを見つめながら、小さく頷いた。悠斗の胸が、ドクンと高鳴る。
「……じゃあ、もし俺たち、同じ高校に行けたら、もう一度ちゃんと約束しようか。」
言ってしまってから、自分の言葉に驚いた。でも、柚希は少し驚いた顔をしたあと、嬉しそうに微笑んだ。
「うん!」
冷たい空気の中、二人は静かに手を重ねた。
それが、新しい約束だった。
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高校の合格発表の日。
「やったー! 受かった!」
柚希が悠斗の腕に飛びついた。悠斗も嬉しくてたまらなかった。
「これでまた一緒にいられるな!」
二人はガッツポーズをしながら笑い合った。あの時、公園で交わした約束は、今も二人の中で生き続けていた。
「ねえ……高校生になったらさ……本当に、もう一回あの約束しようよ。」
「……うん。俺も、そのつもりだった。」
柚希が安心したように微笑んだ。こうして、二人はまた一緒の未来へ進んでいく。
約束は絶対に守る、悠斗は心の中で強く誓った。
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