陰陽師と仕えるタヌキ
初めて暴走者を封じ込めてから早いもので2ヶ月が経とうとしていた。
世間ではクリスマスを祝うためにクリスマスツリーやイルミネーションが街中に溢れている。
学校も冬休みに入り、白虎隊幼少隊も今日で訓練納めである。
「今年も色々あったけど、終わってみるとあっという間なんだよな。」
陸斗が稽古後に片付けをしながら独り言のように話している。
いつもならすぐに反応するケイジは、『爺ちゃんの家に行って年越し』らしくいないため静かだった。晴明は肯定の頷きで返す。
「晴明なんか色々ありすぎて大変な一年だったんじゃないか?」
終わってみればではあるが、そもそも覚醒者に認定され、転校までしている。初陣で死にかけたが、自分の力について知ることもできた。トータルすればいい経験ができたし、満足のできる一年だったと思われる。
「確かに色々ありすぎて実感ないなあ…。一年前に今の状況を予測なんか絶対にできないよ。」
来年の今頃は何をしているんだろうか?今のように陸斗と一緒に稽古納めをしながら一年を振り返っているのかもしれない。
そんな何気ない話をしていると、ひょっこり可愛らしい顔がのぞいてきた。
「あれ?今日はここ2人だけなの?」
友世が道着のままトコトコと近づいてくる。相変わらず晴明はドキドキして緊張してしまうが、バンドの命名者になってから案外話す機会は増えたのだ。
「ケイジを含めて里帰り班が多いからな!そういう友世は何処か行くところとかないのかよ?」
晴明が友世に対してあんまり話さないのはいつものことなので、陸斗が代わりに質問してくれる。実際、晴明の態度は非常に分かりやすいと思うのだが、イロコイに無頓着な友世には気づかれていないらしい。誰にも気づかれていないと思っている晴明と、友世本人以外は晴明の気持ちに全員が気づいているという奇妙な状態が続いている。
「わたしは年末年始もやることがあるから出かけられないんだよね。家族旅行とか行きたいとは思うけど、色々問題もあるから気軽に行けないんだよ。パパとママには好きに行ってきていいよ!って言ってるんだけど、せめて中学生になったら考えるって言って、おじいちゃん達がこっちに来るようになったんだよね。」
覚醒レベルが強いと外出規制でもあるんだろうか?それとも本隊に所属すると見廻などの当番が忙しいのだろうか?気にはなっても結局晴明は自分では聞けないのだ。
「そうそう、話は変わるんだけど、実はこれから年納めの食事会を兼ねて本隊舎の方で宴会するんだけど来ない?」
その一言で、陸斗には晴明が尻尾をブンブン振っているのが見えた気がした。
陸斗は微笑ましく晴明を見てノートに書き留めていく。陸斗のノートは女子のデータだけではなく、男子のデータ用もあるのだ。女子用のノートについては女子に、男子用のノートについては男子に内緒である。知られたら怖いことになるだろう。
晴明はどうせ友世に話しかける勇気はないのだが、同じ空間にいるというだけで喜んでいるわけだ。少し友人のサポートでもしてやるか、っと陸斗は友世と晴明についていくのだった。
そんな陸斗のサポートもあり、晴明は最高の年末を過ごすのだった。
年も明け、初詣から帰ってきてすぐに机に向かって内職を始める。
最近晴明は護符(お札)を作っている時間が非常に長くなっている。
昨年の暴走者の一件で自身の能力について心当たりがあり、研究者とともに様々な検証実験を行った。その結果、護符を使った符術が使える。つまりは陰陽術が使えることがわかったのだが、これは非常に面倒くさい。当たり前ではあるが、市販で量産されたコピー品の護符では全く術が発動されず、さらに言えば自身で手作りした護符の方が力の通りが良く、術が発動しやすい事に気が付いた。つまり面倒でも自分で作る必要に迫られているわけでる。陰陽術自体が呪術なため、下手なことはしたくないしできないので、慎重に行っている。
(陰陽術って事は管術も使えるはずなんだよなあ…。)
陰陽術は符術の他にも管を使役して使いこなす事もできる。
しかし現代では使役する妖の類がいないため、使う機会がない。
「出よ!我が僕!!とかって言えば出てきてくれたりするんだろうなあ。」
はーっとため息をついた時だった。
目の前に五芒星が現れ、その中心から一匹の獣が飛び出してきた。
「主人様〜。会いとうございました。」
(な!?なんだこの毛むくじゃらの生き物は?喋るタヌキ!?急に現れたんだけど??)
あまりに急な出来事にパニックになりそうな状態だったが、敵ではなさそうな反応をしてくる上に愛くるしい見た目に少し癒されて平常心に戻ってくることができた。
「主人様が力を取り戻したのが分かったのですが、いつまでも呼んでくださらないので不安になっておりました。本当にお久しゅうございます。」
饒舌に喋るタヌキだ。
しかし晴明には初対面でしかない。申し訳なさそうに話しかける。
「…ごめんね。主人と呼んでくれるのは嬉しいんだけど、キミのことは記憶にないんだよね。」
晴明の言葉にショックを受け、青くなって…いそうに感じるが、タヌキなので正直よくわからない。
「…やはり記憶までは引き継げませんでしたか。転生するときに魂と能力の移動に全てを振ったのが原因でしょうか…。」
(チョットマテ?このタヌキはサラッととんでもないことを言ったんじゃないだろうか?)
転生!?この場合は輪廻転生の話だろうか。つまり前世で陰陽師をやっていて、転生後も能力等を引き継げるようにしていたということか?だとすればとんでもないことである。
(もしかして強くてニューゲーム的なアレですか?)
ちょっとウキウキしてくる。
自分の前世について聞こうとしたときに、タヌキはハッと何かに気が付きこちらに身体を向けて頭を下げて話し始めた。
「そうであるなら初めましてでございます。わたしは御身に使える管として、1000年の月日を待ち望んでいた者でございます。名前も前世で主人様に付けていただいた怪狸をそのまま名乗っております。」
怪狸とは確か化けタヌキの妖怪の名称だったはず。
でも管ってタヌキじゃなくてキツネじゃね?とかツッコミを入れたくなったが、すかさず怪狸が話し始める。
「そこは普通キツネだろ!とかツッコミは受け付けませんよ!主人様はいつもすぐにわたしをおちょくりにくるんですから。」
どうやらこの性格は前世からなのだろう。っと言っても正直、自分に前世がどうという話が未だに信じられてないのだが。
困惑している様子をみて、怪狸がシュルシュルと小さくなり手乗りサイズになった。さすがは妖怪に数えられるだけはある。
「わたしは前世の主人様に、記憶が引き継げなかったときのために記憶を紡ぐ役目を担っております。きっと驚かれていて、まだ信じられていないことでしょうが、わたしの話を聞いていただけませんでしょうか?)
深く伏せのような姿勢で頭を下げる怪狸をみて、その忠誠心に感服しながら晴明も優しく頭を撫でて答えるのだった。
「こちらこそお願いするよ。」っと。