1/34
第0話
俺は、祈るような気持ちで、仲良さそうに歩く二人の後を追っていた。
そして、見てしまった。
――柚希が、他の男とホテルへと入るところを。
一瞬、時間が止まった。俺の知っている柚希じゃない。信じたかった。ずっと信じていたかった。
だけど、目の前の光景が全てを否定する。胸の奥に冷たい刃が突き刺さるような感覚。息ができない。足元が崩れていく。
(……終わったんだな。)
何かを叫ぶ気力も、問い詰める気力もなかった。ただ、絶望だけがそこにあった。
——けれど。
このまま沈むなんて、冗談じゃない。
「……いや、このままじゃ終われない。」
誰に向けたのか、自分でも分からない。だけど、その瞬間、俺の中で何かが弾けた。
もう、信じるものなんてないのなら——
俺は俺自身のために生きる。裏切られたなら、這い上がってやる。絶望の底から、自分の力で。
俺は静かに、夜の街へと歩き出した。すべてを塗り替えるために。
読んでくださって感謝です!
面白かったら、★を押してもらえると嬉しいです。