白虎隊一番隊隊長
「あいつがアリス!?何をバカなこと言ってるんだ?」
晴明は怪狸の顔をみて尋ねるが、ウソをついている雰囲気ではない。
「間違いありません。この雰囲気、それと魔力はアリスです。以前ほどの強い力ではないものの、間違うはずがありません!」
「………だって、お前がアリスっていう人物は…、友世だぞ?」
そう言われて怪狸は顔をよく見る。そこには確かに見慣れた少女の姿があった。だがここで怪狸はある事に気がつく。
「晴様。私は今まで直接友世さんにお会いした事がありません。他の御三方はあるのですが、友世さんを観るのはいつも画面越しでした。」
だから今まで気がつかなかったという事なのか?それにしてもチャンスはいくらでもあったはずである。それこそ友世が意図して怪狸から離れない限りは……。
そのときである。このやり取りに気がついた友世が顔を少し赤らめながら、気まずそうにしてやってきたのだ。
「…まさか怪狸さんがここに来るなんて思わなかったよ。うまくやれてたと思ったんだけどなぁ。」
つまり晴明の考察通り、自身がアリスである事を隠していたというわけである。でも何故隠していたんだろうか…。
すると今までうつむき気味でモジモジしていた友世であったが、観念したのか吹っ切れた様子で晴明を見つめた。
「ま、仕方ないか!バレちゃったならもう隠す意味もないよね。むしろ動きやすくなったって事で良い方に考えよ〜!皆でてきて!」
そう声を掛けたかと思えば、ポンポンポンっとコビトのような式神が4体現れたのである。
その中には恐山で出会った雪菜が混じっていたのであった。
「友世さんの右側にいる3体がそれぞれニンフ、ノーム、ヴァルカンです。前にお話しした、アリスの使役する上位精霊です。」
ここまで言われてもまだ晴明の頭は追いつかないでいた。じゃあ友世はすでに二千年を生きるバンパイアってことになるのだろうか?など、様々な疑問が湧き出るのだが、今は急いで国会議事堂へ救出に向かわなければならないときである。晴明は頭をクシャクシャと掻きむしりながら思考を巡らせていたのだが、顔をパンッと叩いて思考をリセットした。
「とにかく友世、この件は後で説明してもらうからな!今は国会議事堂へ急ごう。」
晴明はまずはすべき事をしようと行動に移す事を提案し、その場にいた全員が納得して移動を開始したのであった。
空港の敷地内を出ようかというタイミングで、意を決したように友世が話しかけてくる。
「あのね!先にこれだけは伝えておくね!わたしにもアリスの記憶は無いの。晴明くんもドウジとしての記憶は無いんでしょ?だから、…その〜……、ね!」
なにか気まずそうに顔を赤くしてモジモジしているのが気になるが、言いたいことは伝わってきた。つまり友世は『アリスを前世に持つ』という事なのだろう。不死のバンパイアだったアリスがどのようにして終焉を迎えたのかは分からないが、晴明と同じ生まれ変わりと言うことなのだろう。確かに友世にはちゃんとご両親が存在している。
「別に黙ってた事を追求したり怒ったりはしないよ。事情もあるんだろ?だから後でじっくり情報交換しようぜ!だからこの話は一旦終わりだ。」
晴明としても気にならないわけではない。アリスの記憶は無いものの、前世でのやり取りは怪狸を通して聞いている。むしろ世話になった面もあるだろう。
(友世とは前世からの付き合いだったってことか。……ってもしかして顔を赤くしているのは!?)
