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転生したゲーム世界で脇役キャラなのにヒロインに好かれた俺は、なぜか現実世界でもモテまくる  作者: 波瀾 紡


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【第49話:修羅場がやって来る】

「レナちゃん大丈夫っ!?」


 ハルルがこちらを心配して、駆け寄ろうとした。

 しかし吹っ飛ばされた魔物が、その場でむくりと起き上がる。

 四つ足でしっかりと立った後、身体が問題なく動くことを確かめるように首をぐるぐると回した。


 残念ながら倒すことはできなかったようだ。


「ああーっ、んもうっ! 寝てればいいのに!」


 ハルルはモンスターの方を向いて身構えた。

 そして再び落雷の魔法を繰り出す。


 ミドルウルフに見事に命中したが、少しふらついただけで今度は倒れない。

 さっきは不意を突いて横っ腹に魔法を当てたおかげで、ヤツを吹っ飛ばすことができた。

 だけど身構えたミドルウルフを倒すには、ハルルの魔法だけでは力不足ってことか。


 どうしたらいいんだ。

 俺も一緒になって魔法を使えば倒せるのか。どうだろうか。


 だけど蒼白な顔で倒れているレナも心配だ。


「ツアイト君。私のことは放っておいていいですから、ハルルちゃんのところに応援に行ってあげてください」

「レナを放っておくなんてできないよ」

「でもツアイト君。あなたはハルルのことが大好きなんでしょ?」


 確かにさっきハルルに『大好きだ』と言った。その気持ちに偽りはない。

 だけど今俺の腕の中で、肩で息をして苦しそうなレナを放ってなんかおけない。


 それにしてもレナッて、どこまで他人想いなのか。

 レナにとってハルルは恋敵のはずだ。

 なのにさっきからずっと、ハルルのことを優先してばかり。


 自分の気持ちも、身体の危険もすべて自分のことはさておいてばかりだ。

 腕の中のレナがとても美しく、そしてとても愛おしく思えた。


「レナ……キミのことが大好きだ」


 レナへの想いが胸いっぱいになり、思わず感情があふれ出た。

 冷静に考えたら、二人の女の子に同時に大好きだと告白するなんて、ゲスな男の所業でしかないのだろう。

 きっとレナにも酷い男だと嫌われてしまうに違いない。


 だけど今の俺には、そんな理屈や冷静な判断で考える余裕なんてなかった。


「ツアイト君……私も大好きです。嬉しい」


 レナは俺を嫌うどころか、頬を赤らめて目を細めた。

 そして体中がぼわっと光った。


「あ……力が戻ってきます」


 レナは目を見開いた。そして紙のように蒼白だった顔に血の気が戻る。

 身体中に力がみなぎる様子で、すっくと立ち上がった。


「きゃあっっ!」


 ミドルウルフがハルルに向かって反撃を始めた。

 凄い勢いで走って来る。しかし突然のことに驚いたハルルが硬直している。


「逃げろハルル! 逃げてくれ!!」


 俺の声に反応して、ハルルは地面を強く蹴って、側方へ飛び跳ねた。

 ほんの今までハルルが立っていたところをすごい勢いで狼の魔物が通り過ぎる。


 間一髪助かった。


「ハルルちゃん!」

「レナちゃん!!」


 レナがハルルの方に向かって走る。

 ハルルもレナに駆け寄る。


 二人は近寄るとすぐにお互いに手を握り合った。

 そして美少女同士見つめ合う。なんだかとても尊い。


「レナちゃん、回復してよかった」

「ツアイト君のおかげです」

「うん」


 少し離れた場所で止まったミドルウルフが振り返る。

 そして悔し気な顔でレナとハルルを睨み、ガルルルルと牙を剥いて威嚇した。


「じゃあ、やりましょうか」

「だね」


 二人は並んで、両手を魔物に向けて身構えた。

 美女二人の殺気が伝わったのだろうか。

 狼の魔物は毛を逆立てて敵意を露わにした。


 そして地面を激しく蹴って、二人に向かって飛びかかる。


「●×Ψ◎! 覚悟しなさいよ、業火の魔法!」

「▼※◆#! 喰らえっ、落雷の魔法っ!」


 ほぼ同時にレナとハルルが手から攻撃魔法を放った。

 耳をつんざくような激音がした。

 ダンジョンでAランクモンスターを跡形もなく消し去った時と同じ魔力の勢い。


 二人の魔法は魔物に直撃した。一瞬でミドルウルフは蒸発し、後には白い湯気のような気体が立ち上る。


「やっぱすごい……」


 思わずつぶやきが口から漏れた。

 ラブ・エナジー効果って、ここまですごいとは。


「ツアイト君!」

「ユーマ君!」


 二人の女子が同時に俺に目を向け名前を呼んだ。

 そして二人は何か会話を交わしながら、すごい勢いで駆け寄よって来る。


 ──ちょっと待って。


 魔物に襲われた危機感でそこまで深く意識していなかったけど、俺はレナとハルルにとても酷いことをした。


 ほんの短い間に、二人両方に大好きだと告ってしまうなんて。浮気性でゲスな男のやることだ。


 ヤバい。ヤバすぎる。

 これから俺は、駆け寄って来るあの二人の美女に、ボッコボコに殴られるに違いない。


 だけどこれは俺が生み出した修羅場だ。俺が悪いんだ。


 仕方ない。二人の裁きに身を任せるしかない。

 どんな裁きを受けようとも、俺は甘んじて受け入れよう。


 そう覚悟を決めて、俺は目を閉じた。

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