身バレ
国会議事堂周辺はひどい状態となっていた。晴明が張った結界がなければ議事堂自体すでに無くなっていたことだろう。
「一番隊隊長はまだ着かないのか!!まさか見捨てて逃げたんじゃないだろうな!?」
羽田からの距離や周辺の状況、さらには移動手段を考えれば1日掛かりで到着してもおかしくはない。それなのにも関わらず中には文句を言い続けている者も少なからずいる。ちなみに日江島の館内放送からはまだ3時間しか経っていない。どちらにせよ、現在の時刻が夕方6時を回っている事を考えれば夜が明けてからの移動になる。つまり焦る必要など本来はどこにも無いのだ。
「日江島。ここに来てくれるのは2人だけなのだろう?足腰が弱っている人や歩き疲れた高齢な者達はどうするつもりなんだ?」
「明日の物資搬入で車椅子をかなりの数搬入するように指示しているよ。ヘリからの投下なので時間は掛かるが、今のところは300台は来るはずだから交換で乗れば何とかなるだろう。」
「だが道も悪い上に車椅子を押す人も必要だろう。上手くいくのかね?」
「心配するのも無理はないが、蒼井少年はかなりの数の怪異を使役していると聞いている。彼の力を借りれば問題なく脱出できると日野が言っていたよ。」
優雅に茶を啜りながら落ち着いている日江島をみていれば、不思議と焦りなどどこかへと行ってしまう。総理からすれば、本当に頼りになる男であった。
だが総理は1つだけ聞いておかなければならないことがあった。
「…日野と言う男は本当に信用に値する人物なのか?正直言って、彼は何を考えているのか読めないところがある。おまえを疑うことはないが、その背後にいる日野が信用できるのかが判断できないんだよ。」
その話を聞いた日江島は目を丸くした後に大きく笑いだしたのだ。
「悪い悪い。いやいやさすがは一国の元首様だ。素晴らしい観察眼だよ。確かに日野は何か別のたくらみがあるようだが、だからと言ってこの国を悪くしようとは考えていないよ。それにしっかりと手綱は握ってあるから安心しても良い。……今は、な。」
そして続けてこう言い放ったのである。
「もし私が事故などで不慮の死を遂げた場合は日野を疑い、一番隊の沖田に相談しろ。彼女なら直ぐに情報をかき集めて真実に辿り着くだろう。」
そう言いながらもう一度お茶を啜る。
話を聞き終わった総理が立ち上がり、窓から外の状況を確認する。
「……死ぬなよ。これは俺からの唯一の命令だ。」
そう寂しそうに伝えるのが精一杯であった。
結局晴明一行が永田町に着いたのは7時を過ぎたあたりで、夏でも日が落ち始めている時間であった。
入口には申し訳程度のバリケードが設置されており、屈強な男たちが鉄の棒などを手に持って構えている。そして近づいてきた晴明たちに気がついて声を掛けてきた。
「避難者か?ここも安全とは言えないが外よりはマシだろう。よく無事でたどり着いたな!」
完全に誤解した門兵たちに案内されてすんなりと中に入ることができた。
(…もし人型のモンスターとかいたらどうするつもりなんだ?)