晴明は怪狸から聞いた話を思い出しながら、アリスとの最後の約束について思い出したのだった。しかし友世は晴明の発言ですっかり平常心を取り戻し、にっこりと微笑みながらもう一つに爆弾発言をしていくのであった。
「分かった!後で必ず時間作るから!それともう一つだけ秘密があるんだよね。これは教えたくても立場上守秘義務ってやつで教える事ができなかったんだけど、どうせ今回バレることになるから先に伝えておくね。」
そう前フリをしてから。
「わたしがアリスを『前世』に持つ、魔法を駆使する覚醒者。白虎隊一番隊隊長の沖田友世です!」
無邪気に笑顔を見せながら、4体の精霊を引き連れて走っていく。
「ああ………って、は!?隊長??それは聞いてないぞ!!」
晴明は改めて沖田友世という少女を知ることになったのであった。
羽田から永田町まで距離にしてもかなり歩くことになる。しかし今回はそれだけでは無い。途中で意味不明な生き物に襲われたり、瓦礫で道が至る所が歩き辛かったりするのである。それでもこの2人は止まる事もなく一定の速度を保ちながら走っていく。道中のモンスターは友世の使役する精霊4体が蹴散らし、晴明も途中の火災を護符で消し止めていく。怪狸は飛空鬼と言われるイッカクのような生き物に乗って空から情報を伝えてくれている。この完璧な布陣により、思いのほか早く到着する事ができそうであった。
「一度ここで休憩しよう!あと1時間もしないうちに目的地に着けそうだし、無理してこっちが疲れちゃったら救出もできないしね。」
友世はそういうと、フーッと一息つきながら、コーヒーショップの外に置いてあった飲食用のテーブルに腰を下ろした。だがここまですでにかなりの距離を走ってきているはずなのだが、汗はかいているもののまだまだいけそうな雰囲気である。対して晴明はすでに肩で息をしている状態であり、友世の休憩案は晴明のためのものなのはすぐに理解できた。
「ぜ〜ぜ〜苦しそうにしていて申し訳ないなぁ…。もっとスタミナつけなくちゃダメか。」
晴明は申し訳なさそうに反省を述べるが、友世はにっこり笑顔で。
「むしろここまで走ってくるだけの体力があるのがすごいと思うけどね!わたし実は精霊から強化魔法掛けてもらってるから大丈夫なだけで、何もなければとっくにバテてるよ。」
っと優しくフォローしてくれるのだ。
どうやら友世の能力などは同じ白覚醒者でもかなり違うらしい。晴明の使役と違い友世の精霊契約は身体強化も得られるのだから、伝説クラスの精霊が付いているのはそれだけでもチートだろう。そう思うとあのイッカクみたいなクジラもどきに乗せて貰えば良かったと少し後悔するのであった。
しばらく休憩してからまた走り始めたのだが、国会議事堂に近づくにつれてモンスターとのエンカウント率が上がってきた。
「全部相手にしてたらキリがない!邪魔なヤツだけを叩いて、なるべく無視していこう!」
大きいやつから小さいやつまで様々なモンスターが蔓延っている。それでも全てのモンスターがこちらに気がついた瞬間に襲ってくるわけではなく、逃げ出すものもいる。晴明はこのモンスターたちが完全に野生動物と同じ行動をしていることに気がついた。
「だったら走る道を初めに炎で囲えばいいんじゃないか?クマでもライオンでも火は避けるだろ?」
晴明の提案に友世は目を輝かせ、すぐに精霊にお願いする。
「ヴァル!お願いできる?」
その言葉に反応したのはヴァルと呼ばれた見た目赤いサンショウウオの精霊であった。怪狸がスッと近づいてきて説明してくれる。
「あの間抜けそうなカエル顔がヴァルカンと言って火の精霊の中でも上位の存在です。火というよりも、炎ですよ。」
なるほど。アリスは4代精霊のうち3体を引き連れていたと聞いた事がある。確か火と水と地と契約していたとか。つまり炎で隔てた道なんて瞬間的に作れるという事なのだろう。
ヴァルカンが口から炎をブワーッと吐き出すと、見事な炎のアーチが出来上がったのだ。案の定火を怖がってモンスターは近づけない様子。
「……さすがだね晴明くん。本当に近づかなくなっちゃったよ!」
どうやら半信半疑で試したことが思いのほか上手くいきすぎて呆然としてしまったらしい。晴明の両手を掴み、くるくると回りながら喜んでいる。
(可愛いい!!いや可愛すぎるうううう!?モンスターじゃなくて友世に悶絶死させられるわ!!!)
緊迫した場面のはずなのだが、2人の周りはピクニックにでもきたような雰囲気になっている。その光景に怪狸や精霊たちは顔を見合わせてため息をつくのであった。




