【第43話:美女二人はもっと俺と遊びたいらしい】
ケーキを食べ、ひとしきり雑談をしてから店を出た。
「さあユーマ君、これからどこ行くっ?」
「え? 今日の目的であるケーキを食べたんだから、あとは帰るんじゃないのか?」
「いやいやいや、それはないでしょユーマ君! せっかくお出かけしたんだから、もっと遊んで帰ろうよ」
「えぇぇ……帰ろうよ」
普通なら美少女二人と遊びに出るなんて、垂涎の的だろう。
だけどレナとハルルに挟まれて、一触即発のこんな状況。まったく気が休まらない。
早く解放されたい。
「やだやだやだっ! ユーマ君と遊びたいっ!」
首をふるふると振るハルル。
駄々っ子かよ。いい年してみっともない。
……と言いたいところだけど。
アイドルみたいな美少女が地団駄を踏む姿は、想像以上に可愛かった。
無意識のうちに、ニヘラと頬が緩んでいたかもしれない。
ふと視線を感じて横を見ると、レナが悔しそうな顔で俺とハルルを睨んでいた。
目が合った。ヤバい。怒られる!?
そう思った瞬間。クール美女のレナがまったく思いもよらない行動に出た。
「や……やだやだやだよ。ゆ、ユーマくんと一緒に遊びたいっ」
両手のこぶしをぶんぶん振って、ほっぺをぷっくり膨らませたクール美女が駄々をこねた。
「へ……?」
いつも敬語で生真面目で、大人っぽい美女のレナが突然見せた甘えん坊な姿。慣れない振る舞いに、ぎごちなくもある。
あまりに衝撃的で思考がストップした。
だけど俺の本能が理屈抜きに叫んだ。
──か、可愛いっっっ!!
「レ……レナちゃん……」
横ではハルルがあんぐり口を開けている。
彼女も衝撃を受けたようで、可愛い子ぶることすら忘れたようだ。
「じゃ、じゃあ……せっかくだからどこか行こうか」
「やった!」
今度は可愛くガッツポーズ。
クールで厳しいはずのキャラは、もうどこに行ってしまったのか。
「そ、それじゃあ、どこに行く?」
「どこでもいいですよ」
どこでもいいと言われても、女子と遊びに行く先なんて吾輩の辞書にはない。
現実世界ならスマホで検索したらそれなりの行き先を見つけられるのだろうが、残念ながらこの世界にはスマホなんて便利なものはない。
「レナが行きたいところでいいよ。どこかない?」
「じゃあ、お買い物に付き合ってもらえますか?」
「なにか買いたい物があるの?」
「はい。ハムスターを」
「ハムスター……って、ネズミの?」
「はい。ペットショップに行きたいので付き合っていただけますか?」
いやなんでペットショップ? 意外過ぎるよね。
とは思ったけど。
よくよく考えたら、可愛い動物を見に行くのってなかなか面白い気がしてきた。
「あ、ああ。いいよ」
「ありがとうございます。嬉しいです」
嬉しそうなレナの横では、どこかしら不満げなハルルが頬を膨らませている。
レナ主導で行き先を決めたのがご不満なのかもしれない。
それとも俺がレナの可愛さにデレてることが原因かも。
つまり、いずれにしても俺の板挟み状態は、まだしばらく続くということだ。とほほ。
***
少し歩いて、ペットショップにやって来た。
店に入ると一直線に小動物コーナーに向かうレナ。それを追いかける俺。
少し遅れてハルルがついて来る。
たくさん並ぶケージ。中には様々な種類のハムスターがいる。
この世界には、現実世界と同じようなハムスターがいるんだな。
──なんて、妙なところに感心した。
ずんぐり太った茶色いヤツ。
小柄で真っ白なヤツ。
色んなヤツがいるな。
「うわぁ、可愛いですね」
レナの目がキラキラと輝いている。
少し切れ長でいつもはきりっとした目が、今は目尻が下がってとても優しい顔つきになっている。
キリっとカッコいいレナもいいけど、こういう優しい顔もいいな。
「ホントだね! うん、可愛いぃっ!」
どちらかと言えば嫌々ついてきたような雰囲気だったハルルまで、可愛い小動物を目にした瞬間可愛い声を上げた。
「でしょでしょっ! 子供の頃、我が家ではハムスターを買っていたのです。その後は長い間飼っていなかったけど、一度自分で飼ってみたいと前から考えていました。そしてついに、この前ようやく母の許しが出たのです。だから今日はハムスターを買うつもりなのです」
目を細めて嬉しそうに語るレナ。
ホントに楽しみにしていたんだな。
「へっ、いいなぁ。あたしも飼おうかなっ」
「ええ。ぜひハルルちゃんも飼いましょうよ」
さすが小動物の癒し力は凄まじい。
さっきまでちょっと険悪な雰囲気だった二人が、今まで通りの、仲の良い状態に戻っている。
「えっと……この子とこの子、どっちがいいかな。迷います。ねえ、ユーマ君はどっちがいいと思いますか?」
レナが指差すケージの中には、真っ白で小さなヤツと、茶色のブチでひと回り大きな奴がいた。
「俺は……白い方が好みかな」
「じゃあ白い方を買います」
「あいや、レナが好きな方を買ったらいいんじゃないかな」
「いえ。ユーマ君が好きな方が、私も好きなのです」
「あ、そうなんだ」
「すみません。この子ください」
「かしこまりました」
店員さんがレナの指定したハムスターをケージから出して、持ち帰る準備をしている。
家で飼うためのケージとか、道具は自宅にあるらしく、餌だけ一緒に買うとレナは言った。
「いいなぁ、いいなぁ」
「ハルルちゃんも買いますか?」
「いや、ママに相談してからじゃないと、勝手には買えないよ」
「そうですか。ママがオーケーしてくれるといいですね」
「うん」
持ち帰り用の容器に入れられたハムスターを受け取って、レナはそれを大切そうに胸に抱えた。
美女が見せるその姿は、まるで慈愛に満ちた女神様のようだ。
そんなレナを見るハルルの目も優しい。
やはり小動物の癒しパワーのおかげで、二人の対抗心が収まっている。
よし、今の凪状態のうちに帰ろう。
そうすれば二人の諍いを避けることができる。
「じゃ、そろそろ帰るか」
「いえ。少しグッズコーナーを見て行きましょう」
へ? グッズコーナー?
このペットショップにはペット用品以外にも、ペット動物をモチーフにしたグッズを販売しているらしい。
ああ……せっかくこれで今日の板挟み状態から解放されると思ったのに。
この居心地の悪い状況は、どうやらもう少し続くようです。とほほ。