と思ったが、そこはあえて面倒なので指摘しないでおく。
「すみません。日江島総隊長に沖田がきたと伝えてもらいたいのですが。」
友世が階段口にいた若い議員に声を掛けると、近くのソファーで偉そうにふんぞり返っている男が手で『シッシッ』と何処かへ行けと言わんばかりに対応してくる。わざわざ助けに来た人物に対して随分な対応だが、それを無視するように友世は再度若手議員に伝言をお願いする。
「沖田がきたと日江島さんにお伝え願えませんか?」
階段口で立っている若手議員は急いで取り次ごうとするも、偉そうな男が語気強めに静止させる。
「今お二人は忙しい。わざわざ子供のわがままを言うために呼び出すことなどできるわけないだろ!!」
すでに先触れはだしている。通してくれないはずがない。間違いなく目の前の若手議員もこちらの素性に気が付いている様子である。いくら隊服を着ていない状態だとしても、刀を持っているところをちゃんと見ればわかるはずなのである。だが友世がどんなに訴えても全く聞く耳を持とうとはしない。そのせいで目の前の若い議員は板挟みになり動けないでいるのだ。すると友世は早くしろと言わんばかりに。
「早くしないとあなたの評価がどんどんと下がりますよ?」
と言い放ったのである。
友世はにこやかな顔をしているが、先ほどからの対応にご立腹な様子が言葉から伝わってくる。
しかし言われた方も黙ってはいない。当たり前だが、60歳くらいの偉そうにふんぞり帰っていた男に対して小学生くらいの小娘が煽ったのだ。ゆでだこのように顔を赤らめて晴明たちを連れてきた門兵に対して怒鳴りつけ始めたのだ。
「誰だこの礼儀のなっていない小娘を連れてきたのは!コイツは俺が誰かもわからずに命令してくるぞ?こんなクソガキどもなんてモンスターのいる外にでも放り出して来い!!」
っと、言うに事欠いてとんでも無いことを言い放ったのだ。
周囲はその対応は流石に目に余ると注意してくれたのだが、頭に血が昇っているようでさらに暴言を吐いている。
「お前らも俺が誰かわからないのか?俺はお前らとは命の重みが違うんだ。そんな知識もないような奴らなら、脱出する時は俺を囲うようにして肉壁を作り守らせてやろうか?もちろん生き残った時にはたんまり報酬を渡してやるぞ?」
もはやどちらが大人か分からない。周囲が呆れ果てたそのときである。
「……一体何の騒ぎだ!?」
口論を聞きつけた総理と日江島がやってきたのである。その途端、今まで凄んでいた目の前の男は急にへこへこと媚びへつらい始めたのだ。
「これはこれは池田総理。この者が副総理に取り次げと言いましたので軽くあしらっていたところでございます。」
周囲はあまりの豹変ぶりにため息をしながら呆れている。
後ろからやり取りを見守っていた晴明も、ここで発言しては拗れるために黙っているほかない。
(仮にも上司が罵られているんだが…静観するしかないよ…ね?)
一応手が出たときには友世を守るようにはちゃんと立っていたのだが、先に日江島総隊長が出てきてくれて助かった。さすがに友世に攻撃をしようものなら制圧する他ないからである。
偉そうな男に対して総理は尋ねる。
「…えっと、キミは…?」
「はい、緊急事態ということで特別招集に応じて佐賀から来ました君島です。日江島副総理のお手を煩わせるわけにはいきませんと考えてここで見張っておりましたところ、この子供らが無礼な物言いで来ましたもので少しばかり説教をしていたところです。」
「なるほど君島くんか。覚えておこう。」
その一言で君島はニヤリとした表情になる。まったくゲスい男である。
「それで?私がこの2人が到着したら呼ぶようにお願いしていた議員に対して一体何を勝手に命令しているのかな?それに私の大事な客に対して勝手にあしらい説教までしたと?」
総理のその一言で、今まで偉そうにしていた男は顔から大粒の汗を吹き出しながら友世を見たのである。そしてやっと気がついたのだ、手に握られている刀に。
「いや、…その、お邪魔になる者を排除しようと考えて、ですね…。」
「この場で1番の邪魔者はキミのようだ。一分一秒を争う事態の中、邪魔した上に騒ぎを起こしたのだ。どう言うことか分かっているね?君島くん。」
そのやり取りを見ていた周囲からは拍手が巻き起こり、そこには先ほどまで偉そうにしていた男の見る影もない状態になった男が項垂れているだけだった。
怪狸が持ってきてくれた白虎隊の隊服に着替えて刀を脇にさす。着替える時間もなくここまできたので、刀を持たなくていい状態にありがたみを感じる。
「お待たせ!じゃあ避難ルートもそろそろ分かるはずだし、打ち合わせに行こうか。」
そう言って隣の個室から出てきた友世の隊服を見て、改めて白虎隊一番隊隊長だった事を実感する。今まで見ることがなかった一番隊隊長の陣羽織を着た友世が目の前にいるのだ。長い髪はポニーテールでしっかりと縛られており、先ほどまで握っていた刀は左にさしてある。なにより陣羽織の背には一番隊隊長の証が付いていた。
「その陣羽織を、まさかこの状況で見ることになるとはな……。」
つい考え深くなって口に出てしまった。
「わたしだって隠したくて黙っていたわけじゃないんだって。夜も見回りとかするじゃん?なんかあった場合は必ず隊長に報告が来て対応するのよ。……ほら、ね?今未成年をそんな時間まで働かせるとか、絶対やっちゃダメじゃん?だから色々と面倒だから上からの指示で黙っていたってわけ。」
一応国の公的機関のはずなんだが、そんな理由で黙っていたのかと思うと心配になってくる。
(ブラックだなぁ…子ども働かせられないからって役職を伏せるとか…。)
それも多分友世がOKを出しているからなのだろうが、止めない辺りが黒い。
「避難経路は三浦さんが調査してくれていたんだろ?今までのことも、友世が隊長だと思えばしっくりくるよ。」
あはは、と笑いながらも困ったような顔をしている。
「なんか上手くやれてたと思っていたのはわたしだけみたいだね。そんなに不審に思われていたなんて思わなかったよ。」
「いやいや、別に不審には思ってないよ?たださ、アメリカ遠征中も三浦さんに指示してるような場面があったり、剣術大会でもディフェンディングチャンピオンってだけではちょっと説明できないような場面もあったから気になってただけだよ。さっき言われて驚いたのは間違いないからさ!」
実際に隊長の存在は恐山の一件から、チラチラと見え隠れしていたようにも思う。そういう不測の事態が起こらなければ、誰も気が付かなかっただろう。そう考えれば上手くやれていたわけである。
「今回のことで流石にバレちゃうだろうけど、何か他にちゃんとした言い訳を用意しておけば大丈夫でしょう!…間違えても労働基準局に喧嘩を売らないような言い訳にしてくれよ。」
「それはわかってるよ!比翼連理の活動でイヤってほど意識してるもんね!」
動画収録等はオンラインで行なったりするため、実は深夜帯に撮影することもあり、その場合は『時間』に関するワードは御法度にしている。もし間違えてそんな事を言おうものならチャンネルのVANに繋がるためだ。
「早く片付けて比翼連理に合流しないとわたし忘れられちゃうよ!だからちゃんとフォローしてよね?」
友世が茶目っ気たっぷりに言っているが、この騒動が終われば間違いなく時の人になるはずである。多分比翼連理も注目度がさらに上がることになるだろう。果たして今まで通りの生活ができるのだろうか。今までマネージメントをやっていた側としてはその辺りも心配なのであった。
「……まっ、なんとかなるか…。」
とりあえず今はここにいる約500人を2人だけで移動させる事に全力で挑むしかないのであった。
日江島と若手議員のやり取り
友世と君島議員の一悶着があった後、周囲の一般人の中ではすでに白虎隊一番隊隊長の素性についてざわついていた。
「さっきのあれって比翼連理のともよだったよな?」
「オレ前に野外ライブで観てたんだよ!近くで見ても可愛いなぁ。」
「白虎隊一番隊隊長って今までずっと秘匿されてた人物だろう?なんで黙っていたんだ?」
友世の知名度は一部ではあるがそこそこはあったらしい。誰がリークしたかはわからないが、すでにSNSではお祭り状態になっていた。
「…日江島さん。良いんですか?議員は良いとしても、一般人の前であのやり取りを行った事で一気に広まっちゃってますよ?」
先ほどの板挟みにあっていた若手議員の岩沼がお茶を淹れて持ってきながら尋ねる。礼を言いながら熱いお茶をゆっくり啜りながら少し考えてから笑みを浮かべてこう話始めた。
「岩沼くん、彼女はスーパースターなのだよ。ガールズバンドのボーカルであり、白虎隊一番隊隊長でもある。きっと更に活躍していくはずさ。若いものはドンドン挑戦していかなくちゃいけない。歳を取れば責任が大きくなるばかりでいかん。でも、若いやつの挑戦に関われて責任を持つのは年長者の特権だよ。そう思えるようにキミも沢山挑戦すると良い。責任は持ってやるから。」
「ですが日江島さんのように全ての方が立派な考えを持っているわけではありません。ですので私の目標は日江島さんのような考えを持って周囲に接することができるような人物になる事です。ですから今後ともご指導お願いします。」
その話を聞くと一瞬驚いたような顔をした日江島だったが、嬉しそうな笑みを見せながら立ち上がると岩沼の背中をポンポンと叩きながら。
「白虎隊は沖田を中心にこれから忙しくなる。あいつらを支えてやってくれ。」
そういうとまた座ってお茶を啜るのであった。




